歴史絵巻第二十幕 Let's Go城巡り~長浜城~
明けましておめでとうございます。
今年こそ頑張ります!
一年以上間開きましたが久々に城巡り書きました。
今回は長浜城です!
長浜城と言えば豊臣秀吉が築城した滋賀県の城…ではなく、沼津にも同じ名前の城があり、そっちに行きました。
なんでこのタイミングで書いたかって?
そりゃ沼津を舞台にした映像作品の映画が公開されたからですよ。
「あの…!村上さん!ずっと好きでした!付き合ってください!」
ある日、歴史研究部の部室へと歩みを進めていた山中鬨哉は、曲がり角の向こうから聞こえてきたそんな声に、思わず足を止めた。
生徒会活動終わりの彼の心臓は不意にバクバクとこれ以上ないくらいに脈を打ちはじめた。
咄嗟に体を翻し、曲がり角に隠れ聞き耳を立てていた。
「え…えっ!?あ、あの…」
乙葉は顔を赤らめ、腕を後ろで組んで俯いていた。
告白した主は、鬨哉や乙葉から見ると一つ上の野球部の先輩で、ピッチャーをつとめるエース的な人。
先生からの信頼も厚く、生徒会でも先輩の女子が話題に出していたため、鬨哉も一方的にではあるが知っていた。
そんな人が乙葉に告白している場面に出くわしてしまったのだ。
「返事!急ぎません!待ってます!次の金曜日、またここでこの時間に!」
後輩にも物腰柔らかな野球部のエースは、ユニフォーム姿でまるで試合前の挨拶のごとく脱帽し、手紙を押し付けるように渡して一例。
そのまま鬨哉の前を目もくれず走り去って行った。
乙葉は暫くその場に立ち尽くしていたが、廊下の窓から軽く外を眺めたかと思うと部室の方へと歩きだした。
鬨哉は胸の鼓動が落ち着くのを待ってから歴史研究部の部室へと向かうのであった。
鬨哉が部室へと入ると、そこには乙葉の他に焙烙晴海と吉川すみれ、それに読書中の大祝楓がいた。
今日は1年生は課外授業で不在。
「おー、遅かったじゃん。腹でも壊したか?」
「いやそんなんじゃ…」
すみれの冗談にすら笑って返す余裕がない鬨哉だった。
「元気ないね、どしたの?すみれにいじめられた?」
「あははー、そんなんじゃないですよ」
楓の問いにもなんとなく上の空になってしまう。
「乙葉もなんか元気ないし、二人ともなんかあった?」
晴海も二人の様子がおかしいことに気づいていたらしく、気になっていたようだ。
そこで乙葉が口を開く。
「あの、野球部の武田さんってどんな人ですか?」
武田さん。
それが野球部のエースの名前。
「武田くん?同じクラスで席近いんだけど、優しくて真面目くんって印象ね。女子にも人気あるし。狙ってるの?ライバル多いんじゃないかしら」
「楓よく見てるね。好きなの?」
そこにすみれが割って入った。
恋愛話をするときのすみれは何やら楽しそうだ。
「んー、そういう訳じゃないわよ。私はもっとヒョロンとしてる方が好み!たまに話すだけよ。武田くん友達多いからテストの情報とか聞き出すのに便利なの!
「はいはい腹黒巫女さんよ」
「いいじゃないの。情報でアドバンテージ取るのは大事よ。で、乙葉ちゃん、武田くんがどうしたの?」
こじれかけた話がもとに戻る。
乙葉はふっと息を吐いて、少しうつむいた。
「あ、いえ…。ええと…なんでもないです…」
この反応にすみれと楓がニヤニヤしながら顔を合わせる。
「武田くんはいい人だよ。彼女の噂とかも聞かないしフリーなんじゃないかな?早くしないと誰かに取られちゃうかもよ?」
「いや!あの!そんなんじゃなくて…!」
「いいんじゃないか?人を好きになるのは普通のことだし。そういや明日二人で出掛けるんだろ?気を付けてな」
この手の話にあまり興味がない晴美が話をすり替えたことによって、この話題はここまでとなった。
晴美が言う二人というのは、乙葉と鬨哉のこと。
明日は二人で静岡の沼津まで行く予定なのを晴美は知っていた。
事の始まりは今週の頭になる。
乙葉が水族館のペアチケットを部活に持ってきた。
「これ友達から貰ったんだけど、ペアチケットなんだよね。ヤマト一緒に行く?」
乙葉がそんな話を鬨哉に持ちかけたのだ。
どうやらチケットを買ったものの、予定が入って行けなくなった友達から貰ってきたらしい。
有効期限が迫っているので、行けるなら使ってほしいと託された代物。
そこで乙葉はたまたま先日部活に行く途中で会った鬨哉を誘ったのだった。
「行ってきます!淡島!なんか島一つまるまる水族館になってるんですって!船で行くみたいです!」
さっきまで悩みを抱えているような顔をしていた乙葉だったが、明日の話になると途端にテンションが上がる。
「ヤマト!明日は7時に駅に集合ね!」
「はいよー、了解!」
「途中ちょっと寄り道しようか」
「寄り道?まぁ、全然いいけど…どこだ?」
