歴史絵巻第十幕Let's Go城巡り~多和目城~
戦国時代に最も被害を出した武器は弓矢、二番目が槍、三番目が石だと聞きました。
刀はほぼ活躍しなかったとか…?
これ、本当なんですか?
とある高校の社会科研究室。
今日も三つの声が響く。
しかし、普段と違う声が一つ。
顧問の毛利由佳先生は職員会議でただいま職員室。
それなのに声が三つなのは、新しく入った部員の存在があるからだ。
六時限目の授業の終わりを告げる鐘の音を今か今かと待ちわびた。
そして、歓喜に満ちたその瞬間から約5分後。
今日も歴史研究室に集まり、楽しげに週末の城訪問について話していた。
「あ~ごめん。私、今度の週末は修学旅行なんだわ」
この歴史研究部唯一の二年生であり部長の焙烙晴美がそう言った。
先ほどまでの楽しげな雰囲気は一変。
少し沈む。
「あ、でもさ。2人でどっか行ってくれば?私は京都で巡ってくるから」
雰囲気を変えようと晴美が言った。
「そうですねぇ。でも…」
ハッキリと賛成の意を示せない、一年生の村上乙葉。
みんなで行かないと楽しくないとでも言いたげな表情である。
「んじゃさ、ちょっと行ってきて欲しい城があるんだけど…」
普通に行ってきなと言っても乙葉は素直に賛成してくれないだろう。
そのことは分かっていた。
ならば、お願いするという形を取ればいい。
晴美は言葉を続けた。
「多和目城に行ってきて欲しいんだ。埼玉の坂戸ってとこにある山城だ」
晴美の愛読書である『写真で見る日本史跡大図鑑』の中から適当に選んだ城跡を提案する。
「分かりました。行ってきます!」
乙葉よりも早く返事をしたのは、歴史研究部期待の新人。
生徒会との兼部ながらも、多忙時以外は必ず顔を出してくれる山中鬨哉だった。
「おっ!頼もしいね。んじゃ、頼んだよ。乙葉もね」
「分かりました!」
「先輩も楽しんできてくださいね」
2人の返事に笑顔をこぼす。
「ありがと。お土産は買ってくるから」
こうして多和目城への出陣が決まった。
「そう言えば、今年の修学旅行ってどこなの?」
鬨哉が乙葉に聞いた。
「京都・奈良らしいよ」
「それじゃ中学と…」
「ほら、今年は平安遷都…?」
「1302年ッスネ」
「だからだよっ!」
「!?」
こんな感じでしばらくグダグダな会話をしたあと、三人は部室を後にした。
さて、迎えた土曜日。
今頃晴美は京都を満喫してるんだろうなぁ…。
あ、奈良かも!?鹿とか!?
それとも多門山城!?
そんな想像をしながら鬨哉を待つ乙葉。
ここは待ち合わせ場所の最寄り駅北口噴水前。
山城ということでしっかりした靴を履いてきた。
髪はちょっと高目でまとめたポニーテール。
しっかり歩ける格好で来た。
待つこと数分。
鬨哉登場。
「ごめん。待った?」
「いや、そんなことないよ?」
なんとも定番な会話から始まった城巡り。
2人は電車に乗り、川角駅へ。
目標とする城は、ここから徒歩20分。
車が無いと不便な位置にある。
降りてすぐ大学の脇を通り、あとは川沿いに進んでいく。
中学校の前を抜け、そのまま歩くと「城山橋」という橋が出てきた。
高麗川にかかる橋である。
その橋の横から河原に降り、向かって右手に延びる狭い道を行く。
「乙葉、この道であってるの?」
「ん~…。多分…」
自身無さげな乙葉。
鬨哉も不安になる。
周りにあるのは山と川。
どこの赤穂浪士の合言葉だよ…。
それでも進む乙葉に、仕方なく付いていく。
左手に「城山棚田」と看板が立っている、4段程の棚田がみえてきた。
棚田と呼ぶには規模が小さすぎる気がしないでもないが突っ込まないでおく。
棚田を過ぎたところを左折した。
そこはもう完全な山道だった。
「あ、山だ。これが城山かな?」
乙葉が言う「城山」は、多和目城がある山の名前だ。
「城」は十中八九多和目城のことだろう。
山道を進む2人。
足元のアスファルトは湿っている。
「そう言えばさ、多和目城って、田波目城とも言うらしいよ」
「どっちでもいいよ…。似たようなもんだし…」
「それがさ、ここ坂戸市には多和目って地名があって、すぐ隣の日高市には田場目って地名があるんだよ。田場目もすぐ近所らしいよ」
「ややこしいなぁ…」
雑談しながら坂を登る。
登り初めてすぐ、「百歳坂 夏は涼しく冬は暖かい百歳」と書かれた看板があった。
百歳坂とはこの山道のことであろうか?
しかし、何故最後が「百歳坂」ではなく「百歳」で切れているのかは不明だった。
坂を登り切ったら今度は降る。
そうして山を越えたところにお目当てはあった。
山の入口に立つ看板には「多和目城入口」の文字。
その横には大きな説明看板が。
「着いた!」
「け、結構疲れたよ…」
乙葉はピンピンしてるのに対し、すでに息が上がり気味の鬨哉。
到着するや否や、乙葉は看板に駆け寄る。
「へぇ~。残ってるのは空堀と土塁かぁ…」
看板を見ながら呟く。
「築城の 時代も知らぬ 多和目城」
鬨哉は一句詠んだ。
「あ~それ坂戸市文化かるたでしょ?」
「そうそう」
実は看板に書いてあるだけだったりするのだが。
「おっしゃー!じゃあ城山登るぞー!」
「ふぁ~…」
テンションが高い乙葉に対し、鬨哉は疲れていた。
さて、城山をどんどん登っていく2人。
乙葉を先頭に、鬨哉が後ろに続く。
完全に登山である。
途中で、地形が盛り上がっている場所があった。
「土塁…かな?」
「いや分かんないって…」
さらに歩いて頂上へ到着。
これと言って説明の看板は無かった。
あるのは配水池のみ。
実は、この多和目城が発掘調査されたきっかけはこの配水池だったりするらしい。
「ここさ、川越城主の扇谷上杉家に攻められたんだよね。その時に、割と近くにある市で狭山っていうのがあるんだけどさ。狭山市民の半貫内膳と、日高市民の新節次が戦ったんだって。あんまり詳しいことが分かってない城だけどね」
乙葉が笑って話した。
「なんだそれ…。ご当地城跡じゃん。俺その2人とも知らないんだけど…」
「私も知らないよ。確かにご当地色が濃いかもね。因みに、縄文時代の住居跡も三つ見つかったらしいよ」
「それは…。川沿いだからかな?」
「それはあるかもね~」
そんな話をしながら城跡を見て歩いた。
残念ながら状態が良いとは言えず、わずかに土塁跡が分かる程度だった。
「ん~。なんか、良くわかんなかったね」
「先輩居なきゃ厳しいんだね。乙葉も勉強不足だな。あはは」
「これから、勉強するからいいの!」
談笑しながら下山した。
「よし、駅まで歩きますか~」
「そうだね。あ~…車があれば…。そこの市民グラウンドに停められたのにぃ~!」
多和目城のすぐ近くにはグラウンドがあって、駐車には困らない。
それだけに歩くのは悔しかった。
「まぁいいか。1人じゃないし」
「ん?今何て言った?」
「何でもないよ~!」
ちょっと早歩きで川角駅へと向かった2人だった。
城山棚田は幼稚園所有だそうです。
地元の城でございました。
次の城旅行記は晴美の修学旅行側で書きたいな~と思ってます。