081 幼馴染たちの激闘
「ちゆちゆ、お前は本当に役に立ってくれた。俺がこれほどに強くなったのも、半分はお前の功績と言える。【フルオートパッシブスキル】」
パッシブスキルは常に起動していて自動で効果があるスキルだ。ただし自分でオフにすることも出来る。普通に生活する上では過剰で邪魔になる場合もあるのでスキルを切っている人もいる。再びオンにするには意識的にスキルをオンにする必要があるのだが、【フルオートパッシブスキル】はそれを所持スキル全て一気にやってくれる。
「くっ! 見ただけで分かる。すごいパッシブスキルの量だ……。だが、戦いはパッシブスキルの多寡で決まるわけじゃない!」
ナオも自分のスキルを一つずつオンにして、自身の能力を強化していく。
「お前の準備を待つつもりはない。観客も早く虐殺を見たがっているだろうからなぁっ!」
クバロットが大きく腕を振り、手のひらをナオの方へ振りかざした。【圧縮気弾】だ。
空気を圧縮して金属以上の重さを持った気弾を作り出し、それを相手にぶつけるスキル。
「そんな見え見えの攻撃に当たるかっ!」
空気が元となった気弾は透明であるが、移動する最中は周囲の空気を振動させているため、よく見ると移動経路を判別することはできる。
元々ナオはこのスキルを持っていたのでそれを知っている。
「お返しだっ! 【ドラゴンブレス(炎)】」
ナオは肺を膨らませる程に大きく息を吸い込んだと思ったら、それを炎として吐き出した。
まるで意思を持ったかのようにクバロットへと襲い掛かる炎。
「おいおい、そんなスキルで大丈夫か?」
焦る様子も無く引き続き【圧縮気弾】を生み出すと、炎の中へと投げ込み、高温になって膨張した圧縮空気がはじけ飛ぶことで炎をかき消した。
「もちろんそれは囮だ!」
ナオは破られる前提で炎を吐いていた。それは次への布石。
かき消された炎に紛れて【縮地】を使い、瞬間的にクバロットへの距離を詰めるナオ。
「【剛腕】」
「【瞬拳】」
クバロットの拳とナオの拳がぶつかる。
「【回転烈蹴脚】」
「【棘出し】」
「なんの! 【鋼鉄の足】!」
拳と拳の勝負に分が悪いと感じたナオは、手の力を抜いてクバロットの【剛腕】をやり過ごすと、体を落とし、蹴りに出た。狙うは拳を振りかぶっている側の胴体。スキル後の硬直に足をぶち込むのは定石であり、その隙を狙われることはクバロットも分かっていたため【棘出し】という指定した体の部位から鉄の棘をを生えさせることができるスキルで、逆に狙って来たナオの足を串刺しにしようと企んだのだ。
それを察知したナオは、足を鋼鉄化するスキルを使って鉄の棘と同じ強度へと変え、無理やり棘を打ち砕く作戦に出た。
鉄の棘と鋼鉄の足、威力はナオの鋼鉄の足に分があると踏んだクバロットは【バックステップ】を使い、距離を取ることでナオの攻撃を回避した。
『おおーーーーっとぉ! しょっぱなからスキルの応酬! 皆さん見えましたか? 解説するとかくかくしかじかで、お互いに一歩も譲らない展開であることが分かりますっ!』
「まあこれくらいやってくれないと、ここまで準備した甲斐がないからなぁ。一週間前のおまえなら今ので無様に負けをさらしていたはずだが、この一週間で腕を上げたか?」
「ああその通りだ。だから全力で来ることを勧めるよ! 力を出す前に負けたなんてことになったら悲しいだろ?」
「ほざけ。次はこっちから行くぞ。お前はこのスキルを覚えているか?」
クバロットは両腕を空へと掲げる。
隙だらけのポーズ。スキル発動前の隙であり攻撃のチャンスだが、ナオは踏み込むことができない。隙だらけなのはクバロット本人も当然知っており、その隙を打ち消すための方法を織り込んだ上でこのスキルを使っているからだ。
隙を潰せないなら後はスキルが完成するのを待つだけ。
空が突如暗くなり、昼とは思えない空の色を見せる。まるで夜。空には星が輝ききらめき始めたのだ。
「【スターライト】、か……」
「そうだ。かつてお前がマルシャンに見せたスキルだ」
『おおーーーーっとぉ! ここでマルシャンだ! クバロット皇帝の自伝、「第1巻俺の名はクバロット」で名前の挙がったあのマルシャンだ! 王国の人々には馴染みのない名前かもしれませんので解説しておきますと、かつてクバロット選手はナオ選手に好きだった女の子を取られてるんですよね。その子の名前がマルシャン! 自伝が発売された際には何人ものマルシャンが現れたと聞いています。そのマルシャンかぁ!』
「このスキルでマルシャンは俺から離れて行った。因縁のスキルだ」
「俺は別にマルシャンに見せようとしたわけじゃない。そのぅ、俺はイヴリンに見せたかっただけで、ごにょごにょ」
「同じことだ。まあ、良し悪しは歴史家が判断するだろう。さあ、俺の指先一つでスキルは発動する。お前も得意としたスキルだが、子供のころとは違うぞ? 砕け散れ、ちゆちゆ!【スターライト】ォォォォォ!」
クバロットが腕を振り下ろすと同時に、暗い夜空に輝く星々から無数の光の帯が闘技場に延びた。
『これが【スターライト】! クバロット選手のトラウマスキルですが、七色をした光がとても綺麗です。解説しておきますと、あの七色の光は人体にとても有害で、触れると2秒もしないうちに体が焼けただれて死に至る恐ろしいスキルです。そんなスキルをプラネタリウム代わりに使った幼き日のクランク少年は頭が悪いとしか言いようがありません!』
「うるさいなぁ! あの頃は調子に乗ってたんだよ! 黒歴史でもあるんだ!」
『クランク選手、反論しながら襲い来る光の帯を回避していく! 殺人光線だというのに結構余裕ありますね? そのあたりどうですか、リクセリア様』
『そうですわね。わたくし、男性の過去にはこだわらないつもりよ。もちろん最初から一途にわたくしの事を愛して欲しいですけど、好きだったらそんなこと構わなくないかしら?』
『はーい、的外れなコメントありがとうございました。そうこうしているうちに、【スターライト】の発動が終わるようですが、おっと、クバロット選手に動きが!』
「ちゆちゆ、逃げてばかりじゃ勝てないぜ? まあずっと俺のターンなんだがな。こいつはエルメディアを取られた【アクア・スライダー】! そしてこいつがミルゾを取られた【ホーリー・サイクロン】!」
【スターライト】の発動が終わると同時に、左手で渦を巻く水の奔流を、右手で雷を思い起こさせる帯電した光の渦をナオに向けて撃ちだす。
(これは【二重発動】! 俺は【二重発動】を失っていないから、これはろっちんが自分で取得したスキル! このハイレベルスキルを取得できるなんて、帝国の皇帝の称号に偽りなしってわけかっ!)
