084 秘密にしていたこと
「もう一つ、お前が哀れだという事がある。お前は、こいつの熱烈なアプローチを受けて満更でもなくなってこいつに惚れたんだろうが、そもそもこいつはお前の事が好きだからアプローチしていたのではない」
『どういうことだい?』
「あの時、お前はちゆちゆからスキルを貢ぐスキル、【貢ぐ者】を貢がれていた。それを知っていたこいつは、そのスキルを悪用し、お前からスキルを奪い取ろうとしたのだ。だからお前を抱こうとしたり、キスをしたのだ」
『なっ……』
何故クバロットがキスをしたことを知っているのかとか、本当にナオがそんなことを考えていたのかだとか、いろいろな気持ちがぐちゃぐちゃでごちゃまぜになり言葉が出てこない。
「それは違う! 俺はカリーナ先生からスキルを奪おうとなんてしてない! カリーナ先生が俺みたいに苦しまないように【貢ぐ者】を戻してもらおうとしただけなんだ!」
『本当なんだな……』
「信じてください!」
移動してしまった【貢ぐ者】によって、あのときカリーナは憔悴していた。そしてその原因を作ったナオはカリーナを助けるために全力を注いでいた。
それを伝えるために、言葉に、強く、強く想いを込めるナオ。
そしてそれは皮肉にも観客たちの前で自分がスキルを貢いでしまう人間だという事を認めるものでもあった。
『あぁ……。聞きたくなかった。私は本当にクランク先生の事を好きになったんだよ。でも、クランク先生はただスキルのために私をもてあそんだんだね……』
「そ、それは……」
ナオの想いはカリーナには伝わらなかった。
いや、伝わったには違いない。ただ、受け取り方が違ったのだ。
ナオのしたことはカリーナのためだったかもしれない。だが結果として【貢ぐ者】というスキルを戻してもらうために、カリーナの心を利用したのだから。
「そうさ。こいつは最低な奴だ。女の気持ちも考えることのできない脳筋の童貞。お前には同情するよ、カリーナ・シェコワ。だからこそ、俺はお前に興味が湧かない。ちゆちゆと関わった人間だが興味が無いのだ」
『おおっと、昼ドラのような展開ですが、それ以上に衝撃的なのは、クランク選手は好きになった相手にスキルを貢ぐスキルを持っているってことです。大丈夫なんですか、こんな公でそんなヤバイ話をして』
『言いわけないでしょ!
このクソ皇帝! あなた、言っていいことと悪いことがあるってわからないのかしら!』
「口が悪い至宝だな。もちろん言っていいことだ。
観客たちよ! お前たちが赤毛のスキル開拓者と呼んでいるこの男は、人知れずスキルを使って、相手のスキルを奪い続けて、そして数百ものスキルを持つようになったのだ。それを知った上で言えるのか? この男が英雄であると」
『冗談じゃないぞ! そんな悪い奴だったなんて』
『そうよ、犯罪者じゃないの!』
『俺たちを騙していたなんて、許せない!』
クバロットの煽りを受けて観客たちが怒りを溢れさせる。
「待ってくれ! 誤解だ! 俺が覚えたスキルは人から奪ったものじゃない! ずっと一人で研鑽し続けた結果なんだ!」
『嘘つけ! この引きこもり脳筋が! お前の話なんか信じられるか!』
『そうよそうよ。俺は童貞です、みたいな態度でいったい何人の女を泣かせてきたのよ!』
「そ、そんな!」
「ククク、どうだちゆちゆよ、名声が地に落ちた気分はよぉ。いいざまだなおい」
「ろっちん! 訂正しろ!」
「何をだ? お前がスキルを貢ぐのは本当の事だろ。それにカリーナ・シェコワからスキルを奪ったことも」
「それは君のせいだろ!」
「言い訳をするな。俺のせいだとしても、お前はそう行動した。それは俺のせいではない」
「ぐっ!」
『この売国奴!』
『人類の敵!』
『さっさとやられちまえ!』
先ほどまではまだイーブンであった観客たちの友好度はすでに地に落ちた。
観客たちはナオを敵と、犯罪者と、人間のクズとみなして罵声を浴びせ続ける。
『ナオ先生、話の続きは戦いが終わってからしましょう』
会話の打ち切り。もはやこの場では話すことは無いというカリーナの意思の表れ。
そう告げたカリーナはマイクを置き、背を向けて会場を去ろうとする。
