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第8話

金属を叩くことで発生する音色は冷たい音に感じられる。

楽器で比較すると木琴より鉄琴の方が冷たく澄んだ音に聞える。

電話のベルが奏でる断続音も、電磁作用を利用して金属の槌をそれと同じ物質でできた発音体に対して、連続して打ちつけることで発生する。この音は本来、人間の性には合わないものなのだ。

だから、この波長を好む者はあまりいないと思われる。

多くの人間が、電話の音を五月蝿いと感じるわけだ。

そんな五月蝿い音をデジタルで合成して、わざわざ忠実に再現したものが携帯電話から鳴り響いている。

「はい………もしもし………」

秋山は十五回目のコールが終わるころに、ベッドのサイドボードに置いた携帯電話を手に取って通話ボタンを押した。相手に今起きたことをアピールしてしまうような口調。

彼は朝が苦手だ。

特に昨日はかなり遅くまで資料を読みふけっていたためか、いつも以上に低空を飛んでいる。まだ上下の瞼が、離れるのを惜しんでいる。

「仙波です」

電話の向こうからは、抑揚の少ない特徴的な声が聞こえる。モーニングコールだとしたら嫌がらせだと、秋山は眠気の抜けない頭で考えた。

「ん・・・?」秋山は壁に掛けられた黒ぶちの四角い時計を、布団に入ったまま横目で確認しながら言った。「まだ、七時じゃないですか・・・」

仕事の開始は十時からと打ち合わせていた。その時間までに間中の部屋までいけばいいはずだ。できれば、ぎりぎりまでゆっくり寝かせて欲しい。

「緊急事態だ。さっき、間中氏から連絡があった。このタワーのシステムの一部が故障したらしい」

仙波が言う。

寝ぼけた頭では、その重大性について自分で割り出すことができない。

「え………と。つまり、どういうことですか?」

「このタワーの多くの場所がシステム化されている。それが正常に動作しないということは、幾つかの問題を発生させることになる」

仙波は一旦、言葉を区切った。

「まず、このタワーの物理的なアクセス部分のセキュリティがダメージを受けた。つまり、復旧するまでは誰もこのタワーに入ることも出ることもできない」

「でも、もともと一ヶ月は外へ出ることはできないって契約じゃないですか」

秋山は楽観的に答える。

「僕達はね。だけど、全ての人間が出入り不可能な状態になった。つまり、何があっても外部との接触はできない」

「出入り不可能………すいません、具体的に言うと、どういうことになるのでしょう」

「入り口の開閉システムに影響が出ているらしい。今、このビルから出ることも入ることもできない」

「でも、そんなに大きな影響は無いですよね」

秋山は言った。徐々に思考がまわり始めた。

このタワーには生活する上で必要な多くの施設が整っている。その上、システムのプロフェッショナルがたくさんいる。状態が復旧するまで時間がかかるとは思えない。そのくらいの間なら、生死がかかるようなことは無いだろう。異常な事態には変わりが無いが緊迫するほどの状況でもない。

「確かにね。ただ、問題はそれだけではない」

「何か他にも?」

「うん。電話やファクシミリを含めた通信手段も遮断されてしまっているらしい。外部へのメールやインターネットも接続ができない」

少しだけ現状起きている問題が大きく感じられる。

「って、ことは・・」

「そう。このタワーは完全に外部から隔離された状態になってしまっている」

「でも、外の人達も、すぐに気付きますよね?」

常々、外部との連絡をまったくしていないわけではない。連絡が取れないとなれば誰かが異常を感じるはずだ。

「定期的に連絡をしているそうだけど、二~三日は間が空くそうだ」

「じゃあ、大した事は無いですね。それに、復旧できないってわけじゃないですよね」

秋山が訊く。

「まあね。ちゃんとした原因さえわかれば。そんなわけで、今日の作業は中止になるらしい。事態の原因を調べるほうが優先される」

「じゃあ、俺達は?」

「今のところできることは何もない」

仙波が言う。

「目も覚めちゃったしなあ………。とりあえず、飯でも食いに行きましょうよ」

秋山の電話の向こうでため息が聞える。

「予測通りの返答だ。まあ、良いけど」

仙波が呆れた口調で言った。

「じゃあ、エレベータの前で待っていてください」

「いや、電話をしながら歩いてきた。もう松苗さんと一緒に君の部屋の前まで来ている」

「え?。あ、そうですか。じゃあ、急いで支度をするから待っていてください」

秋山は、電話を放り投げるとベッドから飛び起きた。

普通の電話のベルの音って、もうあまり聞かないですね。

アナログな電話の生音なんて特に。

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