歴史絵巻第九幕Let's Go城巡り~甲府城・武田家縁の地巡り~上
久しぶりな気がします。
甲府市内の武田家ゆかりの地を巡ってきましたので、そのお話です。
携帯換算で10ページあります。
正直、長すぎました…。
もっと細かく切るべきでした。
これでもまだ行った場所としては半分も書いてないんですけどね…。
とある高校の社会科研究室。
今日もそこで歴史研究部の活動は行われていた。
「先輩!今回は甲斐の国武田家巡りですよね!」
1年生の村上乙葉と…
「そうだ!今回は甲府市内にある武田家縁の地巡りをするぞ!」
2年生の焙烙晴美。
そして…
「じゃあ今回も車出したほうがいいですよね。甲府なら車の方が行きやすいですし」
顧問の毛利由佳先生。
以上、歴史研究部員。
明日の部活(城巡り)についての計画を確認中。
「学校集合ですよね。何時にします?」
「9時ならだいぶ余裕持って巡れると思いますよ」
乙葉の質問に由佳先生が答えた。
「じゃあ9時で。おー!ワクワクしてきた!」
「私もです!先輩!」
城巡りは何度もやってるが、一人を追いかけるように巡る今回のような旅は初めて。
しかも戦国最強として名高い甲斐の虎、武田信玄。
晴美と乙葉のテンションは高かった。
「では、信玄縁の地巡り!楽しみましょー!」
そう言って、由佳先生が今日の部活をシメようとしたときだった。
ガラガラ!
教室の扉が開く音がした。
3人同時に音の方を見た。
「生徒会から来ました。歴史研究部の活動場所はここですよね?」
開いた扉の前に立っていたのは男子生徒。
生徒会が何の用だろう?
3人の頭には?マークが浮いていた。
「あっ!ヤマトっ?何でここに?」
その男子生徒の登場に、最も早く声を発したのは乙葉であった。
「お、おお…おと…乙葉!?何でいるんだよ!」
乙葉の質問に質問で返すヤマトと呼ばれた男子。
「わたし、歴史研究部だからだよ。ヤマトは何で?」
「それは…この部活が、部費を乱用しているのではないかとの疑いがあってだな!その調査に…!」
「あのぉ~…」
ここにきて晴美が二人の会話に口を挟んだ。
「お二人さん、知り合い?」
「いきなり失礼しました。俺は一年の山中鬨哉です。生徒会やってます。乙葉とは同じクラスで、出席番号が一つ違いなんです」
先ほど晴美が口を挟んだところ、二人の会話は止まり男子生徒…山中鬨哉は改めて社会科研究室に入ってきた。
そして自己紹介をした。
「先ほども言いました通り、この部活が部費を無駄遣いしているという疑いがありまして、その調査にきました。とくに気にせず、普通に活動してください」
そう言われても…。
「あの…。今日はもう終わりなんですけど…」
申し訳なさそうに由佳先生が言った。
「えっ…?じゃあ…また来しゅ…」
そこまで言いかけた鬨哉の声を遮るものがあった。
「じゃあ明日一緒に来ればいいんじゃないかな!?」
乙葉だった。
「いい…一緒にって…。どこに…?」
「甲府!」
「遠いっ!そんな金無いよ!」
「車だよ?でもそっか。部員じゃないのに部費出すのもおかしな話だよね」
「部費なの!?それこそ無駄遣いじゃ?」
「じゃあ、本当に私たちの活動が無駄遣いか、ただの観光か。確認してみなよ!」
「わかったよ!車なら金もなんとかなると思うし!」
こうして今回の旅には鬨哉も同行することになった。
「先生、あのヤマトって子、乙葉と話す時だけ緊張してるというか…ムキになってませんでした?」
「確かにそうですね。乙葉ちゃんは気付いてないみたいですけど…分かりやすいですよね」
「乙葉も鈍感ですね~」
「まぁ、私たちはそっとしておきましょう」
こんなやり取りを由佳先生と晴美はしていたのだが、乙葉は知るよしもなかった。
翌日。天気は曇り。
晴れているよりは活動しやすいと、ポジティブに考えることにする。
集合時間より10分だけ早い校門の前。
そこには二人の人影があった。
学校は休みだが、チラホラ校門をくぐる生徒の姿を見る。
体操服姿なので何かの部活だろう。
既に5分、無言。
しかし、これが常の乙葉にとっては何も苦ではなく、むしろ今日巡る場所の下調べが出来る良い時間なのである。
ただ、 鬨哉にとっては違った。
俺が来たせいで乙葉が機嫌を損ねたんじゃ?
