第5話
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この会議室は、浅海原音香に対面した部屋の四分の一くらいの大きさだ。四分の一くらいというのは、部屋を垂直にスライスした状態であって水平にではない。
間中が腰を掛けた対面の席に三人は座った。
「先ほどのサーバに弊社のフォトンフィールドの最新バージョンを導入していただきます」
「作業の分担は、こちらで決めてしまってよろしいですか」
仙波が聞く。
「はい。構いません。個々の部屋で別々に端末を使用して行っても構いませんし、どちらかの部屋で共同で行っていただいても構いません」
「今回のバージョンアップは、どの辺りが変わったのですか?」
秋山が質問する。
「実のところ、私もまだ触ったことがないんですよ。おそらく、あなた方が最初になると思います」
「光栄ですね。でもなぜ、社外の人間に最初に触らせるのでしょう。今までも、そうだったんですか?」
仙波が尋ねている途中、ドアがノックされ、総務の名札をつけた女性が静かにお茶を配って静かに出ていった。その間は、みな黙ってその様子を見ていた。
「……いえ、こういうケースは今回が初めてです。浅海原流時から直々に通達があったようです」
「私達が選ばれたのは何らかの基準があったのでしょうか」
「そのあたりのやり取りについては、まったく分からないんですよ。フォトンフィールド関連については、私達社員であっても、ほぼ通達通りに動くだけですから」
「そうですか……。でも、貴重な体験をさせていただいて喜ばしい限りですが」
仙波はお茶を口にする。
「で、今回の仕事の内容なのですが。おおよそのところしか聞いていないもので……」
秋山が言う。
「はい、まず、フォトンフィールドをセットアップしてもらいます。詳しくは、個室の端末に資料を送信しておきます。その後、会話を記録して分析するためのソフトウェアをセッティングしてください」
「そのソフトウェアというのは?」
そう言いながら、秋山もお茶を手に取る。
「フォトンフィールドと一緒にお渡しします」間中は付け加えていった。「それも、浅海原流時のプログラムです」
「彼は、そういったオペレーティング・システム以外のソフトウェアの作成も行うのですか?」
仙波が尋ねる。
「ええ。そんなに頻繁ではないですけどね。時々、意味不明なものもあるのですが。それらの利用については、浅海原音香から指示を受けます」
「なるほど」
仙波は頷いた。
「仕事については、進捗によって端末のほうに指示がくると思います。基本的に、その指示で動いてください」
「分かりました」
秋山が言った。
「あとは、ここで一ヶ月ほど生活していくわけですが、その上で何かご質問はありますか?」
間中は両手を組んで机の上に置いた。
「生活とは関係ありませんが……」仙波が言う。「ほんの僅かずつですが各階の壁の色が違いますね」
「ああ……」
間中が驚いた表情をする。
「よく気がつきましたね」
「白い階と少し青い階かな。二種類に分かれていたね」
松苗が仙波に向かって言う。
「違う。二種類じゃない」
仙波はそう言うと間中のほうに向き直った。
「各階とも微妙に色が違いますね。上の階からだんだんと青が増している……そんな感じでしょうか」
「僅か数階見ただけで気付かれるなんて凄いですね」
「え。そうだった?」
秋山は考えるように目線を上に向けて思い出そうとする。
「各階の部屋は、最上階から徐々に青の割合が強くなり、最下階は深い青になっています」
「青……一色ですか?」秋山は視線を戻した。「なんか寒々しいなあ」
「でも、青の度合いによっては、それはそれで綺麗なんじゃない?」
松苗が言う。
白から青へのグラデーション。海の奥深く。もっとも青が深くなる部屋に天才が潜んでいる。
「なるほど。言われてみれば、この部屋も純白ってわけじゃないんですね」秋山は、壁や天井を見ている。「真っ白と真っ青の部屋か。一度見てみたいな」
「私も行った事はありません。タワーの両端になるほど行ける人間は限られてきますからね」
「でも、何人かは自由に行き来できるのですよね」
松苗が聞いた。
「そうですね。聞いている話では、最上階と最下階に行けるのは二人だけですね」
「流時さんと音香さんですか?」
「そうです」間中は、お茶を飲み干すと続けて言った。「最上階は純白の部屋だと聞いています。浅海原音香のプライベートルームにもなっています」
「へえ」
松苗が何度か頷く。
「だいたい、こんなところでしょうか。後、何かありましたら、携帯かメールで連絡してください」