086 本当は聞こえているだろ
ナオはスキル【記憶ボックス】を発動すると、修行の前に呼んだ邪本の一説を思い返す。
【……空へと舞う天使。それを打ち滅ぼさんとする邪主は共に空から舞い降り、夕日のごとく天使を落日させ、五体を砕き、そして再び宿敵を地に伏せさせる。これぞ絶対天使抹殺技法なり……】
(そうだ、間違いない! 完成版のデッドエンドドライバーのイメージが見えた!)
殴られっぱなしだったナオの目が光を取り戻す。
「ろっちん! 最後の勝負だ!」
悦に入って殴りが雑になっていたクバロットの両腕を掴むナオ。
「またバカの一つ覚えか! 上に投げる技はもう破っている」
クバロットは自分の腕をつかんだナオの手を外そうとはしない。
何度やっても同じことだと思っているし、実際に再び破って見せて心理的なダメージを植え付けようとしているのだ。
「そうだな!」
『おおーっと! ナオ選手、再びクバロット選手を空へと放り投げるのかと思いきや、その場で回転しだしたぞ?』
「ぐうっ! 何をするつもりだ!」
「教えるわけがない! 自分の体で知るんだな!」
グルグルと独楽のように回転するナオ。
ナオが掴んでいるクバロットは遠心力によって外側へと引っ張られ、両足が地面と水平になってブンブンとナオに振り回されている状態。
「う、腕が……抜けるっ!」
回転の勢いは止まらず、クバロットの体が空気を押しやる低い音が辺りに響き始めたころには、ナオは掴んでいたクバロットの胴体から手をずらしてクバロットの腕をガッチリと掴んで振り回すようになっていた。
そうなると遠心力は腕の付け根に一気にかかり、そして――
「ぐわぁつ!」
そのまま肩へダメージを伝えて破壊する。
「これが、すでにデッドエンドドライバーなんだ! 地面に居る間から体の破壊を始めるのが! そらっ!」
『ナオ選手、遠心力を利用してクバロット選手を空へと投げたぁ! クバロット選手は肩の痛みから戻ってこれない! そんなグロッキーな状態のクバロット選手に向けて、ナオ選手が跳んだっ! そして先ほどの再来! 足を掴み股関節にダメージを与えて、弓なりの体勢にロック!』
「ぐうっ! 関節がっ! ぬ、抜けられないっ!」
首に手を回して掴み、もう片方は足先を掴む。膝を腰に当て、しなる弓のような体勢にロックを決める。
「うおぉぉぉぉぉぉぉ! デッド! エンド! ドライバァァァァァァァァァッッッ!」
『そして落下ぁぁぁぁぁ! 腕、足を砕かれたクバロット選手、もはや技に抵抗する力ものこされていない!』
空を切る圧が、音が二人を襲う。地面への距離がみるみるうちに近づいてくる。
「ま、まいった! 俺の負けだ! 認める!」
「何か言ったかろっちん! 風の音で聞こえないぞ!」
「まいったって言ってるんだ! お前、本当は聞こえてるだろ!」
「いーや聞こえてない。昔からろっちんはまいったって言った後いつもいつも「あれはウソだ、まいってなんかない!」って言ってただろ! だからろっちんはまいってない!」
「お前っ! いや、ほんとマジで! まいっ――」
――ドガァァァァァァァァァァン
『いったぁぁぁぁぁ! ナオ選手の渾身のデッドエンドドライバーが炸裂したぁぁぁ!』
「ぐぼぁ!」
全身で一撃を受けたクバロットは口から血を吐き出した。
ものすごい衝撃。
一度目を超える技の反動がナオを襲う。
(さっきは技の反動で俺の体は弾き飛ばされた。だけどそれでは失敗なんだ。ここまででは未完成! この段階ではまだデッドエンドドライバーは終わっていなかったんだ!)
ナオは最後の邪本の最後の一説をおもい浮かべる。
【夕日のごとく天使を落日させ、五体を砕き、そして再び宿敵を地に伏せさせる】
(再び地に伏せさせる。それはつまり、落下の後、もう一度ダメージを与えることに他ならない! この反動を利用して!)
地面からの反動で体が軋む中、なんとかクバロットの腕に手をかけて、反動の勢いを利用して、そのまま、再び、宙を、舞う!
(今日こそ! 絶対にっ! まいったと! 言わせてやるっ!)
そしてすでにグロッキー状態のクバロットの頭を尻の下に敷き、両腕で足を掴み、クバロットが逆さになった状態で体勢を固定して――
『こ、これは、まだ終わっていなかったっ! ナオ選手の放つデッドエンドドライバーは終わっていなかったっ! 二度の落下っ! クバロット選手の五体を完全に砕くためのとどめっ!』
「そうだっ! 聞こえているかろっちん! これが完成版のデッドエンドドライバーだっ!」
――ドォォォォォォン
一回目ほどの高さは無い。だけど完全に拘束されて首から地面に落ちたそのダメージは、これまで破壊されてきた体の他の部位のダメージと合わさって全身に伝わり、急所を完全に破壊した。
砂煙が上がる中、ナオは技を解き、立ち上がると、すっと右こぶしを天に上げた。
「「「「「ウオォォォォォォォォォォ」」」」」
大歓声が上がり、闘技場内が音の渦に包まれる。
「すげえ、あんな技、見たことねえぜ……」
「ああ、あれが、赤毛のスキル開拓者。俺たちの国の英雄……」
お読みいただきありがとうございます。
これが完全版デッドエンドドライバーだっ!(作者の意気込み