嫌われたらどうしよう…。
話さないと気まずい。
でも話題が見つからない…。
話し掛けたら馴れ馴れしいかな…。
余計なことが頭を巡り、結果として無言。
せっかく2人だけなのに…。
何だかデートみたい。
そんな考えが浮かび、また話すタイミングを失った。
…沈黙を破ったのは乙葉だった。
「ねぇ、ヤマト。好きな人いる?」
携帯電話のディスプレイに目を落したままの乙葉からの質問に、ビクンと背中を震わせた鬨哉。
そんなドストレートな質問…。
いっそこのタイミングで打ち明けてしまおうか。
そんな考えを消し。
「い、いねーよ!お、乙葉はいるのかよ?」
少し期待しながらも、答えがとても怖い質問をしてしまった。
すると乙葉は携帯から目を背けた。
「そりゃいるよ。可児才蔵とか、最近だと真田信之とか!有名どころだと、加藤清正かな!」
加藤清正…。鬨哉も名前だけなら聞いたことがあった。
誰だっけ?この学校のやつだっけ?
まぁいい。最悪、力ずくでも乙葉を奪ってやる!
「あれ…?加藤清正って知らない?虎を倒した人なんだけど…」
諦めました。平和主義で行こう。
鬨哉がとんでもないライバルが存在することに落胆しているところに、晴美が現れた。
「あ~そっか。今日は4人だっけ。でもまぁ、まともな場所で良かったよ」
そう言って、晴美が笑った。
「確かにそうですね!釜橋之碑とか片倉城とかじゃなくて良かったです」
「あれだと本当に部費の悪用だと思われかねないからな!特に歴史に興味ないと」
2人で笑っているが、鬨哉には全くわからなかった。
そして集合時間ぴったり。
いつものように赤い軽自動車が校門の前に止まった。
「おはようございます。4人は初めてですね!では、乗っちゃってください」
由佳先生が車内からそう呼びかけたので、3人は車に乗った。
晴美が当然と言わんばかりの顔で助手席に座ったために、後部座席は鬨哉と乙葉が隣り合う形になった。
まぁ、確かに当然と言えば当然なのだが。
知り合いらしいし…。
車が動き出してから暫く。
鬨哉を除く3人で会話が弾んだ。
「きょ、今日は、どこに行くんですか?」
そんな空気に入ろう、鬨哉が質問した。
乙葉の隣という緊張を隠す意味もあるだろう。
「えと…。なんかいっぱい行くんだよね~。まずは甲府駅前の甲府城だな」
晴美が質問に答えたころ、車は中央自動車に乗った。
「歴史研究部は、普段どんな活動を?」
やっと任務を思い出した様子で、どこかに部費の無駄遣いはないか探る鬨哉。
「普段は部室で調べ物がメインかな!週末にこんな感じで現地調査もやることもあるけどね。部費は本代と出掛けるときの足代くらいだよ?」
乙葉に部費のことまで言われて、返す言葉を失う鬨哉。
ってあれ…?
