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平凡な勇者候補

勇者とは

剣を振るう者か

魔法を極めし者か

それとも

生まれながらに選ばれた存在か


――否


この世界で語られる勇者の多くは

勝者の歴史であり

敗者の記録は残らない


人々を救った者が

必ずしも救われるわけではなく

世界を守った者が

世界に守られるとも限らない


これは

勇者になれなかった男の物語


そして

勇者であり続けてしまった男の物語


笑顔を生み

絶望を背負い

それでも歩くことを選んだ


一人の人間の

物語である

朝の空気は少し冷たく

レイ・フェルロストは息を吐いた

ふぅ と白く曇る


「よし」


小さく呟き

指先を軽く鳴らす


ぱち


(てのひら)に小さな火が灯る

揺らめくそれは弱く

焚き火にもならない程度


普遍技能(ノーマルスキル)《着火》

誰でも使える

誰でも持っている


「……ちょっと弱いな」


火を消し

今度は反対の手を桶に向ける


ぽた

ぽた


水が落ちる

これも普遍技能(ノーマルスキル)《湧水》


村の子どもたちが笑った


「レイ兄ちゃん またそれー」

「お湯作ってー」


レイは苦笑しながら

火と水を同時に操る


しゅうう


白い湯気

ぬるい けれど心地いい

汎用技能(コモンスキル)《温成》


「はいはい 熱くはならないからな」


子どもたちは

それでも嬉しそうに笑った


(どうしてだろう)

(ただそれだけなのに)


胸の奥が

少しだけ温かくなる

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


村の広場は

朝から騒がしかった


「勇者候補選定だってよ」

「今年は誰だ」

「まさかレイじゃないよな」


レイは聞こえないふりをした


いや

聞こえていた

けれど気にしないようにしていた


(自分が選ばれるはずがない)


剣も振れない

魔法も弱い

戦闘技能は皆無


ただの

村の便利屋


それがレイ・フェルロスト


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

勇者候補選定のため

俺もほかの候補者たちに続いて

神殿の中へと入る


神殿の中は

奇妙なほどに冷たく

始原神の像が不気味に

光って見える


俺は祭壇の方へ


ゆっくりと歩いていく


ふと横を見た

神殿の水晶は

静かに青く輝いていた


候補者が一人ずつ

手をかざす


光が強まる者

風が渦巻く者

魔力が溢れる者


歓声

ざわめき


そして


俺の番


「……レイ・フェルロスト」


名前を呼ばれ

一瞬だけ

胸がきゅっと締まる


(やめとけ)

(期待するな)


手を伸ばす


触れた瞬間


――――


(……?)


音が

消えた


風が

止まった


ほんの

一瞬


ぱき


水晶に

微かな亀裂


誰も気づかない

誰も見ていない


次の瞬間


「……反応なし?」


神官が首をかしげる


「え?」

「今 光った?」

「気のせいだろ」


ざわ

ざわ


レイは

そっと手を引っ込めた


心臓が

早く打っている


(今のは)

(何だ)


けれど

誰も何も言わない


結論はすぐに出た


「勇者候補の一人として

 レイ・フェルロストを認定する」


――沈黙


「は?」

「なんで?」

「嘘だろ」


レイ自身が

一番驚いていた


「え……俺?」

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

神界


雲より高く

時間の概念すら曖昧な場所


始原神たちが

静かに集っていた


「……揺れたな」


(時)(やつ)だ」


「まだ残っていたか」


冷たい声が

空間を切る


「勇者候補の一人」

「凡庸 いや それ以下だ」


「だが触れた」


「ならば危険だ」


結論は

あまりにも早い


「抹消を準備せよ」


「世界を壊す芽は

 芽のうちに」

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


その頃


村の外れ


レイは一人

赤く燃える夕焼けを見ていた


理由はわからない

けれど


胸が

ざわつく


「……変だな」

レイはつぶやいた


その足元で


小さな光が

ふわり と舞う


精霊だった


にこっ


笑った気がした


(この者は)

(まだ 世界を信じている)


レイは

それに気づかず


ただ

微笑み返した


――物語は

まだ始まったばかりだった

次回「選ばれた日常、忍び寄る影」

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