歴史絵巻第九幕Let's Go城巡り~甲府城・武田家縁の地巡り~下
前回の続きです。
ちょっと反省してスピード展開にしてみました。
早くなり過ぎないように気を付けはしたんで、多分大丈夫かと…。
大泉寺駐車場へと到着した一行は、下車するとゆっくりとした足取りで歩き出す。
駐車場から寺までは少し歩くのだ。
ほんの少しだけど…。
4人を最初に出迎えてくれたのは、寺の門であった。
いかにも木像の古めかしい門。
「おお~。なかなか趣のある門ですね!」
門を見るなり感嘆の声を漏らす乙葉。
「この門はな、1710年に建てられた永慶寺っていう寺から持ってきたんだが、その当時の物なんだ」
晴美が説明してくれた。
その門をくぐりぬけた先には、本堂に向けて一直線に伸びる道があった。
道の両脇には杉並木。
舗装はされていない土道で、長方形の石で3本直線的に参道を示していた。
4人は、杉並を眺めながら進む。
天気も手伝って心地よい涼しさを感じる道をのんびり歩く。
そると、本堂に辿り着いた。
しかし、わき目もふらず晴美は歩いて行ってしまった。
本堂を見学するものだと思っていた3人は度肝を抜かれる。
「あ、あれ?晴美ちゃん?本堂はいいんですか?」
「先輩?そっちにも何かあるんですか?本堂を見てからでも…」
由佳先生と乙葉が質問する。
「まぁ、着いていこうぜ。晴美先輩のことだから何かあるんだと思うし」
そう言って歩き出す鬨哉。
「あ、本堂はそんなに重要じゃないんだ!門と…こっち!」
晴美は立ち止まって指をさす。
そこには、「風林火山」と書かれた青い旗が立っていて、その奥にはまた門。
コンクリート塀で囲まれた区画に入るための、一か所だけある門である。
鍵がかかっていて中は見れなさそうだ。
その事実に、ちょっと肩を落とした。
3人。残念ながら鬨哉には魅力が伝わらなかったようだ。
3人がガッカリしたのも無理は無いのだ。
門には「武田信虎公之墓」と書かれた看板がくっつけられているのだから。
「はぅ!?の、信虎ですか!?まさかの超有名人…」
驚きで目を見開く乙葉。
「暴君信虎のお墓ですか。晴美ちゃん、なかなか素晴らしいチョイスですね!」
由佳先生が言うように、信虎は暴君として有名である。
自分の気分で敵にも味方にも刀を抜く…。そんな人であったと伝わっている。
「な~乙葉…?信虎って誰?」
鬨哉が聞いた。
「ヤマト知らないの!?武田信玄のお父さんだよー!信玄に国を追放されたの!」
「ダメ親父じゃねーかよ…」
3人の会話が盛り上がっている中、晴美は1人で門の隙間から中を覗いていた。
「ん~…。風林火山と書かれた緑色の木製の軍配が置いてあるな。あとは賽銭箱と花。寺の中にもう一つ寺がある感じだな」
というのは晴美談。
覗いて見えた景色を伝えている。
「実際は、この建物の中に五輪塔があって、それが墓になってるらしい。1521年に信虎が建てた菩提寺だから、墓があるのはおかしなことではないけどな」
付け加えて説明した。
この後みんなが門の隙間からなかを覗き、車に戻ることにした。
残念ながら墓となっている五輪塔を拝むことは叶わなかった。
車に戻ってきた4人。
次の目的地は…。
「次は武田信玄公御墓所に行きますよ!」
カーナビをセットした由佳先生が声を響かせた。
「うげっ!?は、墓?大丈夫なのか?そんなとこ行って…」
おびえる鬨哉。
そんな彼に声を描ける乙葉。
「大丈夫でしょ。呪われたりしないって!それに、次の場所はちゃんとした墓とはちょっと違うんだ」
「ちょっと違うって?」
「信玄が火葬された場所!墓は恵林寺とか諏訪湖とかだよ」
「余計怖いわ!」
後部座席で繰り広げられる会話に、鬨哉って意外と怖がりなのかなぁ~と疑問の眼を向ける晴美だった。