「足代も部費なの?」
「ん?そうだよ?部活として行ってるんだもん」
「そ、そうか。なら大丈夫か!」
そういうことで落ち着いた。
「もうすぐ着きますよ~!」
高速を降りてしばし走ったころ、由佳先生が唐突に言った。
窓の外を見るが、目の前には甲府駅。
歴史的な何かが有るようには思えない。
しかし、山梨県庁の横を曲がると…。
「おーっ!石垣発見!」
助手席の晴美が指差した先には確かに石垣が。
「甲府城ってこんな駅前にあるんですね」
「甲府駅は城の縄張りの中に位置してるからな」
「石垣の組み方はどのタイプでしたか?」
「ん~、ちょっとよく分からなかった。降りたら確認しよう」
乙葉と晴美の会話に入る余地の無い鬨哉だった。
城の周りを一周したものの、城跡見学用の駐車場などは無し。
仕方なくコインパーキングに車を停めて4人は山梨県甲府市に降り立った。
「やってきました!甲府!」
「県庁からも駅からも近い、アクセス抜群の城跡だな」
「駅からはともかく、県庁はアクセス抜群とは関係ないんじゃ…」
鬨哉の声は、テンションの上がった2人には届かなかった。
2人がまず始めにやってきたのは内松陰門。
駅から最も近い城門である。
門の前で待つ2人に、鬨哉と由佳先生も追いついた。
「この石垣は…あれですね」
「この石垣…ですか?なにか特別なんですか?」
キョトンとした顔で乙葉に尋ねた由佳先生。
「いえ、特別というわけではなく…。ただ、野面積みだなぁって思って…」
「ああ、そういえばそうですね。野面積みの石垣は、初めて見るんじゃないですか?」
由佳先生、最近戦国について猛勉強中。
その成果が出たのか、「野面積み」を知らないのは一人だけだった。
「確かに、こんな石垣見たこと無いかもです。しかも結構当時の石垣が残ってるみたいですよ!」
「それはスゴいですね!」
1人話についていくことが出来ず、目をパチクリさせていただけの男がやっとこさ口を開いた。
「野面積みって何…?」
「えっ…?」
突如として広がる沈黙。
さっきまでひっきりなしに通っていた電車や自動車の音までも消えたのではないかと錯覚するほどの沈黙。
そして、重圧。
なんだこのやらかした感は!?
冷や汗を隠しきれない一瞬を切り裂いたのは由佳先生だった。
「野面積みっていうのは、自然の石を加工しないでそのまま積んだシンプルな石の積み方です」
由佳先生がそう言うので、石垣に目を向けた。
大きな石の隙間に小さな石がはめ込まれている。
石の形は様々。
「なんか…簡単に崩れそう」
それが鬨哉の感想。
すかさず否定に入る晴美。
「いや、逆に加工された石じゃないほうが耐久力は高いんだ。見た目は美しくないけどな」
石垣に手をあてがいながら話した晴美。
美しくないからこそ、良い。
そんなことを言いたげな表情をしていた。
「ふ~ん…。信玄がこんな城を…ねぇ…」
鬨哉が独り言として呟いたこの一言が、また場の空気を変えてしまった。
「え?信玄…?この城、信玄関係ないよ?」
「え…?」
乙葉が小首を傾げながら、逆に何を言っているのかわからない、そんな表情をしてみせた。
「だって…武田家縁の地巡りなんじゃ…?」
困惑の表情を浮かべる鬨哉。
「そだよ。でも、舞鶴城は違うんだ!」
はい出ましたまた知らない単語。
どこだよ舞鶴城…。
でも、屈託の無い笑顔ではしゃぐ乙葉に見とれてる…ってそうじゃなくて。
「舞鶴城…?」
「あ、甲府城のことだよ。あと、甲府城を建てたのは信玄じゃなくて羽柴秀勝だよ。江の二番目の夫だよ」
今度は知ってる名前が出た。
確か去年の大河ドラマの…。
知ってるだけで親近感が湧く。
「んじゃ、そろそろ奥に行きますかい?」
二人の会話が切れるのを待って、進行を促す晴美。
「はい!」
それに乙葉は心地よい返事をしてくれるのであった。
さて、内松陰門を通り抜けた先。
さらに、当時の石垣が残っている銅門跡を抜けてすぐ。
左には石垣。
正面には天守台。
右には…?