「えへへー、お楽しみ!」
二人の会話を聞いて、やはりと言うべきかすみれがちゃちゃをいれる。
「おっ!デート?いいなーいいなー!」
「違いますから!」
同時に否定した二人の顔は赤らんでいた。
翌日、朝。
二人は沼津に来ていた。
綺麗に透き通った青い海には、南国を連想させるような青い魚が泳いでいた。
二人はバスに乗り、暫し海沿いを行く。
町中を抜け、建物が減り始めた頃にバスを降りる。
「潮の香りがするずらー!」
「ずら?」
テンションの高い乙葉とやってきた沼津。
小さな漁港のすぐ横。
海へとせり出した岬のような地形だが、上へと登っていく階段がある。
乙葉は少し駆け足ぎみに鳥居横の階段とトコトコと5段ほど登り、鬨哉の方を振り返る。
「じゃじゃーん!ここ長浜城だよ!」
「長浜…城?え?城?」
「そう!一回来てみたかったんだよね!海賊の城だよ!」
今回二人がやってきたのは長浜城。
長浜城といえば一般的には豊臣秀吉が建てた滋賀県の城が有名だが、ここ沼津にも同名の城がある。
大正時代には目下の入り江でマグロが獲れたというほど水産物に恵まれた土地に建てられた長浜城は、北条家が海軍の拠点とするために建立した山城であった。
2015年に荒れ地だったこの場所は公園として整備され、現在では案内板も設けられている。
「ほら!行くよ行くよ!」
走り出した乙葉を追い掛けるように、鬨哉も歩き出す。
「メインは水族館かそれとも城巡りか…」
鬨哉は苦笑いを浮かべて階段へと足を掛けるのであった。
階段を登り、まず現れたのは第四曲輪と呼ばれる広くない空間。
「城に入るにはまずここを通らなきゃいけないでしょ?だからこの曲輪は敵を迎撃しやすいようになってたと思うの!」
「へぇー…ホントだ。幅5.5メートル、高さ1.5メートルの土塁があったってさー」
うろうろしながら写真に記録する乙葉と、看板を読む鬨哉。
乙葉の写真記録が終わると、次にやって来たのは虎口に差し掛かる。
虎口とは城の玄関に当たる部分で、敵を迎え撃つための仕掛けが成されていることが多い。
「なんか跳ね橋があったみたいだよ」
看板を見ながら鬨哉が言う。
「跳ね橋?」
「うん。なんか堀の跡の両脇に柱の痕跡があったとか書いてある」
「そんな橋がここに!」
「ただ、後に堀が埋められて門になったみたい」
「あらら、そうなんだ」
虎口を抜けると続いて現れるのは第三曲輪。
残念ながら現在は大半が削り取られていて当時の形ではない。
しかし、発掘調査から建物や柵が作られていたことはわかっており、北条家お得意の側面攻撃を加えやすい構造となっていた。
さらに進むと、腰ほどの丸太が何本も地面に刺さっているような広場に出る。
ここが第二曲輪である。
「おー、なんか再現されてるみたい」
「あ!ほんとだ!」
第二曲輪は長浜城の中でも最大面積を誇る。
兵舎や兵糧庫もここに建てられていたようで、丸太はそれらの建造物の柱を再現している。
「あっ!堀が残ってる!」
乙葉が指差した先にあったのは、灰色の岩がくり貫かれたような堀の跡だった。
「これ何?石の岩盤かな?」
「掘るの大変そう…」
当時の苦労を想像しながら、再建された櫓に登る。
「階段が急だし狭い…」
「現存の天守とかこんな感じだから、柱の跡に合わせて再建したんじゃないかな?」
岬だけあって、少し登るだけで眺めが良い。
これなら確かに物見をするには良いかもしれない。
この櫓はそのまま第一曲輪へと繋がっている。
第一曲輪は長浜城の中で最も高い場所に作られている。
中枢とも言える、指揮官が指揮を執る場所だ。
「眺めがいいな」
「そうだね。三枚橋城もよく見える」
「三枚橋城?」
「武田勝頼が建てた、北条から見たら敵の城だね。沼津市内にあるよ」
「へぇー…」
「ここは武田に対抗するために安宅船っていうでっかい船を沢山配備して備えてたんだ」
「そうなんだ…」
………。
しばらく二人並んで景色を眺める。
行き交う船を無意識に目で追う。
会話が途切れると、嫌でも思い出してしまうのがあの告白シーン。
乙葉はなんて返すんだろう…。
そんな事ばかりが鬨哉の脳裏をぐるぐる回る。
「私もね、時々思うんだ。未来をどうしようかなって」
乙葉が急にそんなことを言い出したので、鬨哉は黙って続きを聞くことにした。
「実はね…この前……その…告白されちゃって……」
鬨哉の胸に稲妻が走る。
気になるけど、聞きたくない。
聞きたくないけど、聞きたい。
乙葉はどう答えるのか…。
「…そっか、よかったじゃん」
素っ気なく答えるしかできなかった。
「よかった…のかな…。相手の人のこと、私は全然知らないんだよね」
その答えに、少しだけモヤモヤが晴れていく気がした鬨哉。
