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007 リクセリア・ラインバート その1

 ――リンゴーン、リンゴーン、リンゴーン、


 中央棟にそびえ立つ大きな鐘の音が響き渡る。この鐘の音が意味するところは授業の終了だ。


「はい。それではここまで。明日はこの続きをするからな」


 俺はナオ・クランク。この特進クラス(ヴァルキュリア)を担当する教師だ。先日までは男子クラスで武芸だけを教えていたが、今は武芸を含め、歴史、魔術、芸術、商学、作法など、すべての科目を担当している。

 それぞれの科目を担当するには指定されたスキルの習得が必要だが、そこは俺。自分の特殊体質というかスキル対策のおかげで多くのスキルを持っているが故、すべての科目を担当する資格を持っている。

 それゆえに、この特進クラス(ヴァルキュリア)の担任から授業まで一手にやらされることになっているのだ。


 担当する生徒は三人。


 だが、教室の中には一人しかいない。


「今日も来なかったか……」


「そうですねぇ。お金をドブに捨てられる人たちは違いますね」


 3人のうちの一人、メル・ドワドが、ふわりと黒いウェーブボブヘアを揺らしてそう答える。

 彼女は苦学生のため、お金に関しては人一倍敏感だ。


「明日は来るだろうか……」


「んー、来ないと思いますよ。明日も私一人ですね。これはこれで儲けてる気がします。なんといっても先生のマンツーマン指導ですからね。普通だと沢山の生徒がいるのでそうはいきません。稼いだ学費以上のリターンがありますよ。あっと、先生、バイトに遅れるので、これで。さようならー」


 小柄な体をひょいっと翻して、教室を後にしようとするメル。


「ああ、さようなら。気を付けてな!」


 急ぐ彼女の背中に声を投げかける。

 茶色の制服を見送るが、彼女のサイズ感では制服に着られている感じが見て取れる。

 あまり凝視するとスキルを貢いでしまうから注意だ。


「ふぅ……」


 今日もいくつかのスキルを貢いでしまった。

 なるべく距離を取っているものの、接近しなくてはならない事例もあった。もう少し経験を積めば個々の事例ごとに距離を取る対策ができるかもしれないが、初見はどうあっても貢いでしまいそうだ。


 一人でもこれなのだ。三人になったら一体どれだけのスキルを貢ぐことになるのか……。


「とはいえ、後の二人をこのままにはしておけないな……」


 ラインバート侯爵家の娘、リクセリア・ラインバート。そして学園始まっての秀才、アゼート・クーム。


 彼女たちを導くのが俺の仕事であり使命でもある。


「そうは言ってもなぁ……」


 二人とも授業に出席しない。普通の学生であれば卒業することが目的なので授業には出てくれる。

 卒業が目的ではないのか、それともゴリ押しでなんとかするつもりなのか。どちらにしろまともなルートではないだろう。そもそもそれで教育したと言えるのか……。


 生徒が授業に出てこない場合の対応は一つ。

 面談を行って一緒に対策を考えるのだ。そしてそれが俺には厄介この上ないということだ。


 面談を行うには本人と1対1で向き合う必要がある。それだけで死へ近づく行為なのだが、問題はそれだけではない。

 まず、面談をすることを約束しなくてはならない。

 書面で面談日時を通知する方法もあるが、そもそも授業に出てこないのだ。書面で解決するならばとうの昔に解決している。


 つまり、まずは本人に会わなくてはならないのだ!


「それが難しいんだって……」


 女子を避けている俺が、女子を探しに行かなくてはならない。

 そんなムリゲーのようなことができるわけない! と思い、すでに3日経ってしまった。


 これ以上日にちを浪費するわけにはいかない。


「仕方がない。やれるだけやってみるか」


 俺は意を決して教室を後にするのだった。

お読みいただきありがとうございます!

導入部分のため、話が短くて申し訳ございません。

タイトルキャラも出てこないし! とお思いの皆さま、次話ではきっちりと登場しますので、乞うご期待!

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