もうこの旅ではすっかりお馴染みとなった10分ちょっとの移動を挟み、目的地に到着。
道沿いにポロッとある墓なので、駐車場は無い…と思いきや。
向かい側にある幼稚園の駐車場の一部を武田信玄公御墓所見学者のために解放していた。
実にありがたいことである。
無事に駐車した4人は、いざ墓所へ。
屋根が設けられた先に石でできた門。
そこを抜けると立派な墓が一つ立っていた。
墓石には「法性院大僧正機山信玄之墓」と、武田信玄の戒名が刻まれていた。
「ここで…」
「ああ…」
それだけ呟いた。
乙葉と晴美にはその場所の重みがわかる。
武田家の歴史を刻む時計の針が、狂いだしたこの場所。
信玄の死によって武田家は墜ちていった。
そんな歴史のターニング・ポイントなのだ。
「墓だな。こんな住宅地になぁ」
鬨哉にとってはただの墓だったようだが…。
さて、武田信玄公御墓所を見終えた4人。
車に戻るわけではなく、横目に見ながら通り過ぎる。
半ば幼稚園の中を歩いていき、敷地の端っこにあるフェンスの扉の前で立ち止まる。
看板と石碑が立つその場所に、ゆっくりと扉を引いて入って行った。
「河尻塚…?戦国時代ですと河尻秀隆でしょうか?」
「おお、乙葉知ってるのか。私は良く知らないんだが…」
「えと…。詳しくは知らないんですが、確か織田家家臣ですよね。圧政を敷いて嫌われたとか…」
「私も、肖像画だけならイメージ浮かんでますよ」
笑いながら晴美と乙葉の会話に由佳先生が割りこむ。
「へぇ~。一揆で討ち死に…。よっぽど嫌われてたんだな」
看板を読んでいた鬨哉が呟いた。
「まぁ、圧政を敷いてたからね…。これ、首塚でしょ?」
乙葉が鬨哉に聞いた。
「いや、住居跡説もあるっぽいよ?でも、逆さに埋められたからさかさ塚とも呼ばれてるって書いてある。首塚なのかなぁ?」
看板を読む限り、はっきりとは伝わっていないようであった。
塚は石製。
70センチほどの大きさの小さなものだった。
自然石に形は近いが、文字が彫られている面は平らだった。
刻まれた文字は「河尻肥後守之霊碑」。
しかし看板には「秀隆は肥前守に任ぜられているので、碑文に刻まれている「肥後守」は謝り」と書かれていた。
「間違っちゃったんだ…」
「えと…。たまにあること…です…よね?」
鬨哉の呟きに苦笑で答える由佳先生であった。
その後車に乗り込みもう何度目か数えるのも止めた移動。
目的地となるのは円光院。
目的もやはり墓である。
ここは一般のお墓もあるため、駐車場は気にしなくて良い。
「墓シリーズはここでラストですね」
由佳先生が言った。
なんとなく心が落ち着いた鬨哉。
今回は目的がお墓のため、本堂はスルー。
山の斜面に造られたお墓の群れ。
そこを登っていく。
中腹にあったのが…。
「武田晴信室三条氏墓」である。
石塔が3本立つ立派なお墓である。
「三条って誰?」
鬨哉が聞いた。
「京の三条公頼の二女だよ。武田信玄の正室」
乙葉が言ったように、ここは武田晴信の正室、三条の方の墓所である。
これで信玄の父、母、奥さん、本人の火葬場を巡ったことになるのだ。
残念ながら息子の墓には行かないのだが…。
「ここでは三条の方の葬式を盛大に行ったんだ」
晴美が説明してくれた。
「さて、そろそろ行きましょうか!次がメインになりますよ!」
由佳先生が促し、上ってきた坂道を下りていく。
そして車に乗り込みカーナビセット。
メインの目的地…。
「武田神社」を入力したのだった。
「次はいよいよ武田神社ですよ!」
「待ってました!」
「いよいよですね!」
由佳先生の発表に盛り上がる車内。
やっぱり鬨哉だけ遅れ気味…。
車でちょっと走るとすぐに武田神社に到着。
まずは…。
