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第6話

ちょっと短めです。

今日は、もうこの後の予定は無い。

少し休憩した後、食事に行こうということで、三人は各々の部屋へと分かれた。

仙波は自分に割り当てられら個室に入り、デスクに向き合うと椅子に腰掛けた。自社で使っているものよりも座り心地が格段に良い。とりあえず一息つく。備え付けてあるコーヒーメーカーでコーヒーを淹れることにした。まだ、そんなに遅い時間ではないので三十分ほど休憩をした後、待ち合わせる事にしている。

 端末の電源を入れる。フォトンフィールドのロゴが浮かび上がる。当然ながら、明日から取りかかるバージョンではないが、一般にリリースされている最新のものが導入されている。仙波が自分で使用しているコンピュータはフォトンフィードではないが、何度も取り扱っているので操作には問題がない。

まあ、そうじゃなくてもUNIX系のX―WINDOWなどのグラフィック・ユーザ・インターフェースを触ったことがあれば、ほとんど支障は無いだろう。操作にさほどの違いはない。

メールソフトを立ち上げて受信開始を指定しすると、受信ボックスに一通のメールが入った。

「間中氏からだ・・・」

口の中で呟いて、届いたメールを参照する。


 お疲れ様です。間中です。

 作業に必要な資料を添付してありますので目を通しておいてください。

 フォトンフィールドと必要なアプリケーションは、共有の後に送信されると思います。

ネットワーク経由でインストールしてください。


 メールには資料ファイルが何点か添付されているようだ。

とりあえず、今見るのはやめておくことにした。食事をした後に、ゆっくりと参照すれば良い。

 仙波は、到着直後に対面した浅海原音香を思い浮かべる。

短い会話だったが、彼女の頭の回転の速さは感じられた。一般的に天才と言われる人間。でも、期待していたほど、実感を得ることができなかった。明日は話をする時間を取れると言っていた。可能であるならば、いろいろ聞いてみようと思う。

 そんなことを考えながら、椅子のリクライニングを軋ませていると、携帯の着信が入った。

「秋山ですが、そろそろ食事にしませんか」

「うん、わかった」

「じゃあ、2階のエレベータを降りたところで待ち合わせましょう。松苗にも声をかけてみます」

秋山は、そう言うと通話を切った。

すぐ隣の部屋にいるのだから、わざわざ別の階で待ち合わせる事も無いのだが、彼のことだから、すでに探索していたのだろう。

 エレベータを降りるとすぐのところで秋山が壁に寄りかかって待っていた。仙波に続いて松苗もやってきた。

「ちょっと、見て回っていたんだけど、上の階よりもこっちのほうが飲食店はは充実しているみたいだ。まあ、上にも捨てがたい店はあるけどな」

 このタワーにある飲食店は街中の飲食店の品揃えに劣っていない。

おおよそ食べたいと考えたものは揃っていると言っても良いだろう。

しかし、この建物の中にいる人間は多くはない。そんなことで、こんなにたくさんある店舗の利益はあがるのだろうか、などと余計なことを考えてしまう。

 三人とも食べ物の好みは似通っているので大体意見が合う。ステーキハウスや揚げ物など重めの食事は避ける傾向にある。

メニューのサンプルがガラスケースの向こうに並んでいる。もちろん、イミテーションであり、こんな食べ物があるというアピールである。店内で、指を指して『あれをください』と言ってもイミテーションではなく、食べられる商品が提供される。まあ、説明が無くとも一般的に周知されているシステムである。

「蕎麦屋にしましょう」

秋山がそのうちの一つを親指でさしながら言った。当然ながら、「地酒」の看板も掲げられている。

「うん。いいよ」

「良いね」

松苗と仙波も同意する。

店に入るとすぐにウェイトレスが席に案内をしてくれた。注文を告げると、かしこまりました、と言って席を離れた。

店内は少し薄暗い。この階の照明自体が暗めに設定されているようである。木の机。木の椅子。天井の梁。別に、そこまで作らなくても良いのではないかいうくらいに随所にこだわりがみられる。

「間中氏からメールが届いていた」

「俺、部屋に戻ってすぐに出てきたから見てないや。内容はどうでした?」

「さっき言っていた資料の類だね」

先ほどのウェイトレスが、おろし蕎麦を三枚持ってきた。三人とも同じ物を注文した。ただし、秋山だけは、もう一品、アルコールが運ばれてくる。

「食事が済んだら目を通してみます」秋山が言った。「うーん、でもその前にチャットかな」

「ふーん」

あまり興味がなさそうに仙波は頷いた。

インターネットをおこなうのに周辺環境は関係がない。端末と回線があれば良い。

すべてはイミテーションと同じで虚構の存在に限りなく近い。情報さえ確かならば、どこにでも自分を出現させることができる。そして、何者をも出現させることができる。だから、そんな世界に対して『こんなところまで来て』とか『こんな時にわざわざ・・・』とかそういう言葉は無粋である。

「でもさ、もし、プライベートのやり取りも回線を監視されて、情報を抜かれていたら嫌ですね」

秋山が渋い顔をして言った。

「それはないと思うよ。端末は、フォトンフィールドだった。設定すれば個々のセキュリティを自在にコントロールできる。まあ、ネットワークを介しているわけだから、どこと通信しているかは取ることができるけど、何を通信しているかは一切得ることができないはずだ。それに発表していない秘密の機能とかがあったとしても………」

仙波は言葉を切って秋山を見た。

「俺の会話なんか見ても仕方ないですよね」

「そういうこと」

秋山は仙波の分の薬味を取ると自分の椀の中に入れた。仙波は、薬味や調味料などの味付けを殆どしない。こういった場合、秋山が仙波に対して特に断らないのは、いつものことである。

「仙波さん、この後は?」

「そうだね・・・」箸で蕎麦を持った状態で考える。「確かこの階に大きな書店があったね。そこに行ってみようと思う」仙波が答えた。

仙波は書店に行くと、しばらくの間留まる。秋山はそれに一度付き合って、一日を本に囲まれて過ごした苦い思い出がある。本が好きな人間ならまだ良いかもしれないが、秋山はその対極に位置していると言い切れる自身がある。そんな人間が仙波に付き合っていたら致命傷を負いかねない。

「私は、この辺をふらふらしてみる。面白そうなお店もあるし」松苗は嬉しそうに言う。「それにしても、ホントすごいわね。このビル。意表をつかれてばっかり」

「ああ、会社の中とは思えない」

秋山が周りを見回しながら言った。

「ここまでいろいろ揃っていて便利だと大して動かなくても大体の用事が済ませちゃうわね。なんだか太りそう・・・」

「スポーツジムもあったね」

仙波が言った。

「あ、それもいいですね。うん。この後、行ってみようかな」


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