歴史絵巻十五幕 Let's Go 城巡り~江戸城~
長らく執筆してました江戸城登城記がやっとこさ書き終わりました。
今回はトランペッターさんのキャラ、劉温さんを迎えての登城となります。
写真200枚とにらめっこして書くんですからそりゃ時間かかるよね~と言い訳してみたり…。
ダメですね。はい。
舞台は春。
さっぴつ始めたのも春。
投稿したのは夏!
そんな作品です。
昨日の会話の内容を確認しておこう。
まず、ヤマト。
「ん~…。悪いけど、明日は生徒会の方で仕事が…。4月は忙しくてさ…」
なんて苦笑いしてた。
次はすみれ先輩。
「右に同じー」
手をあげながら言ってた。
右には誰もいなかったけど、順番からしてヤマトだろう。
次は楓先輩。
「ゴメン!神社の仕事が忙しくてっ!」
そう言って顔の前で手を合わせてたよね。
続いて先輩は…。
言い出しっぺだから来るはず。
新入生は…。
明日香ちゃんは確か…。
「行きますよ!どうせ暇ですから!」
来れると。
ひなちゃんは…?
「はい…。行けます…」
半ば明日香ちゃんの引っ張りだけど来るって言ってた。
紗代ちゃんは…。
「行きましょう。江戸城」
感情には出してないけどすごく楽しみみたいだった。
先生も来るらしいし…。
思い出した。
だからこそ言うしかない。
「何で全員勢揃いしてるんですか!?」
ここは校門前。
乙葉は規定の時間にやってきた。
そしてそこにやってきた人物に突っ込みを入れたのだ。
楓とすみれと鬨哉は来れないはず。
でもいる。
「俺とすみれはついでにというか…お見送り?」
「そーゆーこと。どうせ生徒会室に籠もってるだけだしね」
「籠もってるだけじゃなくて仕事はしてくれ…」
鬨哉は軽くため息をついた。
すみれの活動態度が手に取るようにわかる。
「じゃあ楓先輩は?」
「私は氏子さんちが近所で、偶然通りかかったらみんないたからさ」
そんな理由でまさかの全員集まったらしい。
「さて、乙葉も来たし、我らが顧問を紹介しよう!」
晴美がそう言って仕切った。
校門前で顧問の紹介もなかなかすごい。
「我らが顧問!毛利先生です!」
晴美がいい、謎の拍手。
校門を通る生徒が数人振り向いた。
「えっと…。歴史研究部顧問の毛利由佳です。一年生の皆さん、宜しくお願いします」
軽く頭を下げた。
「じゃあそろそろ行きますか!」
「はいっ!」
晴美の呼び掛けにみんなが返事をして駅に向かった。
「じゃあね~。こっちも頑張るから」
「ほんとに頑張るの?また俺に仕事押し付けてどっか行くなよな」
鬨哉とすみれがそんな話をしている。
「じゃあ私もそろそろ行くね」
楓も手を振ってから歩き出した。
江戸城。
東京駅の丸の内駅舎をバックに歩くと辿り着く。
レンガ造りの東京駅を象徴する駅舎である。
「この駅舎、新しく造り直したんですよね?」
「埼玉県深谷市で取れたレンガを使って造られたこの駅舎は、つい最近空襲前の姿に復元されたばかりです」
紗代がしれっと説明した。
「…むぅ」
それを見ていた明日香。
なんとなく不機嫌そうな顔。
「東京駅って秘密の通路が沢山あるんだよ!皇居に繋がってたり、核シェルターになってたり!」
そんな発言をした。
「あっ…。(それ都市伝説の域を出ないよ)」
そう思いながら発言しなかったひなた。
「それ都市伝説ね。でも、東京駅に霊安室があるのは本当。今は使ってないけど」
相変わらずの無表情で紗代が言った。
「ひっ…!晴姉ぇ!早く行こう!」
紗代の言葉を聞くなり晴美の手を引いた明日香。
怖いものは苦手らしい。
「紗代ちゃん詳しいね」
「いいえ。たまたま知ってただけです」
紗代が言うとやたら説得力を感じる。
そう思った乙葉だった。
「じゃあ行きましょうか。皇居なら近いはずですよ」
由佳先生がそう言って、東京駅丸の内駅舎に背を向けて歩き出した。
駅舎から出て真っ直ぐ歩けば現れる。
江戸城。またの名を皇居。
東京の都心にはそぐわない堀が現れるので、その存在がよく分かる。
堀の周りを多くのランナーがマラソンしている。
一向はランナーとは逆向きに歩いてまわることにした。
