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婚約破棄されたので、王宮を出て制度を作り直します ~王国の財政を握っていたのは私でした~  作者: 月守いとは


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第20話 見える被害

 王都の市場に、奇妙な空白が生まれた。


 棚が空になっているわけではない。

 値が跳ね上がったわけでもない。


 ただ、いつも“当たり前にあったもの”が、ない。


「……まだ入らないの?」


 青果店の女主人が、仕入れ帳を見ながら眉をひそめた。


「例年なら、もう三回は届いているはずよ」


「さあな」


 卸商は、肩をすくめる。


「基準変更があってから、流れが変わった。

 遅れているだけだと思うが……」


 “遅れているだけ”。


 その言葉は、どこかで聞いた覚えがあった。


 昼過ぎ。


 市場の一角で、小さな口論が起きた。


「今日は、これしか出せない」

「それじゃ足りないんだ!」


 加工品を扱う露店が、商品数を減らしている。

 理由は単純だった。


 原料が、来ない。


 地方都市レイデルで起きていた遅延が、

 時間差で王都に届いただけだ。


 だが、ここまで来ると“現場の声”では済まされない。


 王国監査局。


 クレア・ミルトンは、朝から届く報告を整理していた。


「……加工業者、三件停止」


 数字は小さい。

 国全体から見れば、誤差だ。


 だが、彼女は分かっていた。

 これは“点”ではない。


 連鎖の、最初の節だ。


「クレア」


 上司が、軽く声をかける。


「市場が少し騒がしいようだが、

 想定内だな?」


「……はい」


 クレアは、即答できなかった。

 だが、否定もできない。


 想定内。

 確かに、改革案には“初期混乱”と書かれている。


「問題が大きくなる前に、

 数字で説明できる資料をまとめておけ」


「……分かりました」


 席に戻りながら、クレアは胸の奥に重たいものを感じていた。


 説明できる数字はある。

 だが、“説明できない変化”が増えている。


 その夜。


 王宮では、簡易報告が行われていた。


「市場への影響は限定的です」

「供給不足は一時的なもの」

「基準値は維持されています」


 第一王子レオンハルトは、報告を聞き、静かに頷いた。


「なら、問題ない」


 その判断は、冷静だった。

 少なくとも、数字の上では。


「殿下」


 宰相ヘルムートが、低い声で言う。


「“見える被害”が出始めています」


「致命的ではない」


 王子は、即座に返した。


「改革とは、そういうものだ」


 宰相は、それ以上言わなかった。

 言葉を重ねても、今は届かない。


 王子の判断は、間違っていない。

 だが、正解でもない。


 一方、ハルフェン。


 エリシア・フォン・ルーヴェルは、王都市場の流通データを見ていた。


「……到達しましたね」


 小さく、そう呟く。


「“見える被害”の段階だ」


 アルノーは、画面を一瞥する。


「まだ小さい。

 騒ぐほどではない」


「ええ」


 エリシアは、否定しなかった。


「だからこそ、厄介です」


 彼女は、帳簿に記す。


『王都市場:加工品供給遅延

 原因:低単価原料の連鎖切断』


 ペンを置き、少しだけ考える。


 今なら、修正できる。

 だが、修正するには――


 理解が必要だ。


「……王国は、理解を選びませんでした」


 それは、責める言葉ではない。

 ただの事実だ。


 夜が更け、市場は静かになる。


 空白は、まだ小さい。

 だが、一度空いた場所は、簡単には戻らない。


 王国は今、

 “数字が整っているうちに壊れる”

 という、最も危険な局面に足を踏み入れていた。


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