4人の右手には、天守台よりも目立つ高くそびえる柱が立っていた。
四角柱だが、先端は尖っている。
高さは…30メートル程あるだろう。
一つ言えるのは、明らかに戦国時代の代物ではないということである。
4人はその柱に向かい歩いた。
「謝恩塔…?」
晴美が柱の台座に書かれている文字を読む。
「明治に天皇家が所有してた御料林が、山梨県に贈呈されたことを記念した謝恩塔みたいですね。出来たのは大正時代らしいです。オベリスクを模したみたいですね」
スマホを手にしながら語る由佳先生。
大正時代の代物が、今や甲府城のシンボル的な存在感を出している。
正直、乙葉や晴美にとっては謝恩塔よりその横で行われている工事の方が気になっていた。
白いカバーで覆われた工事現場。
しかし、謝恩塔の横だけ透明なビニールで、中が見れる。
「だいぶ出来てるんですね!」
「出来た頃にまた来たいな」
二人が見つめる先で行われている工事。
それは、城の門を再現するための工事であった。
白いカバーには「甲府城跡鉄門復元中」の文字。
今後が楽しみである。
4人は謝恩塔を離れ、天守台の方へと歩いた。
「ここにも何かあるみたいですよ!」
石垣の下の方を指差して声をあげた由佳先生。
確かに説明用の看板はあるのだが、先生の指が示したのは地面と石垣の隙間。
看板がなきゃ見逃し必至。
「…暗渠?なんだこれ?」
意味わかんね~とでも言いたげに鬨哉が言った。
「暗渠って知らない?石垣に溜まった雨水を出す場所なんだが」
「知りませんって…」
知ってて当然という口調で言われてしまい、威勢をそがれる思いがした。
そしていよいよ天守台へ。
「天守台は現存か…」
「明治天皇御登臨之址ですって」
「良い眺めですね!」
「へぇ~。これが天守台なのか」
思い思いの感想を述べた天守台の上。
因みに乙葉が言った「明治天皇御登臨之址」は、天守台の上にあった石碑に刻まれた文字である。
しばし天守台からの眺めを堪能した4人は、次の場所へと歩き出した。
稲荷櫓。
平成16年に再建された、今は資料展示の博物館となっている建物である。
のだが…。
「開いてないですねぇ…」
「おかしいな…。鍵がかかってる」
公開時間内だというのに、何故か中に入れない。
仕方が無いので移動開始。
「あれ?乙葉、この建物は見ないの?」
不思議そうな顔をする鬨哉。
「ん?うん。だって、再建された建物だからね!だったら現存する石垣や発掘結果とかのほうが興味あるかな!で、再建でも興味無い訳じゃないけどね」
そう言って稲荷櫓を離れ、次にやってきたのは二重の石垣。
見えていた石垣の奥に、発掘調査で表れた古い石垣。
石垣を積み直した跡らしい。
手前に現在見えている石垣があり、その上に少し奥まって古い石垣があった。
「石垣って二重になってたのか!」
「いや、ここの場合は…ですよ…?」
驚く鬨哉に苦笑する由佳先生。
石垣で驚くとは…。
そろそろ城に興味がでてきたんじゃないのかい?
