歴史絵巻第八幕Let's Go史跡巡り~釜橋之碑~
乙葉
「五円玉様からイラストいただきました!」
由佳
「誰を描いたイラストですか?」
乙葉
「私と先輩です!」
由佳
「あわわ…。私は…?」
晴美
「んで、上杉さんのイラストは?最近更新されないが…」
乙葉
「えと…。成績不良のため、勉強しないと云々で時間が無いらしいです」
由佳
「あらら…」
とある高校の社会科研究室。
今日はその部屋に一番乗りしたのは、高校二年生の焙烙晴美だった。
彼女はここで活動が行われている、歴史研究部の部長。
今日も部屋に入るなり、教室の端にある本棚から本を一冊引っ張り出して、それを持って椅子に座った。
本のタイトルは「日の本のお殿様」。
偉人の逸話を紹介するだけの本。
それを読んでいると、教室の扉が開いた。
「おっ!先輩!早いですね~!」
一年生の村上乙葉だった。
以上、二名。
歴史研究部の部員。
二人が揃ったところで、部活スタート。
「今回はどこの城に行きますか?」
そう。
部費で日本中の様々な城やら史跡やらを歩いて回る。
それがこの部活の活動内容なのだ。
「いや、今回はもう決めてある!ただ、城ではないがな!」
乙葉の問いに答えた晴美。
「えっ…と…?どこですか?」
ちょっと驚いたように、晴美にきいた乙葉。
「今回は恐ろしく地味だぞ!」
「…片倉城よりですか?」
「片倉城よりだ!何たって…」
「何たって…?」
「石碑一個だからな!」
「な…なんですとー!?」
そんな衝撃的な事実を乙葉に告げると、職員室に行くと宣言して晴美は社会科研究室を出て行った。
「なぜ…?なぜに石碑一個…?一体どこに行くんだろう…」
不安になった乙葉であった。
翌日。快晴。
昨日職員室から戻ってきた晴美に指定された時間に、乙葉は学校の前にやってきた。
まだ晴美は来ていない。
一人校門で待つ乙葉。
約束の時間から遅れること2分。
晴美もやってきた。
「おはようございます!先輩!」
「おはよう乙葉!あれ?先生まだ?」
「まだですよ…?今日は車ですか!」
「そだよ。昨日先生に確認したら大丈夫だって言ってたしな!」
そんな話をしていると、見覚えのある車が校門に停まった。
赤い、4年ほど前に発売された軽自動車。
プスン。
エンジンを切り、運転席から降りてきたのは歴史研究部の顧問である毛利由佳先生その人であった。
「おはようございます。今日は…福島県の白河ですよね!」
由佳先生が言った。
「ふぇ?ふ、福島県?東北ですか!」
驚いてスットンキョウな声をあげる乙葉。
「あれ…?聞いてなかったんですか?」
「ビックリすると思って言ってませんでした」
笑いながら言う晴美。
「関東出るのは予想外ですよぉ~」
「でも、栃木県との境目だぞ」
「じゃあ、割と関東ですね。白河…もしかして、白河の関…?」
白河の史跡といえば白河の関が有名である。
松尾芭蕉が奥の細道で訪れた場所としても知られている。
しかし…。
「残念!今回は、釜橋之碑を見に行くぞ!」
「釜橋之碑…?」
それがなんだかわからない乙葉であった。
「それじゃ、そろそろ行きましょうか!」
由佳先生の言葉で、3人は車に乗り込んだ。
運転席に由佳先生。
運転席の後ろに乙葉。
その隣に晴美。
「先輩は好きな武将とかいますか?」
乙葉が晴美に聞いた。
「ん~。私は堀秀政とかだな。クレーム処理で評判を上げたり、素晴らしい武将だと思うぞ!乙葉は?」
「私は可児吉長です!」
「あー!笹の才蔵は確かに素晴らしいよな!先生は好きな武将いますか?」
「ん~…。黒田勘兵衛とか好きですよ!一度も死刑にしたことないとか、優しいです!」
そんな話で盛り上がりながら、車は走り続けて…。
やがて東北自動車道を降り、白河へ。
そこからさらに車を走らせてしばし。
釜子小学校の前に、それはあった。
「わぁ!本当に石碑一個ですね~!」
「言った通りだろ?」
3人の目の前にあるのは、石碑が一つと説明看板のみ。
「えと、晴美ちゃん。何で今回はここを選んだの?」
乙葉も気になっていたことを、ストレートに由佳先生が聞いた。
「社会科研究室に新しい本が入ったじゃないですか」
おもむろに晴美が言った。
確かに、前日新しい本が2冊追加された。
「えと…。『日の本のお殿様』と『写真で見る日本史跡大図鑑』でしたっけ?」
「そうです!で、その大図鑑の中から今回の行き先を決めようと思いまして」
こんな地味な石碑まで載ってるとは…大図鑑恐るべし…。
「で、目を閉じて適当なページ開いて指で差した場所がちょうどこの石碑のページだったんです」
何という決め方…。
晴美の気まぐれに振り回される形となった今回の旅。
晴美はともかく、他の二人も嫌がる素振りは一切無い。
それどころか、心底楽しんでいるのが不思議である。
どんな決め方であれ、史跡である。
目の前にある説明看板に目を通した3人。
「ん~…。源義家が安倍貞任を討つために奥州に遠征した、と…。で、当時ここは釜場で、近所の川に義家が橋をかけたことからこの辺は『釜橋』という地名になった…」
看板を読んだ乙葉。
晴美はその続きを読み上げた。
「この橋の上で、義家が家臣とご飯を食べていたら子供たちが寄ってきた。その子供たちにもご飯を分け与えたという言い伝えから、特にこの辺りを『釜子』と呼ぶようになった…」
「へぇ~!優しいですね!義家!」
関心したような声をあげた由佳先生。
「さて…では…!」
晴美がおもむろに言った。
「先輩…?目的終わっちゃいましたけど…」
「良し!帰るか!」
乙葉の言葉を聞くや否や、晴美が宣言した。
「え?あ、ホントに石碑一個でしたね!」
「せっかくだから、宇都宮でも寄って餃子でも食べて帰りますか!?」
ちょっと残念そうな乙葉に、由佳先生が提案した。
「お~!良いですね!餃子!」
「宇都宮…。宇都宮城…。釣り天井…!」
「今日はお城は行きませんよ!」
由佳先生の言葉に、一瞬残念そうな顔をした晴美だったが、すぐに笑顔に戻って。
「たまには、グルメもいいですね!」
そう言って賛成した。
こうして、三人は帰りに宇都宮に寄り道してから帰宅したのだった。
釜橋之碑でした。
終わらせかたが雑なのはですね、どう終わらせればいいか分からなくなったがための苦肉の策です…。
だって、石碑一個だもん…。
福島の教習所に合宿で行って、唯一見つけた史跡です。
ほら、片倉城より地味だ…。
次こそ城に!
江戸城行きたいな~…。