088 第7章エピローグ
「「「「「ウオォォォォォォォォォォ」」」」」
激闘の興奮が冷めやらぬ会場。
「「「「「れっぐべっりる! れっぐべっりる!」」」」」
この国の顔でもあるナオの勝利を祝って二つ名コールが響き渡る。
そんな中、意識を取り戻したクバロット。
地面に足を延ばしたまま、背を妹に支えられて体を半分起こす。
勝者であるナオの体もボロボロ。
3人の生徒と一人の女教師に支えられながら、ゆっくりとクバロットの元へと近づいたのだ。
「ろっちん、俺の勝ちだ」
「俺はまいっちゃいないが……今回は負けを認めよう。それで? お前は何を望む?」
見上げるものと見下ろすもの。
勝者と敗者が完全に決まった瞬間だ。
「今回も、だろ」
「うるさい。それで、何を望むんだ?」
二人の幼馴染。昔から二人は良く衝突していた。主にクバロットからナオに吹っ掛けていたのだが、いつのころからか敗者は勝者に一つ願いをきくこととなっていたのだ。
「俺ができる事なら一つかなえてやるよ。お前の教え子から手を引けって言うか?」
「いや、それは大丈夫だ。俺の願いは【貢ぐ者】を消す方法だ」
「ほう……。【貢ぐ者】をね……」
「そうだ。【貢ぐ者】は君が仕組んだことだ。という事は消す方法もあるはずだ」
自分を見上げてくる視線を強く見返すナオ。
「そんな方法は無い」
だが、願いも虚しく即答されてしまった。
「嘘をつけ! 自分でやったんだろ!」
「確かに俺がお前に呪物を食わせて【貢ぐ者】を植え付けた。だからと言ってそれを消す方法を知っているとは限らん。人を殺しておいて、生き返らせろと言っているのと同じだ」
「それは屁理屈だ!」
「まあ聞け。俺がお前に食わせた呪物はダンジョンの奥深くで見つかった神クラスアイテムだ。誰も見たことが無く貴重な国宝級のもの。当初はその使い方すら不明なものだったのだ。それを研究していた老師でも使い方だけが分かっただけ。俺は老師の言いつけ通りにそれを使っただけだ」
「じゃあその老師に聞けば」
「老師はもう死んだよ。つまり【貢ぐ者】についての情報はもうない」
「そ、そんな……」
「良い顔してるじゃないか! どっちが勝者かわからんなぁ! ハーッハッハ! これでお前の願いは聞いてやった。馬鹿な奴だ。もっと現実的な願いにしておけばよかったのになぁ。今回の戦いは俺の負けだ。だけど俺は諦めたわけではない。傷を治して再びこの国にやってくる。教師としてな。その時にはお前はもう特進クラスにはいない。なぜならお前はもう教師の資格を満たしていないんだからなぁ!」
「ぐっ!」
ナオは今、教師に必須のスキルの一つ【王国法】を失っている。
スキルを確認するためのスキルストーンに触れればそのことは一目瞭然。【王国法】のスキルストーンだけが光らずに、教員の資格が無いことが周知の事実となってしまうのだ。
「そこは大丈夫ですわよ」
そんな会話に割って入ったのは、ナオから【王国法】を貢がれたリクセリアだ。
「わたくし少しだけ調べましたの。そしたら【王国法】の古い古い規則の中にこんなのがありましたのよ。
『クラスの担任は教員資格が必須であるが、例外として別の教員資格のある者または教員資格取得の条件を満たしたもの3人以上が補佐することでクラスの指導を可能とする』
つまり、ナオ先生に教員資格が無くても、わたくし達3人でナオ先生を補佐しますわ!」
「ば、ばかな! それじゃあ本末転倒だ! 生徒にサポートされる教師など聞いた事もない! それに、ちゆちゆよ、恥ずかしくないのか? 教員資格が無いくせに生徒を指導するなんて!」
「ろっちん。君が圧倒的に格下の俺に負けたように、教師だって人間だ。完ぺきじゃない。だから成長する。これからは見習い教師かもしれないが、【貢ぐ者】を克服して再び教員資格を手に入れる!」
「そうよ。もちろん私もサポートするわ。私は現役の教師。ナオ先生をサポートする条件を一人で満たしているしね。頑張りましょうナオ先生。【王国法】の代わりとなる例外スキルは必要数は多いけど、先生なら大丈夫よ」
背中を支えるカリーナ先生も割って入ってくる。
「馬鹿なっ! だが俺は諦めんぞ! お前のクラスの担任としての座を!
