ホラー小説【閉店セール】
その店は、気づいたらそこにあった。
駅前の雑居ビルの一階。
昨日までは確か、シャッターが閉まっていたはずの場所だ。
だがその日は、派手な張り紙が風に揺れていた。
――閉店セール――
――明日で閉店・全品80%OFF――
妙に安っぽい赤い文字。
それなのに、なぜか目が離せなかった。
俺は吸い寄せられるように店へ入った。
中は異様だった。
商品棚に並んでいるのは、服でも家電でもない。
手。
足。
顔。
ガラスケースの中に、“部位”が並んでいた。
どれも異様に美しい。若く、整い、完璧すぎるほどに。
「いらっしゃいませ」
背後から声がした。
振り向くと、全身が真っ黒な店員がいた。年齢も性別も判別できない顔。
いや、“印象が残らない顔”と言った方が正しい。
「当店では、お客様の身体を部分的に入れ替えるサービスを提供しております」
さらりと言った。
まるで、当たり前のことのように。
「顔、いかがですか? 本日限り、閉店セールにつき80%オフでございます」
俺は、笑ってしまった。
バカげている。
だが
ガラスケースの中の“顔”は、あまりにも魅力的だった。
整った鼻筋、透き通る肌、均整の取れた輪郭。
これが自分のものになるなら。
「……それ、いくらだ?」
「本日は特別価格で」
気づけば、俺は椅子に座らされていた。
手術の記憶は曖昧だ。
痛みも、恐怖も、なかった。
ただ、何かが“交換された”という確信だけが残った。
鏡を見る。
別人だった。
完璧な顔。
理想そのもの。
だが。
首から下は、変わっていない。
「……なんだこれ」
店員は微笑んだ。
「バランス、気になりますか?」
俺は頷いた。
その後は早かった。
手。
足。
腕。 胸。 腹。 髪。
すべてを部位を入れ替えた。
気づけば、俺は“完全な別人”になっていた。
「では、以前の身体はこちらで処分いたしますね」
店員は、軽くそう言った。
「なお、明日で閉店となりますので、苦情・返品は受け付けておりません」
俺は笑った。
返品なんて、するわけがない。
こんな完璧な身体を手に入れて。
翌日。
玄関を叩く音で目が覚めた。
「警察です」
扉を開けた瞬間、腕を掴まれた。
「お前に逮捕状が出てる」
「……は?」
理解が追いつかない。
「連続殺人の容疑だ」
連行される途中、俺はテレビを見せられた。
そこに映っていたのは――
俺だった。
いや、“今の俺の顔と身体”だった。
ニュースキャスターが冷静に告げる。
「指名手配中の犯人は、顔・体格ともに完全一致しています」
俺は、笑った。
最初は、乾いた笑いだった。
やがて、それは止まらなくなった。
――ああ、そういうことか。
あの店は、在庫処分をしていたのだ。
“問題のある商品”を。
パトーカーに載せられた俺は、最後にあの閉店の店の前を通った。
シャッターは上がっており
そこにはもう、がらんどうで、何もなかった。
ただ、張り紙だけが残っている。
―閉店セール 完売御礼―
その下に、小さくこう書かれていた。
―問題の在庫はすべて処分済みです―
ホラー小説【閉店セール】 END