時期は桜が丁度満開。
所々に咲く春の風物詩の下で写真を撮る人も多い。
「桜綺麗ですね!」
「うん!ワザと桜が満開の東京にしたかいがあったな!」
ちょっと立ち止まり乙葉と晴美はそんなことを話していた。
その時…。
「あの、写真撮ってもらえないアルか?」
そう呼び止められた。
察するに中国からの観光客といったところだろうか。
一人旅なのか、他に知り合いなどは連れていない様子の女性。
年齢は二十歳くらい。
「はい!いいですよ!」
乙葉は手渡されたコンパクトデジカメのシャッターを押した。
「ありがとネ」
「いいえ。ご旅行ですか?」
カメラを返しながら聞いた。
「そうアル。今日のために日本語も勉強したアル。中国人が日本語を話すときはアルをつけるのが普通らしいアルね」
「いやぁ…。そんなことは…」
テレビアニメでたまにいるくらいである。
「『アル』の由来は諸説あってはっきりしません。中国語の『ある、いる』を表す『有』を日本語読みにした説。中国人が日本語を学んだ時に一番簡単な肯定・否定が『ある』『ない』だった。あるいは昔実際に『アル』を付けて話していた人がいたという説。正直よく分からないことが多いです」
会話に入ってきた紗代が由来について説明した。
「あなた詳しいアルね!」
「前にちょっと調べる機会があっただけですよ」
自慢する様子も無く、紗代はサラッと言った。
「そう言えば、皆さんも江戸城見学アルか?」
話題を切り替えた女性。
「皆さんも」ということは、彼女も恐らくは。
「そうですよ。学校の部活で見学です」
今度は晴美が答えた。
「じゃあ、もし無理がなければ、案内して欲しいアル!」
「私はいいですよ!みんなは?」
晴美が部員に確認を取る。
「私も全然OKです!」
「私も!ひなもね!」
「…う、うん」
「私も、案内できるほど詳しくはないですが」
誰も反対しないことを知っていてきいた。
「先生もいいですか?」
「はい。よろしくお願いします」
晴美が最後に由佳先生に確認を取った。
「ありがとうアル!私、劉温っていうアル」
「私たちは高校の部活で来ました」
乙葉が説明した。
「よろしくネ!」
「こちらこそ!」
今回の城巡りは新入生に加え劉温と一緒となった。
「紗代ってなんでそんないろいろ詳しいの?」
「ちょっと前に調べただけ。興味があったから。明日香も好きなことには詳しいでしょ?」
「そうだけど…。晴姉ぇにも知識で勝てるかもよ?」
「それは言い過ぎ」
明日香と紗代が話していた。
少し前ではひなたと晴美が話しながら歩いている。
「ひな、江戸城は初めて?」
「…はい。あ…でも…。東京駅には何度か…」
「そうか。修学旅行とかで集合場所になるもんな。歴史は好き?」
「(修学旅行は学校集合だったんだけど…)」
「ひな?」
「あ、いいえ。…歴史は苦手です」
「ま、今日は大丈夫だろう!学ばなくていいから楽しもう!」
「…はい!」
先頭を歩くのは乙葉と劉温。
「えー!?じゃあ劉備と関羽と張飛って兄弟なんですか!?」
「そうアルよ。義理の兄弟アル。桃園の誓いで順番を決めたんアルよ」
「桃園の誓い?」
「知らないアルか?木登りで兄弟の順番決めたアル!」
「それじゃ力のある人が長男じゃないですか!」
「いや、登らなかった劉備が長男アル」
「何故!?」
「木は地面から生えるし、根元が一番太いから、地面にいた劉備が長男になったアル」
「そんな…適当な…」
「三国志なんてそんなもんアルよ」
「まあ戦国にも適当な話しはたくさんありますから」
和気あいあいと話す部員たちを見て、一番後ろを歩く由佳先生は安心していた。
一年生も活動に参加してくれた。
知らない人の同行にも反対者がいなかった。
なんとも雰囲気がいい部活である。
由佳先生はそれが嬉しかった。
東京駅から歩き、最初に現れたのは和田倉門。
門前にかかる和田倉橋を渡ると現れる門跡である。
この門は橋と一体となっていたらしい。
鉄砲が10丁、弓が5本、長槍10本、持筒2つ、持弓1組が常備されていたことも説明の看板からわかった。
徳川家康が江戸に入った時の地名が和田倉だったらしい。