クハハハハッ! 【貢ぐ者】じゃなくて担任をあきらめろと言っておくべきだったな! お前は教え子よりも自分の事を優先したんだ! その結果、俺にクラスを取られることになる!」
「それは大丈夫だって言ったよな。そうじゃなかったら俺は迷わずにそっちを選んだ」
「大丈夫だと? 何が大丈夫なんだ! 馬鹿にしているのか?」
「うーん、だってろっちん、分かっているのか? 帝国とうちじゃあ教員資格の必須スキルが違うんだぞ?」
「なんだと?」
「ろっちんがグロリア王国の教員に必須の【初期消火】を持っていないことは、俺は知っていた。間違いないよな、ろっちん」
ナオは言葉にするのは伏せたが、ナオが相手のスキルを見抜くスキル【スキル看破】を所持していることはクバロットも知っている。
「こんなこともあろうかと、学園からスキルストーンを借りてきました。先生どうぞ。【王国法】のスキルストーンです」
タイミング良くメルがカバンからスキルストーンを取り出した。ここは突っ込むべきところではない。
メルの持つ石にナオが触るが石は光らない。代わりにリクセリアが触ると淡く光り出した。
それぞれのスキルに反応するように作られたのがこのスキルストーン。聖ブライスト学園の教員として採用されるには教員資格の必須スキルのスキルストーンを全て光らせて見せる必要がある。
「さあろっちん【初期消火】のスキルストーンだ」
こぶし大の石をずいっとクバロットの元へ持っていくナオ。
もちろん【初期消火】を取得しているナオが触れているので石は淡く光っている。
「必要ない! 俺は【初期消火】は持っていない! ええい、こんな学園潰してやる! あの使えないクソデブ円卓のやつと一緒にな!」
バチンとナオの手を払い、怒りを露わにして声を荒らげるクバロット。
そんな時――
『『『『『『『『『『『『待ちたまえ』』』』』』』』』』』』
『にゃっ? どこからか声が!』
解説のアシュリーがキョロキョロしていると、闘技場内備え付けライトが闘技場の何もない場所を照らし出した。その数12か所。
そして地面に穴が開き、せり出すようにして12の人間が周囲を囲むように現れたのだ。
「円卓の皆さま……」
その中に見知った顔を見つけた。自分の父親である。
だが、ナオはそれを無視することにした。
『そうだ。ナオ・クランク教員。我らは円卓。聖ブライスト学園の最高意思決定機関』
「でゅふっ! そして我こそがその円卓の一人、ゲルド・デュフォンなり」
ちゃっかりとその輪に入るように駆けだしたゲルド氏だったが。
『否! ゲルド・デュフォン! 卿は犯した罪により円卓を追放する! 二度とこの学園の門をまたぐことは許されない』
「そ、そんな! でしたら、陛下! わたくしめはずっと陛下のおそばにおりますゆえ!」
「いいだろう帝国に来てみろ。その瞬間、お前を大罪人としてしょっ引いてやる!」
「ひえええええええ」
それがゲルド氏の最後の言葉だった。
この後、有力貴族であったデュフォン家は落ちぶれて廃嫡することとなる。
そんな事は関係なくお話は進む。
『クバロット・ラザーナ皇帝陛下。いかに貴殿であれど他国の教育制度への過剰干渉を行ったらどうなるか知っておられよう。それはすなわち戦争行為』
『大切な教え子らを蝕むというのなら、グロリア王国は全力をもってお相手する所存ですよ』
『帝国とて先の戦争の傷は未だ癒えておりませんね? そんな中、多数の英雄を要する我がグロリア王国を相手にされますか?』
口々に円卓達が理屈を並べ立てる。
もちろんクバロットがそれを黙って聞いているはずもなく――
「フンッ! 帝国はその程度の脅して引くような国ではない。俺が一声上げれば全国民が一丸となってお前たちを打ち倒すだろう」
「ろっちん!」
「だがっ! 国民の事を考えないのはおろかな為政者だ。はらわたが煮えくり返るような思いだが、今回は手を引くとしよう」
「ろっちん……」
クバロットは唯の力任せの脳筋ではない。話をすれば聞いてくれるし、理解してくれる。それを知っていたナオは口を挟もうとしたが、自分が諭す前にクバロット自らが折れてくれたことに安堵した。
「だがなっ! ちゆちゆ! 俺は諦めたわけじゃない! 絶対にお前の居場所は奪ってやる! 帰るぞ、バルフェーザ」
クバロットは立ち上がるとマントを翻して闘技場を去っていく。
「ろっちん! 君がその気なら俺のクラスに来るといい! 必須スキル取得のために教えてやるから!」
その言葉にクバロットは一瞬足を止めたが、振り向くことは無く、そのまま闘技場の闇に消えていった。
こうして幼いころからの私怨に端を発した戦いは終結したのであった。
ここまでお読みいただきありがとうございます。
これで第7章は完結となります。
ナオが出張に行かされて、リリットール女学院ではいろいろな誘惑を受けて、逃げようとしたら局所的に弱そうな名前の軍人たちが襲ってきて、学園に帰り着いたとしたら実は幼馴染で拗らせていて、主人公がボコボコにされる所ありましたよね。教え子たちの献身的な介護でナオは立ち直って、修行を経て、ライバルであるクバロットに勝利しました!
いつもならここで、応援よろしくお願いします、というところですが、実は次回が最終回!
このお話のエピローグとなります。
ぜひとも最後をお読みいただければと思います。