密かにそんなことを考えていた晴美だった。
内松陰門から見て、天守を挟んだ裏側。
そこは地形的に天守より低い位置。
石切場跡があった。
甲府城の石垣の石を切り出していた場所で、そのための古い技術が周囲に置いてある石の表面には残っている。
そんな場所にやってきた4人。
「この辺の表面が人工的に切られた感じの石が、古い技術の跡なんだろうな」
「全て機械を使わずに手でって…。考えられないですよね!」
「…重たくなかったのか?」
「昔の技術ですか!なんだか感動ですね」
4人各々感想を述べた。
その石切場跡から少し移動したところに、ちょっとした水溜めがあった。
落ち葉などが積もっていて、御世辞にも水は綺麗とは言い難い。
小さな長方形の水溜めの中は、ビッシリと藻が生えているのがわかる。
「これが見たい!」と言う人がいるなら一度顔を見てみたいものである。
だから、これを見つけた瞬間「おっ!あった!秘密の水溜め!」などと駆け寄った晴美の顔をまじまじと眺めてしまう鬨哉なのであった。
「秘密…?堂々とここにありますけど?」
鬨哉は足元にある「秘密の水溜め」を眺めてみた。
「乙葉ちゃん、何が秘密なんですか?」
「えっと…。私にも正直…」
由佳先生が乙葉に聞いたのだが、残念ながら乙葉にも分からず。
情報を握るのは晴美だけのようだ。
「ふふふ…。この水溜めはな、城を描いた地図みたいなものがあるんだが、それに描かれていないのだ!発掘調査から明らかになった事実なんだ!」
晴美は声を大にして言うが、他の3人はキョトン。
「書き忘れ…ですか?」
由佳先生が聞いた。
「多分違います。攻められた時、水の補給路が断たれるとマズいです。なので、場所を隠すためにわざと描いてないんだと思います」
「それで、秘密なんですね!」
この後、もう一回り城を見て甲府城跡を出た4人。
しかし、車には戻らずに向かった先は甲府駅。
「山梨甲斐の国といえば!?」
「武田信玄です!」
「やはりそうだよな!んじゃ、やっぱり甲府駅は外せないな」
歩きながら盛り上がる、晴美と乙葉。
「鬨哉君、歴史巡りを楽しんでますか?」
「はい。歴史関係はさっぱりですが、いろいろ解説付きで見れて楽しいです。部費のこと、疑って申し訳ありませんでした」
「あら、わかっていただけたならいいですよ!それより、鬨哉君も疑問に思ったことがあれば何でも聞いてみてください!晴美ちゃんも乙葉ちゃんも、嫌な顔はしないはずですから」
「はい!」
晴美と乙葉から少し遅れ、並んで歩くもう2人。
いつの間にか鬨哉も、この旅を楽しんでいるようだった。
「昔は甲府駅も城の中だったんだが…」
「そうなんですか!」
そう話している間にも、4人は駅に到着した。
「甲府駅と言えば!乙葉、分かる?」
「流石に分かりますよ。テレビで仙台っていうと伊達政宗の銅像映りますよね。そんな感じで、甲府にも!」
乙葉が指差す先に、それは鎮座していた。
「おー!風林火山の人!」
それ…武田信玄の銅像を見て、鬨哉が言った。
随分と偏った知識である。
「そう!武田信玄の銅像だよ!」
乙葉が軽く飛び跳ねてテンションが高いのを周りに知らせる。
「へ~。これが武田信玄ねぇ。山梨県民なの?」
鬨哉にとってそこから分からないことだった。
「山梨県民というか…。甲斐の国のお殿様かな。甲斐っていうのは、今の山梨県ね!」
「だからこんなに武田信玄オシなのね!」
納得した様子の鬨哉だった。
銅像を後にして、いよいよ車に向かうかと思いきやそんなことはなく。
4人は駅の反対口へと歩いて行った。
駅を出て右に曲がると、再現されてからまだ間もないと思われる真新しい城の門が出現した。
「これが甲府城では最後の見学スポットだな。山手門だ」
晴美も乙葉も由佳先生も、ちょっと物足りない気がした。
古いからこその城。
ここまで真新しいと、ちょっと意気込みが鈍る。
勿論、再建されずに埋没していくよりは遥かにありがたいことなのだけど。
