表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

ホラー小説【閉店セール】

作者: 虫松
掲載日:2026/04/08

 その店は、気づいたらそこにあった。



駅前の雑居ビルの一階。

昨日までは確か、シャッターが閉まっていたはずの場所だ。


 だがその日は、派手な張り紙が風に揺れていた。


 ――閉店セール――

 ――明日で閉店・全品80%OFF――


 妙に安っぽい赤い文字。


 それなのに、なぜか目が離せなかった。


 俺は吸い寄せられるように店へ入った。



 中は異様だった。


 商品棚に並んでいるのは、服でも家電でもない。


手。

足。

顔。


挿絵(By みてみん)


 ガラスケースの中に、“部位”が並んでいた。

 どれも異様に美しい。若く、整い、完璧すぎるほどに。


「いらっしゃいませ」


 背後から声がした。


 振り向くと、全身が真っ黒な店員がいた。年齢も性別も判別できない顔。

いや、“印象が残らない顔”と言った方が正しい。


「当店では、お客様の身体を部分的に入れ替えるサービスを提供しております」


 さらりと言った。


 まるで、当たり前のことのように。


「顔、いかがですか? 本日限り、閉店セールにつき80%オフでございます」


 俺は、笑ってしまった。


 バカげている。


 だが


 ガラスケースの中の“顔”は、あまりにも魅力的だった。


 整った鼻筋、透き通る肌、均整の取れた輪郭。

 これが自分のものになるなら。


「……それ、いくらだ?」


「本日は特別価格で」


 気づけば、俺は椅子に座らされていた。


 手術の記憶は曖昧だ。

 痛みも、恐怖も、なかった。

 ただ、何かが“交換された”という確信だけが残った。


鏡を見る。


別人だった。

完璧な顔。

理想そのもの。


だが。


 首から下は、変わっていない。


「……なんだこれ」


 店員は微笑んだ。


「バランス、気になりますか?」


 俺は頷いた。


その後は早かった。

手。

足。

腕。 胸。 腹。 髪。


 すべてを部位を入れ替えた。

 気づけば、俺は“完全な別人”になっていた。


「では、以前の身体はこちらで処分いたしますね」


 店員は、軽くそう言った。


「なお、明日で閉店となりますので、苦情・返品は受け付けておりません」


 俺は笑った。


 返品なんて、するわけがない。

 こんな完璧な身体を手に入れて。



 


 翌日。


 玄関を叩く音で目が覚めた。


「警察です」


 扉を開けた瞬間、腕を掴まれた。


「お前に逮捕状が出てる」


「……は?」


 理解が追いつかない。


「連続殺人の容疑だ」


 連行される途中、俺はテレビを見せられた。


 そこに映っていたのは――


 俺だった。

 いや、“今の俺の顔と身体”だった。


 ニュースキャスターが冷静に告げる。


「指名手配中の犯人は、顔・体格ともに完全一致しています」



 俺は、笑った。


 最初は、乾いた笑いだった。


 やがて、それは止まらなくなった。

 


 ――ああ、そういうことか。


 あの店は、在庫処分をしていたのだ。


 “問題のある商品”を。



パトーカーに載せられた俺は、最後にあの閉店の店の前を通った。


シャッターは上がっており


そこにはもう、がらんどうで、何もなかった。


ただ、張り紙だけが残っている。



―閉店セール 完売御礼―


 その下に、小さくこう書かれていた。


―問題の在庫はすべて処分済みです―




ホラー小説【閉店セール】 END

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