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第15話

そして、事件発生。

ここから物語が、やっと動き始めます。

 三人は、音香の部屋を出た後、エレベータに乗り込む時に、松苗のプレートが元の状態に戻っていることを確認した。十階のランプも消えている。もう、音香の階に行くことはできない。

一階のエントランスに辿り着くと、秋山がため息をついた。

「なんか、重圧って言うか・・・ものすごいストレスが溜まる」

「うん、私も」

松苗が頷く。

「で、なんのためにお前のプレートの権限を書き換えていたんだろうな」

「なんのためって?」

「すぐに戻すんだったら、十階に行けるようにするだけで良いわけだろう。わざわざ他の階に行けなくする必要はないはずだ」

「……そういえばそうだね」

「ブルーというのは、例のチャットの相手?」

仙波が急に話題を転換した。音香との会話にでてきた呼称について質問をする。

「え?。あ、はい。そうです」

秋山が答えた。

「あそこで彼女に尋ねたのは、何か意味があってのことなのかい?」

尋ねる仙波に、松苗が私もそう思った、と同意する。

「はい。話せば長くな……」

 秋山が言いかけたその時、頭上で爆音が鳴り響いた。

雷のように重く大きく鈍い破裂音。

数秒間の地響き。

近くにあった観葉植物の幾つかが倒壊する。

「なっ、なに?。地震?」

松苗が悲鳴に近い声を上げてきょろきょろと辺りを見まわす。

「ここでは、地震が発生することはないと思う。今のは、なにかの爆発音のようだった。」仙波が言う。「多分、近くで何か大きな爆発のような衝撃があったんだ」

「とりあえず、何が起きたか確認しましょう」

秋山がエレベータに駆け寄る。

「いや。危険だ。もう少し、状況が分かってからでも遅くはない」

仙波が秋山を静止する。それを聞いた秋山が振り返る。すでにエレベーターのボタンを押した後だった。

「エレベータの反応がない」

秋山は、叩くように数回ボタンを押す。

「えっ?」

松苗が駆け寄った。仙波は逆方向の下りのエレベータに向かう。

「さっきの振動で停止したのか」

秋山がドアを叩く。

「それとも、エレベータ自体が爆発を起こしたか…ね」

隣で松苗が言った。

「こっちは動くみたいだ」

仙波が大きな声で言った。エレベータのドアが開いている。

「でも、まだ降りないほうが良いね。状況が把握できていない」

駆け寄ってきた二人に仙波は言った。

「一体、何が起こったんでしょうか」

秋山が言った。

「上の階で何かがあった。今の状態だとそれくらいの事しかわからない」

そう言った仙波の目に昇りのエレベータに走る人影が映った。

「やっぱり駄目か。使えなくなっている」

その人物は先ほどの秋山と同じようにボタンを数回叩くとそう言ってこちらに向き直った。紺のスーツを着た四十代後半くらいの男性だ。ふちのない眼鏡が細面に似合っている。

「あなた方は?」

男性がそう言って三人に向かって歩いてくる。

「派遣でお世話になっている仙波と申します」

続いて、秋山、松苗が自分の名前を言う。

「私は、総務の町田といいます」

 町田は眼鏡の位置を直しながら言った。

「すいません。何かあったんですか?」

松苗が言う。

「……そうだ。こうしている場合じゃない。十階で火災が発生したようなんです」

町田が慌てて言った。

「さっき、爆発したみたいな音がしましたけど・・・」

秋山が言うと、町田は三人の顔を見つめたまま押し黙った。部外者に話してしまっても良いか判断しかねる事柄があるのだろう。

「つい先ほど、十階で浅海原音香さんとお話をしました」

仙波が言った。

「え?」町田は、驚いた表情をする。「……なるほど。そういうことか」

「そういうこと?」

秋山が言う。

「このエレベータでアイデンティティ・チェックを行っていることは、ご存知ですよね」

三人は頷いた。

「IDプレートを作成は総務で担当しております。当然ながら、利用できる階の設定なども私達で行っています。設定には厳密な規約が定められていて、それに基づいて作成しているわけですが」

町田は咳払いをする。

「エレベータが利用されるとIDプレートが認証され、誰が、いつ、どの階に移動したかが記録されます。ですが、先ほどのあなた方の移動に関しては、『誰が』の部分が記録されませんでした」

「どういうことでしょう」

秋山が尋ねる。

「判別不能の人物がほとんどの人間が踏み入ることができない階に移動した直後、火災・・・正確に言うと何らかの爆発事故が発生した、という事になります。状況から見て、その人物が今回の事故の原因に最も関与している可能性が高い」

断言する町田に、三人は言葉を失った。

「ちょっと、待って。それって私達が疑われているってことになるの?」

我に返った松苗が言った。

「申し上げにくいのですが、状況的にはそうなります。九階から上の階は実質、浅海原音香専用のフロアとなっております。ここ一年以上、彼女以外の行き来はありません」

「浅海原さんは大丈夫ですか?」

仙波が尋ねると怪訝そうな目で見た後、町田が答えた。

「ええ。あなた方が一階に移動した後、爆発の直前に九階に移動した記録があります。爆発に巻き込まれることは無かったでしょう。ただ、エレベータ付近で爆発が起こったようなので、地上階移動用のエレベータは使用不能になりました」

「エレベータ以外の移動方法は無いんですか」

冷ややかな疑いの眼差しを無視して仙波が言った。

「非常用の階段があります。ただ、九階より上の連絡通路へのシャッターは、浅海原によるエマージェンシコードの入力を必要とします。現在、浅海原に連絡を取っているところです」

町田は、そこで言葉を切って、少し低めの口調で言葉を繋げた。

「機密事項にかかわるようなことなら結構ですが………。どのようにして十階に行き、浅海原とはどのような内容のお話をなさったのでしょうか」

「どのようにって………。浅海原さんがプレートの権限を変更して十階に行けるようになって、あとはお互いに幾つかの質問をかわしました。私達は、浅海原さんに呼ばれたんです」

松苗が言う。

「確かに彼女の端末からも権限の変更は可能です。ですが、なぜ、あなた方を呼んだのですか?」

「分かりません」

仙波に続けて松苗が言う。

「なんで呼ばれたかなんて私たちの方が訊きたいくらいですよ」

「……なるほど」

 町田が腕を組んで考えようとしたところに、緑色のスーツを着た女性が血相を変えて駆け寄ってきた。

「部長!。町田部長!!」

蒼白な顔をして金切り声で叫んでいる。

「ダッ……ダストシュートまで、す、すぐに来てください」

「どうしたんだ、そんなに慌てて。何があった?」

「とっ、とにかく来てください」

女は半分泣き顔になる。

「………分かった」

ただならぬ雰囲気を感じて町田は駆け出した。

「私達も行こう」

松苗が後を追って駆け出す。

派遣されて来ている彼等に後を追う権利もないし義務もない。

しかし、拒絶されない限り、もしくは例外時でもない限り、その場に数が揃っていたほうが便利であるはずだ。三人は顔を見合わせると、問題が発生しているであろうその場所に向かった。


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