「あ、お土産見て行っていいですか!?」
乙葉の提案でお土産屋に寄ることとなった。
立派な観光地であるため、神社の前にはお土産屋が点在している。
買うものが決まっていたらしく、乙葉はすぐに買い物を済ませた。
「何買ってきたんだ?」
「これです!信玄餅ですよ」
乙葉の手には赤い包みで丁寧に包まれた箱。
信玄餅とは、きな粉の中に埋まっているに黒蜜をかけて食べる餅である。
山梨の定番土産の一つ。
由佳先生も乙葉が買い物している間に、買い物を済ませたようだ。
手にはソフトクリーム。
きな粉と黒蜜がかかっている。
「先生、それは?」
鬨哉が聞いた。
「ふふ、これは信玄アイスです。名物らしいですよ」
名物と聞いては放ってはおけない。
結局4人揃ってのお買い上げとなった。
アイスを食べながら境内へと向かう。
本堂は立派なものであった。
しかし、本当に見たかったのは本堂ではなかったりする。
宝物殿。
なんとも心踊る響き。
さっそく入ってみよう。
鬨哉を除く3人が、入ってそうそう目を奪われることになった。
「あ、あああ!これって…!えっ!?」
「おおっ!まさか…」
「実物をお目にかかれるなんて…!?」
「ん?こんな本に何かあるの…?」
3人を興奮させた本の題名。
「甲陽軍鑑」。
戦国ファンなら誰しもが知る超有名史料である。
その実物が目の前にある。
ある種の感動を覚え、離れるのが惜しいといった感じでお国進んでいく。
「あれ?盾無しの鎧は…?」
「無いですね。実在したんでしょうかね?」
晴美の疑問になんとも心もとない言葉を返した乙葉だった。
宝物殿を出て境内を見て回る。
当時の生活を偲ばせる井戸跡、石垣が一部切れた部分は門の跡だったらしい。
武田水琴屈なるものまであった。
耳を澄ませると、水が水滴となって落ち、琴の様な綺麗な音を響かせる。
それが水琴屈である。
甲陽軍鑑の実物を見れたことに満足しながら、今回の旅のメインである武田神社を後にした。
鬨哉にとってはただの神社だった。
今回の旅はこれで終了になる…のだが。
「先生、まだ時間ありますよね?」
時計を見ると現在2時。
まだまだ巡れる時間である。
「はい、ありますけど…。どこか行きますか?」
晴美の問いに答える由佳先生。
「はい、積翠寺です。信玄誕生の寺です」
それを聞いて目を輝かせる乙葉。
「行きましょう!」
乙葉が宣言した時には、車は積翠寺に向けて走り出していた。
しばらく山を登るように入った場所にある小さな寺。
それが積翠寺だ。
寺の入り口には「機山武田信玄公誕生之寺」との石碑が。
間違いなく晴美の言った通りである。
「ここからもっと山奥に行ったところに要害城って城もあるんだけど…。残念ながら今日は時間無いな」
素晴美の言う城も見てみたい気がしたが、時間が無いなら仕方ない。
4人は寺をゆっくりと見学することにした。
寺の端っこにある小さな建物。
その建物の扉を開けてみた。
勝手に開けていいものか迷ったが、せっかく来たのだ。
扉に手をかけ、乙葉は扉を開けたのだった。
「あっ…!」
乙葉は息を飲んだ。
小さな武田信玄の像が祀られていた。
「先生!ヤマト!先輩!」
それぞれ別々に寺の境内を歩きまわっていた3人を呼んだ。
「これは…信玄の銅像!」
「信玄がいかに大切な存在か…。それを表しているみたいですね」
「これが…武田信玄か。駅前のとそっくりだな」
今回の旅はこの銅像で締めくくることになった。
「さて、車に戻りましょうか。…あっ!」
由佳先生が何気なく正面をみると、そこはとても見晴らしが良いスポットだった。
「あ~。晴れてれば最高の景色だったでしょうね」
ちょっと残念そうな乙葉。
「ま、また…来ようよ…。2人で…」
