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勇者

魔石を拾いに来たレイたちは魔族に遭遇、だが、レイの攻撃によりあっけなく魔族を撃退する。

その後、依頼を達成したことを報告に一度エネに戻る。

 「ザッ…ザッ…」

 湖を背にして歩いているとようやく門へとたどり着いた。


「ギイィィィィ」

 門が開く音が響き渡る。ようやく帰ってきた実感が湧いた。


 湖畔の街エネへ戻った頃には、空はすっかり茜色から群青へと変わっていた。

 湖から吹き上げる夜風が、戦いの熱をようやく冷ましてくれているような気がした。


「……やっぱり、もう夜だね」


 レイティアがそう呟く。

 レイは頷きながら、右手に持った袋を確かめた。


 中には魔石――そして、布で包んだ魔族の腕。


 エネに入ってギルドへと進み始める。

 夜のエネは昼間とは違う静けさと湖の水の匂いが感じられた。


 そんな中でも目立つ建物が一軒、丘の上に見えた。


 そうギルドだ。


 ギルドの建物は、夜でも灯りが消えることはない。

 冒険者の出入りは昼夜を問わないからだ。


 重い扉を押し開けると、昼間とは違う静けさが広がっていた。

 カウンターには一人の受付嬢だけが残り、書類を整理している。


「すみません、依頼の報告です」


 レイが声をかけると、受付嬢は顔を上げ――

 次の瞬間、袋の中身を見て固まった。


「…………え?」


 受付嬢の視線が、布包みへ移る。


「……それ、まさか……」


 レイは黙って布をほどいた。

 露わになったのは、黒く変色した異形の腕。


 空気が凍りついた。


「……魔族、ですか?」


「はい。湖で遭遇しました」

 レイは淡々と答える。


 一拍の沈黙の後、受付嬢は深く息を吸った。


「――ギルドマスターをお呼びします」


 慌ただしく奥へ消えていく背中を、レイティアは複雑な表情で見送った。


「やっぱり……普通じゃないよね」


「まあ、そうなるよな」


 二人はどこか分かっていたかのような反応だった。


 ほどなくして、奥の扉が開く。


 現れたのは、壮年の男だった。

 白髪混じりの短髪、鋭い眼光。

 背中には年季の入った大剣を背負っている。


 ――ギルドマスター。


「……話は聞いた。

 だが、今日はもう遅い、なにより魔族を討伐するのは疲れただろう。」


 男は魔族の腕を一瞥し、低く告げた。


「詳しい話は、明日にしよう。

 今夜は休め。命があるだけで上出来だ」


 有無を言わせぬ声だった。


「明日、改めて会合だ。そこで詳しい話を聞かせてもらう。」


「わかりました。では、失礼します。」


 レイは答え、レイティアと共にギルドを後にした。


 ギルドを出ると、夜の街はどこか賑やかさを取り戻していた。

 ギルドの隣にある酒場からは笑い声と音楽が漏れ聞こえる。


「……ねえ、レイ」


 レイティアが少し照れたように言う。


「今日は……飲まない?」


「もちろん!」

 レイティアの誘いに動揺しつつも、レイは答える。


 二人は自然と、酒場へ足を向けていた。

 

 木造の酒場は温かい光に満ちていた。

 二人は端の席に腰を下ろし、軽い酒を頼む。


「……こうして飲むの、久しぶり」


 レイティアはグラスを見つめ、ぽつりと呟いた。


「私ね……小さい頃、勇者に憧れてたの。」


「勇者?」


 レイが聞き返すと、彼女は少し笑った。


「初代勇者――ユリア」


 その名を口にする声音は、どこか敬意に満ちている。


「大陸の向こうの島で生まれた女勇者。

 魔王を退け、世界を救った……伝説の人。

 迫害を跳ね除け、自信を蔑んだ人たちも理不尽な世界さえも救ったって言われてるの。」


 レイティアの視線は、遠く過去を見ていた。


「私が剣を握った理由……

 ユリアみたいになりたかったからなの。」


 しばらく沈黙が流れ、やがて彼女は語り始める。


「勇者はね、一代で終わらなかったの。その後も魔王が出現するたび、勇者が魔王を討伐したの。」


 ――初代勇者、夜葬の巫女ユリア。

 ――三代目勇者、黎明の導師アステル。

 ――五代目勇者、翠命の歌姫エルネ。

 ――六代目勇者、疾風の渡り鳥レオ。

 ――八代目勇者、大地の盾ガルド。

 ――九代目勇者、轟天の雷刃バルト。

 ――十代目勇者、不壊の鍛冶王ドラン。

 ――十二代目勇者、竜血の王子カイ。


「みんな、時代ごとに現れて、

 世界の危機を止めてきた」


「……じゃあ、他の代は?」


 レイの問いに、レイティアは首を横に振る。


「全部は知らない。

 記録が残ってない人もいるし、

 語られない勇者もいる」


 彼女はグラスを傾け、続けた。


「だから……勇者って、

 栄光だけの存在じゃないんだと思う。」

 レイティアは少し寂しそうな顔をして言った。


 レイは黙って聞いていた。


「!!…ごめん…。勇者候補のレイにこんなこと言うのはあれだね…」

 彼女は申し訳なさそうにつぶやいた。


「気にしないで!勇者候補と言っても、あくまで候補。勇者じゃない可能性もあるんだし!」

 レイはレイティアを気遣い言った。


 その後も、二人の会話は続いた。夜も更け始めたころ、二人は宿屋へ戻った。


 簡素な部屋で、ランプの灯りの下。

 レイはベッドに腰掛け、今日の話を整理する。


 勇者。

 代替わり。

 語られない者たち。

 そして――ギルドマスター。


(……あの人、全部知ってる顔だった)


 ただの地方ギルドの長とは思えない。

 魔族を見ても、驚きより“確認”に近い反応。


(明日……何を聞かれるのだろう……)


 少々の不安を感じながら

 レイは目を閉じた。

次回、勇者と魔王と世界の理

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