警備は譜代大名が担当していた。
和田倉門跡の看板があるのは、堀にかかる橋の前。
現在門は修復されていないだけに、橋なのに門跡となっていて違和感がある。
「ここは…橋だよね?」
「…橋だね」
「門じゃないよね」
「…えっと…?」
明日香の質問に困ったのか、ひなたは乙葉を見た。
「渡ればわかるよ!」
乙葉はそれだけ言うと、先陣を切って橋を渡った。
渡った先には両脇に石垣があり、そこが門であったことがわかるようになっていた。
「この石垣が門跡アルね!」
劉温が指差して言う。
「これが門?」
腑に落ちない様子の明日香。
身長分くらいしかない石垣がちょろっとあるだけだから、確かによくわからないのも納得ではある。
「お城の門ってもっとでっかくて、目の前の橋は持ち上がるんじゃないの?」
「明日香、そんな門のほうが少ないんだよ…」
晴美は妹の方にポンと手を置くのであった。
和田倉門を抜けるとあるのは和田倉噴水公園。
これは平成にできた新しい公園である。
そこを抜けると現れるのが、建物が残る門。
「桔梗門」
「内桜田門ですね!」
紗代と先生の声が被った。
由佳先生、スマホ片手にお勉強中でした。
「ん?どっちが正解アルか?」
劉温が聞いた。
「どっちも正解ですよ。三の丸の南に建つこの門は、普通内桜田門と呼ばれます。でも、別名が桔梗門なんです」
乙葉が笑う。
「太田道灌の家紋、『太田桔梗』が瓦についていたらしいです。因みに、太田家の桔梗紋の特徴は花弁が細長いことです」
晴美が説明した。
残念ながらこの門は柵で近づけなくなっている。
見張りの人もいる。
ここが皇居だということを露骨に示している。
内桜田門のすぐ横には巽櫓があった。
二重櫓で、三の丸の南にある大きな櫓である。
「あ、なんかお城っぽい!」
櫓を指して明日香が言った。
「…お城だからね」
ひなたが苦笑している。
「あれは巽櫓。二重櫓だけを見ると国内最大級の床面積を誇る大きなもの」
「桜田二重櫓…ですよね?」
「そうそう」
晴美の説明に紗代が割り込んだ。
「巽櫓の別名が、桜田二重櫓だな」
「そうですね」
「へぇ…。でっかいんだぁ…」
そんな二人をしり目にひなたがポツリとつぶやいていた。
内桜田門を過ぎると現れるのが坂下門。
しかし説明看板もなければやはり柵によって近づくこともできない。
軽く見てスルーした。
その次に見れる名所が…。
「あ、ここ知ってる!テレビで見た!」
「私もパンフレットで見たアルよ」
有名どころ。
正門石橋。
皇居と聞いて思い浮かべるのはここ!という人も多いはず。
左に西の丸大手門。
その前に石橋。
橋の下はアーチ状になっている。
ここは人がたくさんいて、写真を撮っている方も多い。
皇居のシンボルであることを実感する。
「写真撮りましょう!」
由佳先生がそう言って、みんなが並ぶ。
もちろん劉温も一緒に。
先生が適当な人にカメラを渡してシャッターを押してもらうことになった。
この橋の周辺には桜が無いのが少し残念だが、奥に伏見櫓を見ることができる。
そんな背景の前で、記念写真。
劉温にとってもいい思い出となるだろう。
「そういえば、あの櫓はなんですか?」
珍しく紗代が晴美に質問した。
さっき背景にした伏見櫓を指している。
「あれは伏見櫓。西の丸に現存する二重櫓。伏見城にあったものを家光が持ってきたらしい」
「家光って何代目アルか?」
「3代目ですね。鎖国した人です」
劉温の質問に答える晴美。
正面石橋はやはり柵で進めないので、マラソンランナーが走っているルートを進む。
すると現れるのが重要文化財、外桜田門。
なのだが…。
「ありゃ、工事中だ」
乙葉がつぶやく。
外桜田門は見事に工事されていて、中が見えなくなっていた。
白いカバーですっぽりと覆われていた。
「本来なら高麗門と櫓門が見れる予定だったんだけど…」
晴美が頭を掻いた。
「昔は小田原口という名前の門でした」
唐突に紗代が言った。
「小田原?なんで?小田原って静岡じゃん!」
「…小田原は神奈川だよ」
「…。小田原って神奈川じゃん!」
