067 隠された意図
――聖ブライスト学園 特進クラスの教室
「そろそろクランク先生が帰ってらっしゃるころね」
「……ご褒美楽しみ……」
「先生、お土産も買ってきてくれますよね? お土産とご褒美は別腹ですから」
授業中にも関わらず、リクセリアがしゃべり出し、他の二人もそれに応じた。
「あー、事情によりクランク先生の出張は一週間伸びた。あいつが帰ってくるまでこの教室は引き続き俺が教えることとなった」
教壇に立つ金髪の若い男性教員がそう答えた。
授業中の私語を許す懐の広さか、三人を掌握しきれていないからなのか、はてさてどちらなのか。
ともかく、彼があと一週間延長でこのクラスを教えることには変わりはない。
そんな返答を聞いて――
「そう、なんですの……」
「……仕事ならしかたない……」
「クランク先生、家賃の支払いの事、覚えてるかな……」
三人が三人落胆した様子を浮かべた。
それだけでとてもナオを慕っているという事が解ってしまうが……その様子を見た代理の教員は小さく笑みを漏らした。
「まあそう気を落とすな。帝国でもトップレベルの指導力を持つ俺が指導しているんだ。あいつの授業よりも何倍も身に付くだろうさ」
「うーん、クバロット先生の授業も悪くはないんですが、やっぱりクランク先生じゃないとしっくりこないんですよね。あの、別にクバロット先生が悪いわけじゃなくてですね、なんていうか、金払いが……」
「……金払いはともかく、クランク先生以上かどうかは議論の余地が残るところ……」
「わたくし的には圧倒的にクランク先生の方がいいんですけどね? 早く帰ってきてくださらないかしら」
代理の教員、クバロットという名の先生は、そんな三者三葉の返答を聞くと、くせっけのある金色の髪に指を通してクルクルと巻き始める。
「なるほど、面白い。まあ、あいつが帰ってくるまでは俺が代理だ。あいつからも頼まれている。しっかりと君たちの面倒を見るようにとな。だから帰ってくるまではおとなしく俺の授業を受けてもらう。帰ってくるまではな」
そう言って浮かべた笑みに、生徒三人が気づくことは無かった。
◆◆◆
「はぁ!? 出張がさらに延長で、その期間は20年間だって!?」
「そうですわ。こちらが正式な出張延長証書ですわ」
バルフェーザ理事長がひらひらと紙を降る。
そこには間違いなく聖ブライスト学園の印と学園長のサインが入っている。
どうしてこうなったのか。
最初出張は一週間ということだった。
慣れない地、慣れない環境、慣れるはずもない女の子たちしか周りにいない環境。
そんな状態で一週間なんとか乗り切ったものの、学園からの連絡はさらに一週間の延長だった。
それでも、いくつものスキルを減らしながら、文字通り命を削って二週間目を乗り切る直前だった。
理事長室に呼ばれた俺が聞いたのが今の内容だった。
あと追加で数日、というのならまあ分からないこともない。
それをぶっ飛ばして20年なのは、もはや理解の範疇を超えている。
「偽造だとお疑いですか? 別に我々が偽造してまでクランク先生を20年も受け入れる理由はありませんわよ? 先生の人となり、能力に関してはこの2週間でしっかりと把握しましたが、本校は女子校ですので、いくら優秀だと言っても男性のクランク先生を受け入れることはリスクもありますから。ですので、この件は御校の都合かと思われますが。
ですが、本校も御校とは良い関係を続けていきたいと思っていますので、長期間となりますが20年間、よろしくお願いいたしますわ、クランク先生」
「ご冗談を! 一度帰らせていただきます。学園長に理由を問いただしてきます!」
「あら、理由ならここに書いてありますわよ。『我が校でも特に優秀な人材であるナオ・クランクを長期派遣することで、リリットール女学院ひいてはラザーナ帝国との懸け橋となることを目的としている』って」
「それが本当だとしても、一度帰らせていただきます。有給使いますから、問題ありませんよね?」
「あら、問題も何も、クランク先生は本学の先生ではありませんので、私が判断するものではございませんわ。ですが、出張を任命されているのに有給で休みを取るのはいかがなものでしょうか。とはいえ、これまでの二週間と同じように週末はお休みで構いませんわよ。
ですが、帰国は認めませんわ。お休みの間に戻ってこれませんもの」
「問題ないですよ。俺ならたった二日でも往復できますから」
「あら、そうですか? ですが、出国申請はきちんとしてくださいね。許可が下りるとはおもえませんが」
そう言った会話を繰り広げて、理事長室を後にした。
理事長の最後の言葉が気になって、速やかに出国申請をしたものの、普通は窓口で小一時間もかからずに承諾されるのだが、その日中に判断はできないから後日連絡すると言われて、追い返された挙句、何日経ってもその連絡がこない。
問い合わせに言ったら、何のことかわからないと言われて、申請自体がされていない事になっていたのだ。
「おかしい。何かがおかしい……」
20年間の出張、出国申請の握りつぶし。
まるで俺をここに留め続けておきたいかのような、大きな意思を感じる。
「理由はなんだ……。俺がここにいて、誰が喜ぶ……」
そもそも俺は貴族の三男。俺がグロリア王国内にいても何の影響力も無い。思い当たるとすれば、スキル取得関係だろうか。赤毛のスキル開拓者と呼ばれているだけあって、同業者には苦い思いをしているもののいるだろう。
だからってこれほどの影響力を行使してくるだろうか、普通に考えても有効とは思えない。
もしかして学園が厄介払いをしようとしているのだろうか。
それなら心当たりはありすぎる。俺はそもそも男色疑惑を掛けられている。安易にクビにできないからと、長期出張という建前で追い出したのかもしれない。
でも、それにしては手段が雑すぎる。最初の出張延長をプラス1週間ではなくプラス20年間にすればいいはずだ。
「学園で何かが起こっている?」
俺がターゲットではないのかもしれない……。
もしかして……生徒がターゲットなのか?
リクセリアが、アゼートが、メルが、誰かがターゲットで俺が近くにいると困るのか?
まさか、命を狙っている?
「だとしたら!」
こんなところに居てるわけには行かない!
お読みいただきありがとうございます。さすがのナオも裏に何かがあることに気が付いたようです。はてさて、学園長の意図は、代理の先生の思惑は、バルフェーザちゃんは何を考えているのか。
次回、ナオ先生が大脱走! お楽しみに!