「えっ…?ヤマト、何?」
「な、何でも無いよ!」
鬨哉の呟きは、小さすぎて乙葉には届かなかったようだ。
そんな光景を見ながらニヤニヤする晴美。
「…?なんて言ったんだろ…」
「まぁ、乙葉。そのうちわかるよ」
それだけ言い残して晴美も車に乗ったのだった。
帰り道。
運転手の由佳先生以外は眠りについた。
乙葉と鬨哉が互いによっかかって眠る光景は、なんとも微笑ましいものだった。
残念ながら車の振動で、本人たちが起きる前にはその状況は解除されてしまったのだけど…。
旅から帰って最初の登校日。
山中鬨哉はいつものように生徒会室へ向かった。
「こんにちは~」
挨拶をして教室に入る。
いつも通りの光景。
「あ、すみれ!歴史研究部のことで話が…」
鬨哉が話しかけた女子生徒。
吉川すみれ。鬨哉とは幼馴染みの一つ上の先輩。
ただ、すみれも鬨哉も、年齢は全く意識していない。
そもそも、すみれという知り合いがいるから生徒会に入ったのだ。
今思えば、歴史研究部に入れば…。
「ん?どうだった?歴史部」
軽い反応を見せるすみれ。
「部費の無駄遣いなんてしてなかったぞ」
そう。歴史研究部に無駄遣い疑惑を向けたのはすみれであった。
当然、調査結果を報告する鬨哉だったのだが。
「ん?そんなことじゃなくて~。楽しかった?」
「え?」
予想外過ぎる質問が飛んできた。
「あはは!ホントに信じてたんだ!ハルミンに限って無駄遣いなんてするわけないじゃん~!あははは!」
やけに楽しそうなすみれ。
晴美とは同学年。同じクラス。
大の仲良しである。
「え?だって、すみれが言ったんじゃん!」
状況が飲み込めない…。全く…。
「あれ、嘘。で?楽しかった?」
「う、うん…」
「そ、なら良かったじゃん。乙葉ちゃんとは?どこまで行った?」
その質問に大きく焦る。
「おおお、乙葉となんて、べ、別に何もないよ!どこまでとか意味分かんないし!」
「はは~。せっかくチャンスを作ってあげたのに。あ~もう。いっそ生徒会と兼部しちゃいなさい!」
「そんな無茶な…」
「でも、楽しかったんでしょ?」
「うん…。そりゃ楽しかったけど…」
「良し決まり!兼部決定!これであの部活も安泰だ~。良かった良かった」
安泰って…?どういうことなんだろうか。
そんな疑問が頭に浮かび、聞かずにはいられなかった。
「え?あの部活ヤバかったの?」
「え?うん。3人以上部員が居ない部活はよほどの実績とか例外が無い限り潰されちゃうんだ。あんたも生徒会ならそれくらい知っときなさいよね~!」
そんなこと言われたら断れないじゃないか!
結局、なんだかんだ言いつつすみれも友達の為に動いたのだ。
「じゃあすみれが兼部すれば…」
「あ、私はもう他と兼部してるからね。認められるのは二つまでだしさ」
なら、仕方ない。
兼部するしかなかろうが。
こうして歴史研究部は部員が3人となったのだった。
長かった…。
最後までお読みいただき、誠にありがとうございます。
あと二つ、ストックが…。
まぁ、そのうちにでも、ね。
実は、歴史関係無いので省きましたが、有名な観光地である「昇仙峡」にも行きました。
ここの「橋本屋」っていう店のほうとうが絶品でございました!
昇仙峡、素晴らしい渓谷でございましたよ。
武田家巡りでしたら、ついでに寄る価値は十分あります。
要害城、行きたかったなぁ~…。
今回の新キャラ、山中鬨哉と吉川すみれ。
名字は山中鹿之助と吉川元春から取りました。
名前は、鬨哉は我ながらよく頑張ったと思います。
すみれは可愛い名前がいいなぁ~と思いまして。
あ~、恋心とか…。良く分かんないんですよね~…。
どうしよ…。
甲府、楽しかったです!
実際、私が行ったときは曇ったり雨降ったり微妙な天気でした…。