明日香がひなたの訂正を受けて言い直した。
「昔北条家の支城だったの。その名残」
「あれ?先輩?ここですよね。変が起きたの」
乙葉が晴美にきいた。
「ああ、桜田門外の変ね」
「あ、それ聞いたことあるアル」
劉温も名前は聞いたことがあるようだ。
「1860年3月3日。彦根藩主の井伊直弼が水戸脱藩士に暗殺された事件です」
晴美が説明。
「ああ、井伊直弼ね。テストで伊井って書いてバツ食らったからあの人キライ」
「…そんな理由で?」
「うん。ひなたは間違えなかったの?」
「…あたしは…井伊直介って書いた」
事件現場で二人は社会テストあるあるを話していた。
外桜田門からの道は桜がきれいに咲いていた。
そこを過ぎると見えてくるのが半蔵門。
またの名を麹町口門。
「さて、この門を守っていた人は誰でしょう!?」
先生が突然クイズを出した。
「ん~…。警備員さん?」
「それは…今現在ですね」
明日香の回答に笑う一同。
確かにここは他の門同じく柵や警備員がいて近づけない。
「ヒント!ヒントください」
「え~と…。忍者と言えば…?」
「猿飛佐助!」
「…明日香ちゃん。それ実在しない人物だよ」
「ウソ!?」
ひなたの言葉に驚く紗代。
「佐助以外に知りませんか?」
先生が明日香に聞く。
「あ、松尾芭蕉!」
「いや、確かにそんな説もあるけどさ…」
晴美が笑う。
「ん~…。忍者ハットリくん!」
「の、モデルはわかりますか?」
「服部半蔵!」
「正解です」
この半蔵門は服部半蔵が守備していたことから名前がついた。
「ゾウが半分しか入れなかったからなんて説もありますよ」
紗代がそう付け足した。
城の西側にある門。
名所ではあるが、近づくことができないので軽く見て終わらせた。
そのまま堀の周りを歩く。
すると、桜がたくさん植えられた場所に行き着いた。
石碑が立っておりそこには「麹町高等小学校校舎跡」と書かれていた。
場所としては半蔵濠のわき。
千鳥ヶ淵公園の中。
「えっと…?つまり高等学校?それとも小学校?」
「小学校アルね」
明日香に劉温が答えた。
そのまま歩き続けると、北の丸公園に入った。
入り口には桜がきれいに咲いていた。
「ちょっと休憩しようよ!」
そう言って、明日香は近くにあった円形の石垣のようなものに腰かけた。
「あ、明日香が座ったそれ、戦時中に使われたB29迎撃用高射砲の台座よ」
「え?これが?」
紗代に言われ、明日香が周りを見る。
同じようなものがいくつもある。
現在は休憩用の椅子にしかなってないような感じだけど…。
さらに歩くと出てくるのは乾門。
真っ黒くて大きく、どこかかっこいい。
警備員がいて通れないのはもう諦めである。
「かんもん…?」
「いぬいもん」
ハテナマークを浮かべる乙葉に晴美が教えた。
確かに読めないかもしれない。
門の前には桜の木があり、とてもきれいだった。
乾門を過ぎると次はいよいよ北桔橋門が現れる。
この門、本丸への境目にある。
「明日香、この橋は昔跳ね上げられたんだよ」
「おお!それは城っぽいね!」
「ここは大奥とか天守とか近いから守りが堅いんだ」
「ふ~ん…」
この門を通ればでてくるのが。
「大きいアルね」
「…大きい」
間近でみると結構でっかい、天守台である。
「この天守台は4代目。高さは18メートル。天守が燃えた翌年、加賀の前田が建てたものなんだ。まぁ、この上に天守が建つことはなかったんだけど」
「どうしてアルか?」
劉温の質問に晴美が答える。
「天守よりも城下の復興を優先した結果ですよ」
晴美はそう言って笑った。
「花崗岩使ってるんですね」
先生が言った。
天守台に使われた石の種類だろう。
「積み方は切込接っていう、隙間ができないようにして積むやり方ですね」
乙葉が天守台を見て言った。
天守台に登れる側を正面にみて右側の側面に、黒い線がたくさん入っている石がたくさん使われていた。
「これってなんです?」
乙葉が晴美に聞いた。
「これ、天守台が燃えた跡だよ。石は火災のときのやつ使ったんだ」
「こんなにはっきりと…」
しばらくそれを眺めていた。