『おおっと、攻めるクバロット選手に対して、ナオ選手、同じく左手から氷を、右手からは……あれは何でしょう、ガラスですかね? ガラスのようなものを生み出したぁ!』
【アクア・スライダー】も【ホーリー・サイクロン】も強スキルだ。打ち消すためには同じくらいの強スキルをぶち当てなければならないが、受ける側にそんな時間は用意されてはいない。ならばナオは同じく【二重発動】で回避を試みる。
迫りくる水の渦は腕を入れただけでねじ切られるほどの威力。そこにナオは冷気を纏った手を触れて、表面を凍らせることによって、するすると水の渦を回避し、稲妻の竜巻は、ガラスのようなプリズムを使って、偏向させることで、直撃を回避する方法を取ったのだ。
「ちゆちゆよぉ、お前は昔から詰めが甘いんだよ! どうしてこれで終わりだと思ったんだ?
【三重発動】! これでとどめだっ! 【プロミネンス・コレダー】ッッッ!」
『あっ、ちょっと、勝手にマイクを!』
『きましたわ、兄様の必殺の【三重発動】からの【プロミネンス・コレダー】が! ちなみに【プロミネンス・コレダー】は兄様が帝国を手中に収める時に生み出したオリジナルスキルですわ。極高温のガス雷雲を射出し熱と稲妻の両方の属性ダメージを与えるキメ技ですの! その威力ゆえに過去に公に使われた回数は3回だけ! 1回目は父帝から帝位を争奪する際。2回目は城の溝に詰まったゴミを焼く際、3回目は、他国から奪った女の機嫌を取るためですわぁ! ちなみにエルメディアは128バルフェーザポイントの女、ミルゾは95バルフェーザポイントの女ですわ』
『バルフェーザ様、勝手にマイクを取らないでください! ああっと、謎のポイントであるバルフェーザポイントに気を取られているうちにクランク選手に必殺の一撃が襲い掛かる!』
(【プロミネンス・コレダー】の威力は見ただけで分かる。今の俺はすでに【二重発動】によって右手と左手を使ってしまっている。それに、回避は成功したけど体勢が悪くてさらにあの一撃を回避することはできない。こうなったら俺の最強の一撃をぶつけるしかない!)
戦ってる本人たちは解説席のごたごたを見ている余裕もない。
ナオも【三重発動】を使う。選んだスキルは【スキルキャンセル】。その名の通り、使用中のスキルを無理やり終了させるスキルだ。狙いは自分が使った左右両手のスキル。それを無理やり終了させて、両手を自由にし、ただ一つのスキルを使うために練り上げる。
襲い来るガス雷雲。
今から使うスキルでこれを相殺した上にクバロットを倒さなくてはならない。それが今から使う最強技に課された使命。
「うおぉぉぉぉぉ! 天・覇・撃・塵・皇・礫・波ァァァァァァッ!」
瞬間的に細胞の生命力を高めて普段の数倍ものエネルギーを生み出し、その膨大なエネルギーを外へと向けて放出する。それがナオの最強スキル【天覇撃塵皇礫波】。
エネルギーを高める方法は使用者によって異なるが、ナオは植物・自然系のスキルで己の生命力を高める傾向にある。
相手を倒すために放出されるエネルギーはその量によって有効距離も有効範囲も異なってくるという、使い手の能力によってどこまでも威力あがるスキルなのだ。
「むうっ、これは!」
クバロットが放った【プロミネンス・コレダー】を飲み込み、さらに広範囲へと拡散する生命力の砲撃。
『……先生……それはまずい……』
その様子を見たアゼートがポツリと漏らす。その手にマイクを持って。
『勝手にマイクを取らないでってさ!
こ、これはナオ選手の一撃は、範囲が広すぎて、だ、だめです、このままじゃ観客席までっ!』
「ちいっ、【月影】!」
クバロットごと観客席をも飲み込む勢いの一撃。だがクバロットは冷静にナオの放ったスキルを分析し、対処のためのスキルを使った。
数万人の観客に被害が及ぶと思われた直前。
放たれた生命力エネルギーは、クイッと方向を変えて吸い込まれるように空へと消えていった。
お読みいただきありがとうございます。
バトルマンガさながら(自分でいうな)の激闘! そしてそこに挟み込まれるコメディ要素。
皆様きづいていたかと思いますが、いつの間にかナオ視点ではなく三人称神視点に変わっています。遡るとクバロットにやられてへこんでいるナオを励ます回からですが、しばらくそれが続きます!