「で、なんて答えるの?ちゃんと答えないとモヤモヤしたまま引きずっちゃうよ」
「…うん。どうしようかな…なんて答えれば…ん?何でヤマト私がまだ返事してないって知ってるの?さては見てた?」
「いやっ!あの!それは!!えーと…!?」
やってしまったと思ったが、もう遅い。
「はぁー、相手が誰かとか聞いてこないから全く興味なしかと思ってたらまさかヤマト君見てたわけですかーほぉ~」
ジト目でジリジリと迫る乙葉に、鬨哉はたじろぐしかなかった。
「あははっ!まぁいいか!見られてたなら話が早いね!そう言うわけだから!」
さっきまでの重たい空気は払拭されたが、鬨哉の中にはまだモヤモヤが残る。
「どうするんだよ返事は!」
つい雰囲気に押されて核心を突く質問をして、ハッとする鬨哉。
「もう!なんでヤマトが泣きそうな顔してんの!相談してるのは私だよ?」
「なっ!別に泣いてないし…!返事はどうすんだって」
「うーん、ここでOKして青春ぴっかりしてもいいんだけどねー。ヤマトが可哀想だから断ってあげる!」
「なんで俺…」
「なんか泣きそうだし。そもそも、私相手の事知らないんだって!知らないのに付き合えないよ。で、どう断れば傷つけないか教えてもらおうと思ってたの」
今まで堰止まっていた不安が一気に消え去り、鬨哉は膝から崩れ落ちた。
「ね、あれって淡島かな?水族館の!」
鬨哉の横で乙葉が指差す先には島があった。
本日の目的地、マリンパークがある淡島だ。
「さて、そろそろ次に行きますか!さぁ出発だ!」
第一曲輪の先にあったのは、腰曲輪。
第一曲輪に付属する曲輪で、全部で4つある。
敵の海からの侵入を防ぐ目的があったと考えられている。
腰曲輪を抜けると、いろいろ岬から降りるように道が続いている。
降りきると、安宅船を原寸大で再現してあった。
「でかいな。これ人力で動かしてたの?」
「うん。手漕ぎだよ」
「うわ、まじかよ。どうやって攻撃すんの?」
「大砲付いてたんだよ。あと、狭間っていう穴が空いてて、そこから弓とか鉄砲を撃つの。城の壁に三角の穴空いてるのみたことあるでしょ?あれと同じよ」
「すげーな昔の人」
安宅船の横には発掘調査で見つかった石垣が展示されていた。
最近整備されたばっかりなのもあり、看板も綺麗で読みやすい城だった。
「ふーっ!堪能堪能!面白かったね!海賊の城!」
「そうだなー」
鬨哉としては乙葉の告白騒動が解決した方が大きかったのだが。
「で、どうやって告白って断ればいいの?」
「あ、えーと…普通に断ればいいでしょそんなの」
「好きな人がいますって言えば良いかな?」
「えっ!?いるの?」
「そりゃ私だって好きな人くらいいたっていいでしょ!」
「えっ誰?」
「秘密ー!少なくとも、私は一緒に城巡りもしたこと無いような人は好きになったりしません!さーて、水族館行こう!ペンギンが待ってるよー!」
乙葉はバス停まで駆け出した。
それに続いて跡を追う鬨哉であった。
そして金曜日。
返事の日。
「ごめんなさい。私、好きな人がいるんです」
乙葉は静かにそう告げるのであった。
友人が「聖地巡礼するからお前も来い。でも見たことないと面白くないだろうから行く前に全部見ろ」と言ってきたのが事の始まりでした。
一晩で某スクールアイドルアニメを全部見たわけですよ。(同時2期放送前でした)
見てたらどうも城跡のような場所が出てきたので、聖地だからと理由を付けて行くことにしました。
第二曲輪の写真はアニメに構図を合わせてあります。
小説内の台詞も意識しまくってるところがあるので、気付いた方もいるのでは?
因みに私はずら丸とりこっぴー推しです。
さて、城の話をしましょう。
長浜城は海賊の城でした。本編では城主などには触れませんでしたが、いまいちハッキリしていないためです。
築城もハッキリしておらず、氏政が改修したくらいしかわかっておりません。
出土した品が少ないことも謎を深めることに繋がっています。
岬に作られた山城ということで、海を眺めながらの登城ができ、景色も中々良いです。
私が行ったときは城見てる時だけたまたま雨が止んでいたような天気でちょっと残念でした。
整備されたばかりなのもあり綺麗ですし、駐車場も港を使ってよいということですから中々オススメです!
聖地巡礼や釣りの合間にどうでしょう?
願わくばマグロが足元まで回ってくるのを見たかったですね…。
残念ながら釣りする時間は無かったのですが、沼津は深海魚水族館などもあり楽しい場所です!
是非行ってみてください!
冷凍シーラ!カンス!!はここでしか見られませんよ!
というわけで今回は長浜城でした!
名古屋に友人がいる関係でちょこちょこ城巡りできたので、そのうち書きたいと思います!
今年もよろしくお願いいたします!