天守台へと登ってみることにした。
スロープがついていて登れるようになっている。
上には芝生が敷いてあり、少し高いので眺めがよかった。
目の前が開けているせいかもしれない。
天守台を降りて、本丸を歩いてみる。
茂みの中にあった看板に書かれていたのは「大奥跡」。
今や華々しくも真っ黒い大奥は跡形もない。
その次は富士見櫓が現れる。
これは現存する唯一の三重櫓。
「これはどこから見ても近世が取れた形をしていることから八方正面の櫓とか呼ばれてます」
紗代が言った。
「火災の後、天守代わりに使われたんだってさ」
晴美が言った。
残念ながら中には入れない。
かつては領国の花火や品川の海が見れたらしい。
「あれ?さっきの櫓って何て名前だったアルか?」
「伏見櫓です」
劉温の疑問に先生が答えた。
「じゃあこれは…?」
「富士見櫓ですね」
先生が笑って答えた。
何ともややこしい名前である。
次に見つけたのは…。
「あ、これは知ってる!ひなた!殿中でござるー!」
「え?…え?」
「もう…。ノリが悪いなぁ」
明日香が見つけたのは「松の廊下跡」の看板。
江戸城で2番目に長く、畳敷きの廊下だったらしい。
名前の由来は廊下の襖に松と千鳥が描かれていたからとか。
「まぁ、確かに浅野が吉良を切った廊下ではあるね」
「赤穂浪士アルね!」
「厳密にいうと、浪士が立ち上がるきっかけになった事件ですかね」
松の廊下があったというこの場所も、今では茂みとなっている。
大廊下の次は富士見多聞が現れた。
「多聞って初めて見るかもしれません。多聞櫓は結構ありますが…」
乙葉が言った。
「確かにね。多聞単体はあんまり聞かないな」
多聞とは、防御の意味で石垣の上に建てられた倉庫。
この多聞には弓と鉄砲がおさめられていたらしい。
多聞の次は石室。
漢字の通り、石でできた部屋である。
広さは20平方メートル。
「ここはなんですか?」
先生が聞いた。
「なんだかよくわからないらしいですよ。抜け穴説、金蔵説などあるみたいです。でも、一番有力なのは非常時に大奥の日用品を入れたっていう説ですって。場所から考えたみたいですが」
乙葉の言うとおり、ここは大奥御納戸のわきにあたる場所らしい。
残念ながら内部までは見ることはできないが、説明看板に写真が貼られている。
次に一行が目指したのは田安門。
だが…。
隣接する武道館で大学の卒業式が行われていた。
そのせいで…。
「人が多いですね…」
「多すぎるアル…」
「これは…。門をゆっくり見てる場合じゃなさそうだな」
ごった返す中に突っ込んではぐれたら大変なので、遠くから見学。
「田安門は江戸城最古の門なんだ。関東大震災で櫓部分が壊れたんだけどね」
周囲に合わせて、晴美の説明の声も大きくなる。
ちょっと見たらすぐに引き返した。
「あ~、まさか卒業式にあたるとは…」
「それは仕方ないですって」
乙葉が笑う。
「まぁ、次の清水門は大丈夫ですって!」
乙葉がそう言って、一行は歩き出した。
「清水門!ってあれ~…」
乙葉が拍子抜けしたような声を出す。
それもそのはず。
「また工事中ですね…」
先生が苦笑。
「外桜田門に続き清水門までが…」
仕方ないこととはいえ、ちょっと残念。
「この門、当時の姿をよく残している門なんだ」
「じゃあなおさら見たかったですね…」
シートに覆われた門を見ながら乙葉は嘆くのであった。
次にやってきたのが平川門。
「平川門。別名お局御門」
紗代が言った。
奥女中の通り門だったことが由来とされる。
「…あれ?この門、もう一つ入り口がありますよ?」
ひなたが発見したその入り口は。
「あ、そっか。ここか。それ不浄門だよ」
晴美がさらっと言った。
「不浄門って何アルか?」
「えっと、犯罪者や死者を城から出すための門です。だから、不浄門」
それを聞いてひなたは数歩後ずさりしたのだった。
平川門の先にあるのが百人番所。
場内最大の検問所である。
「ここには鉄砲百人組が常に警備してたんだ」
「百人ってすごいですね」
「まぁ、常にいたのは20人らしい」
晴美と乙葉が話している。
