選ばれた日常、忍び寄る影
勇者候補として選ばれた平凡な男、レイ。
勇者としての地位も権力も、武力も、知力も持ち合わせない彼がなぜ……。
この世界は、十三の力によって形作られている。
世界はそれを属性と名付けた。
遥か昔、神話と呼ばれた時代に精霊が誕生したことにより、その概念が生まれたとされている。
世界の根幹を司る属性は十三に区分される。
火、水、木、氷、雷、土、風、鋼、竜、天、闇、光、冥。
世界の属性のうち十三のこれらは、最初に誕生した四大元素、火、水、木、氷から派生したとも伝わる。
神話の時代に、それらを統べ、均衡を保つ物語が、かつては存在した。という。
この世界の神話は不明瞭な点も多い、だが、一般的に知られている神話はこうだ。
最初は何もない混沌だった。星々は乱れ、光も届かぬ暗黒だった。
神が生まれた。その神は始原神アルケアと名乗る。
始原神、最初の神を想像す。
始原神、二柱の神を生み出し、それぞれに役割と名を与える。
秩序を守り安定を保つ神、維持神ロギア、世界を終わらせ新たな想像へ導く神、終焉神ネメシス。
神は世界を築き、人を創造した。
維持神、精霊を生み出し、属性という概念を、終焉神、自信を分離し、魔王という概念を創る。
始原神、魔王の独壇場にせぬよう、人々の中に勇者という存在を創り、世界の均衡を保つ。
人々が神の御力に触れしとき、世界は終焉を迎え、新たなる宇宙を創造せん。と。
だが今、その神話は――欠けているという。
王都の大図書館に保管されている写本は、古く、脆く、そして不自然だった。
最初と最後は残っている。
創世と、終焉の予言もある。
しかし、その中核。
勇者と魔王に関わる章だけが、まるで抉り取られたように消えていた。
誰が消したのか。
なぜ消したのか。
答えはどこにも書かれていない。
ただ一つ確かなのは、
この世界は「完全な説明」を失ったまま、今も回り続けているということだった。
近年、魔物は増え続けている。
属性の暴走も頻発し、土地は歪み、人は疲弊していた。
それでも人々は、勇者という言葉に縋る。
それが、神話の残骸であると知りながら。
レイは、その神話書の前に立っていた。
選ばれたわけではない。
啓示を受けたわけでもない。
ただ――
この空白が、ひどく気になった。
それは勇者の一節。
何も書かれてはいないはずの白書に、何かを感じている自分がいる。
「……誰かが、続きを書く必要があるんじゃないか」
それは独り言だった。
だが、その瞬間、神話書の空白が、わずかに軋む音を立てた気がした。
気のせいだろう。
そう思いながらも、レイは背を向けることができなかった。
そして決めた。
世界を知るために。
欠けた神話の意味を確かめるために。
勇者候補として、旅に出ることを。
次回、魔王の存在