「待って、カリーナ先生! 俺は確かにカリーナ先生からスキルを戻してもらうためにいろいろやった。でもそれはカリーナ先生を好きじゃないってことじゃない! カリーナ先生は素敵だ! みんなそう言ってるし、俺もそう思ってる!」
ナオの言葉はカリーナに届いているはずだ。
だが、カリーナは振り向かずにそのまま歩を進める。
「カリーナ先生!」
ナオはカリーナの元へと駆けだす。
「おい、ちゆちゆよぉ、戦いの途中にどこに行こうっていうんだ? 戦いから背を向けるってことは、お前の負けでいいってことだよなぁ?」
「うるさい! あとでボコボコにしてやるから大人しく待ってろ! お前よりもカリーナ先生の方が大切だ!」
捨て台詞を残して跳躍し、闘技場を超えて観客席へ。
そして、今まさに去り行くカリーナの手を掴んだ。
「カリーナ先生、待ってください。
どうして我慢するんですか。そんなに我慢しなくてもいいんです。だから、後で、なんて言わないで……」
「ナオ先生……」
銀色の髪の毛に隠れていて周りの観客たちには見えていなかったが、振り向いたカリーナの目じりからは涙が溢れていたのだ。
「先生はなんでもできるカッコイイ先生なのに、恋愛は不器用なんですよね。
俺の自惚れかもしれませんが、教え子たちと違って先生は俺に一歩引いてる感じがします。それが教え子たちに遠慮してなのか、恋愛が不器用だからなのかはわかりません。だけど、俺にはそんなことは必要ありません。ぶつかってきてください。どんなに力いっぱいぶつかってきてくれても大丈夫です。だって、俺は脳筋武芸教師ですから」
鍛え上げられた胸筋を拳でドンと叩くナオ。
『戦いを捨てて女を取ったクランク選手っ! これはこれで潔い! とはいえ、負けは負けです』
「待て」
『へっ? あの、クバロット選手、待てとは』
「この戦いはルール無用。戦いを途中で放り出しても構わん」
『た、確かにルール無用ですが』
「それに、これで終わりでは俺が満足しない。もっとだ。もっと滾らせて欲しいんだよ!」
『は、はぁ。さあ、クバロット選手のOKも出たので、改めて二人の様子を振り返ってみましょう』
「クランク先生、私、ぶつかって行ってもいいの?」
「ええ」
「自作のお弁当を持って行って、あーんしてもいいの?」
「ええ」
「大好きなお酒、一緒に飲んでくれる? ずっとずっと、朝まで飲んでくれる?」
「ええ」
「じゃあ、私をおんぶして」
「えっ」
「私を負ぶってあの金髪ロン毛皇帝を倒して」
「え。ええ……」
『いったいどういう展開なんでしょう。一瞬にしてデレデレになってしまいました。これが3人の教え子を落とした赤毛のスキル開拓者の力なんでしょうか。まったく分かりません!
しかーし、さすがにルール無用と言っても二対一はいけません!』
「ですよね。カリーナ先生、さすがに負ぶって戦うのはちょっと。スキルも貢いでしまいますし」
「じゃあ、あの子たちが知ってて私が知らないクランク先生の秘密、教えて。そしたら許してあげる」
「もちろんいいですよ」
ナオは話した。
【貢ぐ者】のスキルがどういうものなのか。スキルを貢ぎ終えたら死んでしまうこと。これまでの人生がどうだったかという事。その原因がクバロットにあり、そのために今戦っていることを。
その声は誰に隠すと言うものでもなく、マイクを通じて全ての観客にも伝わった。
「ありがとう、ナオ先生。これで私もあの子たちと同じ。もう遠慮するのは止めるよ。だけどこれ以上はフェアじゃない。だからこの続きは戦いの後で。あの子たちと肩を並べて、その上であなたに選んでもらうわ」
「はい。見ていてください。俺が勝つところを」
「ええ。信じてるよ」
ナオは再び闘技場へと進む。
そしてその姿を観客たちの声援が後押ししていた。
ナオの生き様を、包み隠さずにそれを伝えた素直さを、観客たちは認めたのだ。
「待たせたなろっちん」
「せっかくどん底に落としてやったのに台無しにしやがって。まあ、それはただの余興だ。俺はお前に勝って特進クラスを手に入れる。その未来になんら変わりはない」
二人が中央でにらみ合い、そして再び戦いが始まる!
お読みいただきありがとうございます。
ギャグ展開が続く中のシリアス(?)のオアシス。【貢ぐ者】の秘密は失ってしまったけど、カリーナ先生は失わずに済んでよかったね!
さて、間を挟んで再び戦いが始まる!




