087 決着
『クバロット選手、轟沈! 完全に沈黙しましたっ!』
『そ、そんな馬鹿な! クバロット陛下が、負けた!? そ、それじゃあ、俺はどうなる! 円卓の一員でありながら、学園を裏切ったこの俺は! くそっ! 終わらんぞ! このままでは終わらんぞ! 幸いここには皇帝の妹がいる。こいつを人質にして、何食わぬ顔で学園側に戻ってやる!』
『マイクが全部拾ってるんですけど……』
全てを捨てて投資した先がまさかの破綻。
それを目の当たりにした円卓の一員、ゲルド・デュフォンは声を荒らげた。
そんな小物感満載の企みは解説のアシュリーが持つマイクを通して会場中にとばらまかれる。
『デュフォン卿、何を! やめなさい!』
『でゅふふふふ! 大人しくするんだバルフェーザ嬢。ちょっと拘束させてもらうだけだ。その過程であんなとこに触ったり、こんなところが当たったり、お綺麗な髪の毛の匂いを嗅いでしまったりするかもしれませんが、全部、拘束するための些事です』
『近寄るな、下郎!』
両腕を上げ、ワキワキと指を動かすゲルド。
心底気持ち悪いという拒絶を込めた表情のバルフェーザが後ずさる。
大多数の観客の目が解説席に釘付けになる中……。
「あれ? なんか光ってないか?」
解説席の反対側にいた観客が口を開く。
渦中の観客席を見るためにおのずと視界にはいっていた闘技場の異変に気付いたのだ。
「本当だ。倒れた皇帝の体が光って……」
力なく倒れていたクバロットの体が淡い光に包まれたかと思うと……クバロットはパチリと目を見開き……そして光に包まれたまま立ち上がったのだ。
――パキリ
誰も聞き取れないほどの小さな音がして、クバロットが身に着けていた腕輪が割れ落ちた。
そこでクバロットを包んでいた淡い光も消えてしまう。
「ろっちん……そんな馬鹿な……」
ナオは驚きを隠せないでいた。
あの状態から復帰するのは不可能なはずだった。それは技をかけた本人が一番良く分かっている。四肢を内臓を急所を首を脊椎を、完全に破壊したのだ。
『クバロット陛下ぁぁぁぁぁ! わたくしめは信じておりました! 陛下が必ず勝利することを!』
『おっさんの素早い手の平返し。さすがにアシュリーちゃんもドン引きです』
「フン。俺は何も見てないし聞いてもいない。大人しくそこでバルフェーザと一緒に座っていろ」
『おぉぉぉぉ! なんと慈悲深いお方! このゲルド・デュフォン、最後まであなたについて行きますぞ!』
そんな横でバルフェーザの胸中は穏やかではなかった。
(このクズめ。兄様が許してもわたくしが許さないわ。今後かならず兄様の足を引っ張る時が来る。その前に秘密裏に処理してやりますわ)
などと思ってはいるが、実際は裏切りうんぬんよりもゲルドが兄に情けを掛けられたことの方が気に入らない、兄に情けをかけられるのは自分だけでいいと思っているブラコン。
そんな外野の様子はさておき、中央の闘技場では物語が進む。
「ちゆちゆよぉ、さすがの俺も死ぬかと思ったぜぇ。ていうか、お前、俺の事を殺す気だっただろ。お前が殺人者として裁かれるのもいいんだが、その結果俺が死んだのでは浮かばれない。この復活の腕輪があってよかったぜ」
「復活の腕輪……。そいつがろっちんを生き返らせたのか」
「まあ、保険ってやつだ。まさか保険を使っちまうとは思わなかったがなぁ。戦争中でも一度も発動したことは無かったが……さすがちゆちゆだと改めて思ったぞ」
ゆっくりと歩を進めてくるクバロット。
対するナオは完全なデッドエンドドライバー放ったとはいえ、それでも技の威力が己にも返ってきている。そして、先ほどまでずっと殴られ続けていたダメージもあり、もはや戦える状態ではない。
そんなナオに向かって、クバロットは右こぶしを上げる。
もはや体が思うように動かないナオへ止めの一撃を放とうというのだ。
そして――
――ぽすっ
振り上げた右こぶしは……力なくナオの頬に当たった。
復活の腕輪で息を吹き返したものの、クバロットの体ももはや戦える状態ではなかったのだ。
「ちゆちゆ……おれは……まいってない。あれは嘘だ……」
「ああ……分かってる。君がまいっていないことは分かってるさ」
「ふっ……」
笑顔を浮かべたクバロットは力尽きてナオの体へと寄り掛かった。
「だけど今回も勝ちは貰うよ」
すでに気絶しているクバロットの耳元でそう呟き、スッと体を後ろに引く。
寄り掛かっていたクバロットは支えを失い、地面に倒れ込む。
――ドサリ
『クバロット選手ダウーン! ルール無用のデスマッチですがカウントを取りますね! テン、ナイン――』
解説のアシュリーがカウントを刻んでいく。
「兄様っ!」
解説席からひらりと飛び降りて兄の元に向かう妹バルフェーザ
『すりぃーーーーーー、つーーーーーーっ、わんっ!』
――ゴーン、ゴーン、ゴーン、ゴーンッ!
学園の鐘が鳴る。
『勝者っ! ナオ選手っ! この因縁の、クバロット杯、大嫌いなアイツをボッコボコにして屈服させて、全部俺様のものにしちゃうぜ大会を制しました!』
「「「「「ウオォォォォォォォォォォ」」」」」
怒号のような歓声が会場内に沸き起こる。
クバロットの元にバルフェーザが駆け寄ったように、勝者であるナオにも、リクセリアが、アゼートが、メルが、カリーナが駆け寄っていく。
そして口々に勝利の祝辞を口にし、勝者であるナオを褒めたたえる。
力を使い果たしていたナオはそれでも笑みを浮かべて勝者の威厳を保とうとするが、足がふらついたところをカリーナ先生に支えられて、苦笑いを浮かべた。
お読みいただきありがとうございます。
長かった戦いもとうとう決着! さすがにこれ以上復活してきません!(展開シーソー好きな作者からの断言
次回をお楽しみに!