しばしヒノキやケヤキを使って作られたその門を見学。
といっても、メインはさっき見てきた所なので、こちらはただ門があるだけ。
見学はすぐに終わる。
4人は再び駅の中を通り反対口に戻り、由佳先生の車に乗り込んだのであった。
4人を乗せた車は、ゆっくりと動き出した。
車内では車の動きとは対照的に、会話が盛り上がっているのだった。
「次は善光寺に行きますよ!」
「あれ?先生!善光寺って、長野じゃないんですか?」
「山梨にも善光寺ってあるんだよ。知らない?ヤマト?」
「知らないよ。善光寺と言えば長野でしょ!」
「いやぁ、戦国時代といえば山梨のも出てくるんだな!」
「晴美先輩って、歴史詳しいですよね!俺もそのくらい解説できればなぁ…」
「いや、そんなでもないよ。まぁ、部活とかでもいろいろ調べられるしね」
「部活…かぁ…」
話が弾む中、車は善光寺に到着。
実は甲府城からすぐ近くだったり。
少し名残惜しさを覚えながらも、扉を開けて善光寺へと降り立った4人。
到着すると同時、朱塗りの年季の入った立派な建物が出迎えてくれた。
めちゃくちゃ大きい、立派を絵に描いたような本堂。
見とれていると、鬨哉から質問が飛んだ。
「ここって、長野のソレとは関係あるんですか?」
「ん。あるよ!それを説明するには、川中島の戦いからスタートだな」
川中島の戦いなら聞いたことある。
ただ、どんなだったかは覚えてなかったりする鬨哉であった。
「上杉謙信と武田信玄が戦った川中島の戦いってのがあったんだ。長野にあるのは、その戦いに巻き込まれるような場所に有った。信玄は、それを警戒してわざわざ自分の領地に寺を移したんだ。それがここ」
晴美が説明してくれた。
「よっぽど大事だったんだな、この寺…」
ひとり言のように呟いた鬨哉の言葉を、今度は乙葉が拾って答えた。
「そりゃ大事だよ!源頼朝って、武士の頂点だった人が信仰したからね!それで戦国大名たちからも人気だったんだ!あやかれーって感じ?」
あの鎌倉幕府の…だよな?
「んじゃ、宝物館入りますか!奥まで行かなきゃ無料だから、なかなか優しいよなー!」
あはは、と笑いながら本堂横にある宝物館に入って行った晴美。
後を追う3人。
宝物館の中を歩いていく。
熊谷次郎直実の木像の前で足を止めたり、賽の河原地蔵を見たり。
武田信玄朱印状を眺めたり。
牛が善光寺を参拝した伝説があったり、その牛の角が展示されていたり。
無料とは思えない充実した展示だった。
しかし、メインはやはり。
「最古の源頼朝の木像だな」
「そうですよね!」
晴美の呟きに由佳先生が賛成。
そのメインは、館内を一周し終える直前に表れた。
ヒーローは遅れてやってくる、ということだろうか?
「1319年の作品ですって!」
「それは古いな!というか、木だな…」
晴美の言う「木」は、見ればすぐに分かる。
見るからに素材が木なのだ。
通常の木像は、もっと完全に加工されているのが普通。
しかし、この頼朝の木像は、どことなく「流木」っぽさが残っているのだ。
それはそれで良いのだが。
戦国時代の木像を本等で見慣れている晴美たちにとっては、ちょっと新鮮だった。
さて、宝物館を出て再び車に乗り込んだ。
「さぁ、どんどん行きますよ!続いて長禅寺ですよ!」
「それは楽しみですね!」
そう言いながら由佳先生はカーナビセット。
10分ちょっとで行けるらしい。
晴美も楽しみにしている場所のようだ。
「長禅寺ってところには何があるんですか?」
「ん?それは着いてからのお楽しみってことで!」
鬨哉の質問は晴美によって答えが出ることなく終わった。
ちょっと走れば、すぐに「間もなく長禅寺」とカーナビが喋り出した。
線路の下をくくれば目の前にはお寺の門。
駐車場が良く分からないので車を門の下を通すことに。
これが功を奏し、門の向こうに駐車場らしき場所を発見。
そこに車を止め、寺へと向かった。
「まずはちょっと歩いてみましょうよ!境内とか見たいです!」
乙葉の眼が輝く。
