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072 クバロット・ラザーナ その2

「そうだ。お前は昔からそうだ。覚えているか?」


 そう言うと、ろっちんは目を瞑って空を仰いだ。

 そして、無言のまま少しの時が経った。


「ちゆちゆ、俺は鮮明に覚えているぞ? いつもいつも、いつもいつもいつも、お前が俺の邪魔をしてきたことをなぁ」


「えっ? 何のことだよ。あんなに仲良しだったじゃないか」


「それだよそれ。その無自覚さが俺の心にどす黒いものを溜めていくんだ」


「無自覚? 説明してくれよ、ろっちん」


「いいだろう、貴様の悪事を事細かに語ってやろう」


 そうしてろっちんは口を開き始め……俺としてはあまり記憶にない数々の幼いころの行動が明るみに出たのだ。


「……ナオ先生、これはどう考えても嫌われてる……」

「そうですねぇ。幼いころとはいえ、ひどいですね」


「ちょ、ちょっと待ってくれ、俺は全くそんなつもりじゃ」


「まあ、わたくしナオ先生の気持ちもわからなくては無いですわよ? 下々の者には能力を見せつけて上下関係を分からせることも必要ですから」


「言いがかりだ! とはいえ、ろっちんがそんなに嫌な思いをしてたのなら、すまなかった。謝るよ」


「謝るぅ!? それだけで許されると思っているところがまた憎らしい。別に俺はお前に謝ってもらいたいとはこれっぽっちも思っていない。それ以上に俺の心を満たす方法を知っているからな。

 その一つが今回の騒動さ。

 もう分かっただろ、俺はお前からこのクラスを奪う。お前はその様子を眺めながら惨めな姿をさらすといいさ」


「そんなことはさせない! 俺はここに帰ってきた!

 この 特進クラス(ヴァルキュリア)は俺のクラスだ。いくらろっちんと言えど、渡さない!」


「そうですわよ。そこまで聞かされて、はいはいってクバロット先生の授業を受けると思いますの?」


「……そのとおり。……クランク先生じゃないなら、私はまた一人で勉強するから……」


「私も授業時間にアルバイト入れようかな」


「ククク、教え子に慕われてるじゃないかちゆちゆ。だからこそ、それをお前から奪うのが楽しいんだよ。そら、お前たち、座って俺の授業を受けろ!」


 ろっちんが、バッと手のひらを開いて両腕を俺たちの方にと向けたかと思うと、そこから糸のような細いものが無数に射出される。


「きゃっ、なに? 急に動けなくなった」

「なんですの? 無理やり椅子に」

「……何かの、スキル……」


 糸は器用に俺をよけて教え子三人だけに絡みつくと、無理やり席に座らせて前を向かせたのだ。


「そら、授業を再開するぞ? おとなしくしてな」


「やめるんだろっちん! こんな事は間違っている!」


「なんだよ、ちゆちゆ、お前だってやっていることだろ。スキルを使って授業するのは当然のことだ」


「俺はそんな事していない!」


「ふん、どうだかな。まあお前がどうこう言った所で俺は止めるつもりはない。今の俺はこのクラスの担任。お前はまだ出張中。文句があるなら力づくでこいよ。それとも、お行儀よく出張の撤回なんて求めに行くのか?」


「ナオ先生!」


「ほら、後ろを向くんじゃない。授業中だぞ」


 助けを求めたリクセリアの顔を糸が無理やり前に向かせた。


「ろっちん!! やっていいことと悪いことがある!!」


 教え子をおもちゃのように扱われたのを見て、俺の頭は怒りで埋め尽くされた。

 スキルの発動を止めさせて三人を解放するため、俺は拳を握りしめて、ろっちんの顔に向けて渾身の右ストレートを繰り出す。


 ――ドゴッ


 俺のパンチがろっちんの頬を捉えた音。

 ……だったはずが、音が鳴ったのは俺の顔の横。


 俺は見事なカウンターをもらってしまったのだ。


「なんだ、ちゆちゆ、その程度か? いいぜスキルを使ってもよ。俺とて武闘派連中を束ねる帝国の皇帝。お前ごときのスキルでやられるわけはないがな」


「このっ! 【トルネードキック】」


 回転する竜巻のような空気の渦を足に纏った渾身の蹴り。

 それを横っ腹に叩き込もうと繰り出したものの、何らかのスキルで強化した右腕一本で足首を掴みとられ――


「ぬるいぞ、ちゆちゆっ!」


 ――バリィン


 そのまま力任せに窓へと放り投げられて、俺は教室の外へと投げ出された。


 受け身もとれず、背中を地面に打ち付けた痛みが走る。


 だがそれだけでは終わらなかった。

 その隙を逃すまいと、ろっちんが追い打ちをかけてきたのだ。


 上空からの飛び蹴り【三角脚】。まともにくらえば一撃で致命傷となる威力のあるスキルだ。

 俺は背中を地面につけたままで、起き上がるタイミングも時間も無い。

 迫る【三角脚】をなんとか身をよじって回避するが、俺の代わりに地面が爆ぜて、余波が俺の体を襲う。


 身をよじった勢いで体勢を起こそうとした俺を追撃してくるろっちん。


 下に向けて交差した両腕。それを上に引き上げるとともに攻撃するこのスキルは【ホライゾン・クロス】かっ!


「ぐうっ!」


 何とか肘でガードしたものの、スキルの威力が体まで伝わってダメージを受ける。

 俺はその衝撃を【空気振動】を使って外へと逃がすが、ろっちんは俺のダメージ回復を待ってくれはせず、【二連撃】による追撃が襲いかかってくる。


「こなくそっ!」


 俺は【二連撃】の上位スキルである【三連撃】を使い、ろっちんの二回の攻撃にタイミングを合わせて放って受けきると、一手上を行く最後の一撃を逆にろっちんに叩き込む。


 たまらずろっちんは跳躍系のスキルで空へと逃げ、俺の攻撃を回避したが、


「それは詰みだっ!」


 空中に逃げる選択肢は正しいが、その後の事を考えると悪手でもある。

 俺のようにスキルの硬直をキャンセルして次のスキルを出すことのできる相手だと、空中では急な方向転換ができないため、狙い撃ちされるからだ。


「【鳳凰刃】っ!」


 空中を舞うろっちんに向けて、大きく手刀を降り、茜色の衝撃刃をぶつける。

 あの体勢からこれを避けるすべなどない。


 そのはずが、ろっちんはニヤリと笑みを浮かべたのだ。


「【天空跳躍】」


 確かにそう聞こえた。


 迫る茜色の刃を、ろっちんは()()()()()跳躍し、舞うように回避したのだ。

お読みいただきありがとうございます。

突如始まったバトル! 脳筋武芸教師VS武闘派をまとめ上げる帝国皇帝

どちらも知能派とは言い難い!?

さてさて、ナオ先生の十八番だった【天空跳躍】を使ったクバロット。

これが意味するところは!

次回をお楽しみに!

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