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魔王の存在

神話から消された勇者と魔王の因縁。

その空白の書に何かを感じるレイ。

レイはただ思う。「自分が続けていかなければ、人の歴史は歪んだままなのだ」と。

勇者候補として王都を後にする。


その道中、レイは魔王の噂を耳にする。

魔王――

その名は、あまりにも重い。


子どもは眠る前にそれを聞かされ、

大人は口に出すことを避け、

学者は文字にすることを躊躇する。


それは単なる敵ではない。

それは、この世界が抱え続ける終わらない問いだった。


「魔王は、代替わりする」


旅の途中、レイは古い祠で出会った語り部から、そう聞かされた。


魔王は不死ではない。

討たれることもある。

だが――必ず、次が生まれる。


「魔王は“資格”を継ぐ存在だ。

 王になるのではない。“される”んだ」


語り部はそう言って、喉を鳴らした。


魔王の力の根源。

それは世界干渉技能(ワールドスキル)と呼ばれる、神話級(ゴッド)の概念魔法。


その中でも、最も忌み嫌われる名がある。


――(虚る正義)(うつるせいぎ)


「正義が、災いに変わる。

 世界を救おうとした者ほど、世界に仇なす」


それ以上、語り部は話さなかった。

いや、話せなかったのかもしれない。


その夜、レイは一人で焚き火を見つめていた。

ぱち、ぱち、と薪が弾ける音がする。


「……正義が、災い、か」


小さく呟き、息を吐く。


その時だった。


――ガサリ。


草を踏みしめる音。

重く、鈍い。


レイは即座に立ち上がり、剣に手をかけた。

心臓が、どくん、と強く脈打つ。


闇の中から現れたのは、魔物だった。


獣のような体躯。

石のように硬い皮膚。

赤く濁った目が、こちらを捉える。


(ガーゴイル……か)


喉が、わずかに鳴る。


魔物が吠えた。

「ゴオォォォォォォ……!」


次の瞬間、地面を蹴り、突進してくる。


「――っ!」


レイは反射的に横へ跳んだ。

風を切る音。

爪が空を裂く。


だが、距離が近い。


(怖い。

 でも――)


レイは歯を食いしばった。


(やらなければ…俺がやられる!!)


踏み込み、剣を振る。


金属が硬いものに当たる、鈍い衝撃。

ギィンッ!


刃は浅く弾かれた。


「硬……っ」


魔物が腕を振り上げる。

間に合わない――


その瞬間、レイの胸の奥が、熱を帯びた。


(怒り)。


理由は単純だった。

この一撃で、自分が終わるかもしれないという恐怖。

それを、許せなかった。


「――っあああ!」


剣に、赤い光が走る。


火の属性(イグニス)

燃焼。


刃が触れた部分から、爆ぜるように炎が広がった。


「ギャアアアアア!」


魔物が叫び、地面に転がる。

焦げた匂いが、夜気に混じる。


レイは、荒い息を吐きながら、剣を構え続けた。


やがて魔物は動かなくなった。


……静寂。


「……勝った、のか」


膝が、少し震えている。


(俺が……倒せた…いや、倒した)


その事実が、胸に重く落ちた。


だが同時に、背筋に冷たいものが走る。


もし今の力が、

正義が、

誰かを救うためのものが――


魔王のそれと、同じ系譜にあるのだとしたら?


レイは、剣を見下ろした。


焚き火の光に照らされた刃が、

まるで何かを映すかのように、鈍く輝いていた。


次回、湖畔の町エネ

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