たぶん、五重塔や三重塔があるからだろう。
この手のものがある寺は大抵古いものであり、武将ゆかりの寺であってもおかしくないのだ。
ほら、ちょっと歩くとすぐに看板がでてきた。
「大井夫人墓…!こっちですね!」
ちょっと歩く速度が上がる乙葉。
「乙葉、大井夫人って誰?」
この4人の中で、こんな質問するのは1人だけなわけで。
「武田信玄のお母さんだよ、ヤマト!」
笑いながら答えてくれる乙葉に、また心臓の鼓動が自ずと早くなる。
「そうなんだ」
それ以上言葉が続かなかった鬨哉。
緊張すると喋れなくなるタイプらしい。
「補足すると、ここは幼き日の武田信玄が勉強した場所なんだ」
「大人になった信玄の性格に、大きな影響を与えたらしいですよ」
晴美も、由佳先生も。
続けざまに鬨哉のために説明してくれた。
さて、本堂脇の細い道。
ひたすら上りの、決して足場が良いとは言えない道を4人は歩いて行った。
一歩一歩土を踏みしめて…とまでは行かないが、大井夫人の墓は本堂裏の丘の上にあるので、ちょっと体力を使う。
ただ、まだ5月の頭だから良いものの、夏場は周りが竹藪なので蚊が多そうだ。
ちょっと歩いたところで、目的のお墓が見えてきた。
石製のポールが二本両脇に立ち、そのちょっと奥に立派なお墓が。
乙葉を始め、4人は静かに手を合わせる。
この方が、あの名将を…。
今、その方の墓の前に立っている。
時代は違えど、確かにその人が存在した証拠が目の前にある。
なんかちょっとだけ、嬉しくなった。
「ふぅ。じゃあ、このお寺も完了です!次のお寺に行きましょう!」
合わせた手を離し、乙葉が言った。
次も、寺。
京都や奈良に行ってもこんなに神社仏閣ばかり巡ることはなかろう。
それくらい今日1日で神社仏閣を巡るのだが…。
行く場所を知らない鬨哉はそんなことは知る由もない。
「次も寺なのか!城はもう行かないの?」
「行かない予定だよ。もしかして、飽きちゃった?だったら、ごめん…」
鬨哉の質問に、申し訳なさそうな顔をする乙葉。
「あやや、違う!そうじゃなくて!今日だけで寺いっぱい行くなと思ってさ」
慌てて軌道修正する鬨哉だった。
「ああ、そういうことね。うん。だって、武田家ゆかりの地って、寺とかの方が多いんだ。城って甲府市内だと、甲府城と要害城くらいしか見つけられなかったし…。でも要害城は行くの大変だし。多分、ちゃんと残ってる城って甲府城くらいだよ」
「なるほどね。まぁ、全然飽きたりはしてないから!解説とかしてもらって、寧ろ楽しいよ!」
「ホント!?だったら、うれしいな」
乙葉の言葉に照れるのを隠せない鬨哉だった。
「由佳先生!次はどこに行きますか?」
晴美が聞いた。
車で移動する関係上、最も効率の良い回り方を組み立てたのは由佳先生なのだ。
そんなわけで、行く場所はみんなで決めたのだが、巡る順番は由佳先生しか知らない。
「大泉寺ですよ。大井夫人の旦那さんが眠る場所です」
「おお!大泉寺は『写真で見る日本史跡大図鑑』で見てからスゴイ興味あった場所ですから、楽しみなんですよね!」
そう。その寺に行きたいと提案したのは何を隠そう晴美なのである。
因みに、「写真で見る日本史跡大図鑑」とは部室にある本の題名である。
最近買ったもので、定価5800円なり。立派な図鑑。フルカラーの写真掲載。
晴美が半ば私物化し出した愛読書だったりする。
そんな話をしながら大井夫人に別れを告げ、もと来た道を引き返した。
そして、旦那さん…武田信虎が眠るという大泉寺に向かうため、一行は車に乗り込むのであった。
実は、甲府城とか結構はしょった場所もあります。
展開が遅すぎると焦り、途中から雑になったのは申し訳ありませんでした。
でも、寺に行った辺りからちゃんと書きましたよ!
甲府城の最後の方だけです!
続きもこれから書きます。
予想以上に大変な執筆です…。
見所は全て書き終わった後に、あとがきで。
美味しいお店とかも紹介できればと思います。
因みに、途中出てきた図鑑は架空のものです。