そこに入ったのが紗代だった。
「25人一班で、甲賀組、伊賀組、根来組、二十五騎組の4班が昼夜交代制で警備してたらしいですね」
「そうなんだ!この建物ってどのくらい広いの?」
乙葉が紗代にきいた。
「詳しくは知りませんが、50メートル以上はありますね」
「これを100人で…」
なんとなく番所を眺めてしまうのであった。
百人番所の次は同心番所を見た。
「さっきのより小さいアルね」
劉温が言った。
確かに、さっきのはy九人番所と比べると3分の1くらいしかない。
「ここは位が低い人が見張ってたんです。基本的に城の奥に行けばいくほど上位の人が見張ってましたから。ここは行きかう大名の監視場所です」
紗代が説明した。
同心番所を見て、次へと向かう。
「ここ、門っぽいですね」
先生が言った。
だんだんと城の構造がわかってきているのかも知れない。
「そうです。ここは中之門跡ですね」
乙葉が言う。
足元に小さな石が置いてあり、それにより確信を得た。
石には「中之門跡」と書いてあった。
因みに之はひらがなでもいい。
「ここの石、大きいアルね」
「そうですね。城内最大の石ですから!」
きれいに四角く切り取られた石は、規則的に並べられているのであった。
中の門跡を抜けると右手に出てくるのが大番所。
三つある番所もこれで最後となる。
「さっきの同心番所より上位者が警備してました」
紗代が言った。
ここは本丸の直前。
確かにさっきの場所よりは奥にあたる。
「番所は結構残ってるアルね」
「そうですね」
これで城内の見どころは全て見たことになる。
「じゃあ、あとは大手門側から出ましょうか」
「そうだね。そうしよう」
乙葉の呼びかけに
晴美が賛成し、一行は歩き出すのであった。
大手門。
これが城のメインゲートとなる。
外側は高麗門、内側は渡り櫓門。
その間に枡形の空間がある、いわゆる枡形門。
「この門、こっちのメインみたいな渡り門は再建ですが、外側の高麗門は現存ですよ」
晴美が言った。
「意外と現存のものがあるアルね」
「そうですね。確かに戦災受けた割には多いかもです」
話していると、ふと目に飛び込んできたものがある。
「あ、鴟尾!」
「え?なんで!?シャチホコでしょ!?」
明日香が指差して変なことを言うもんだから、晴美が突っ込んでしまった。
「鴟尾とは、東大寺とかの屋根に乗ってるシャチホコみたいなやつです」
紗代が説明する。
「シャチホコって雄雌があるんですよ」
「違うのは大きさだけなので、セットじゃないとわかりません」
乙葉に紗代が返した。
目に飛び込んできたのはシャチホコだった。
かつて空襲で焼失した渡り櫓門のものらしい。
色は鈍く光る黒。
立派なシャチホコだった。
これで江戸城制覇。
劉温とも別れることになる。
「今日は楽しかったです。ありがとうございました」
「こちらこそありがとうアル。シェイシェイ」
そう言って乙葉と劉温は握手を交わした。
「私たちはこれでもう帰ります。劉温さんはどうされますか?」
「飛行機まで時間があるから、東京を見て回るネ」
「そうですか。では、ここで!」
「ありがとう。楽しかったアル。再見」
みんなで手を振って別れたのであった。
「江戸城って門たくさんあるんですね」
「結構見れないのも多いけどな」
「あれ公開してほしいですね」
「警備の関係で難しいんじゃないかな」
電車内で眠ってしまった後輩たちの横で、ずっと話している乙葉と晴美だった。
江戸城はなかなか良かったですよ。
ただ見れない門が多過ぎて…。
半蔵門とか見たかったなぁ…。
途中道間違えて同行した五円玉さんに怒られたりしました。
げどーさんからは「こいつが道間違えるのはちゃんと地図見てなかったこちらに非があるよ」とまで言われたっけ…。
因みに行った順番通りに執筆してますから、地図見るとどこでミスったのかわかると思います。
なんでわざわざこっち見てからこっちに行った?みたいな場所があるはずです。
おもに番所らへんで…。
次は何を書きましょうか…。
上田城とかですかね。
たぶん間はあきますが…。
日常編もよろしくです!