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065 けんぜんなクラブ活動

 ――リリットール女学院 理事長室


 学院で一番の重厚さと荘厳さを醸し出すように作られた部屋。

 部屋の中央奥に置かれた巨大広さを誇る机には、(あるじ)である桃色のストレートヘアの美少女が鎮座している。

 学院の理事長である、バルフェーザ嬢である。


 その前にはスーツを着込んだメガネの女性が一人。

 手に持った資料を開きながら口を開いた。 


「理事長。いかがでしたか、あの男は」


「そうですわね、兄様が気にするほどの男とは思えませんでしたわ。それと、男色というのはやはり嘘ね。ただの童貞の反応でしたわ」


「ああいった行動はおやめください。あなた様はこの国の帝王であらせられるクバロット様の妹。本来であればあのような下賤なものと言葉を交わすことすらあってはなりません」


「口を慎みなさい。あの男の事はわたくしが納得するまで調べ上げますわ。兄様のためにも」


「それは私共に命じてください。なにも御身自らが行わなくても」


「あなた方の仕事は信頼していますわ。ですがこの件だけはわたくし自らが行います」


「ですが……」


「これ以上の問答は無用です。下がりなさい」


「はっ!」


 礼をして妙齢の女性は理事長室を後にする。

 残ったのは豪華な革製の椅子に腰を掛けて足を組んでいる理事長のみ。


「ナオ・クランク……。兄様を惑わすお前の化けの皮を必ず剥いでやるわ……」


 ポツリとそうつぶやいた後、机の上にあった写真立てを手に取ったバルフェーザ。

 そこには彼女とよく似た金髪の男の写真が飾られていた。


 ◆◆◆


 それから俺の研修が始まった。

 午前中から夕方までは1クラスの担任を受け持ち、授業が終わればクラブ活動を見学する。


 それをはや数日間続けている。


 クラブ活動とは、水泳や陸上などの競技や、文学や美術のような学問などの分野に分かれて、学生たちが集まって活動を行うものだ。

 聖ブライスト学園どころかグロリア王国には無い教育制度のため、とても勉強になる。


 そろそろ報告書を書き始めないといけないので、改めてクラブ活動の様子を思い出そう。


 ――――――

 ――――

 ――


 水泳部

 屋外に設置されている人工的な池、プールで泳ぎを修練する事を目的としたクラブだ。


「やだ、あの男の先生、すごい筋肉してる」

「下も……きゃーっ」


 俺は規則にのっとって、プールに入る時の正装をしている。

 泳ぐため水着を着る必要があるのだが、用意されたのはブーメランパンツと髪の毛がばらけないようにかぶるキャップのみ。

 それを身に着けた上で、プールサイドに立ち、見学をしているわけであるが、あのように女子生徒から好奇の視線を向けられている。

 俺は武芸教師であるために、ガタイがいいのは分かっている。上着を着る事さえ許されないここでは、ほとばしる筋肉がさらされてしまい、淑女たちには刺激が強いのもうなずける。


 でもな、俺だってそうなんだ。


 右も左も水着を着た女子だらけ。

 魅せるための水着ではないため、地味な紺色で肌をなるべく隠している水着。でも泳ぐための水着であり、水の抵抗を減らすために体にフィットする作りなのでボディラインがまるわかりなのだ。


 制服であれば視界に入っても視点さえ合わさなければ問題ないが、ここではそうもいかない。視察であるがゆえに、しっかりと活動内容を見ておかなければならないのだ。


 準備運動しかり、遊泳方法しかり、片付けしかり。それらは全てボディラインの分かる水着を着た女子生徒を見るという事であり、俺はここでいくつものスキルを失った……。


 バレー部

 踊る部活なのかと思ったが、どうやらバレーボールという球技の部活のようだ。俺の国ではメジャーではないが、確かにそんな球技があるとは聞いたことがある。


「先生、もう一本お願いします!」


「おう、いくぞ!」


 男女共学の学校は男子とも練習を行うらしいが、ここは女子校。先生もコーチも女性で固められているため、なかなか男子のパワーを体験する機会がない。そのため俺が練習に加わっている。


 俺はコートの端から逆側のコートへ強いサーブを打ち込む。やったことのないスポーツでも大体なんとかなるのが俺の才能でもある。


「くっ!」


 ボールの落下地点に入った女子生徒の腕にバチンとボールが当たって、明後日の方向へと跳んでいく。


「どうした! そんな調子じゃてっぺんなんて狙えないぞ!」


「は、はいっ! もう一本お願いします!」


 そうして、何本も何本もサーブを打ち込んでいく。

 サーブだけではない。俺の身体能力を生かして高いスパイクを撃ち込み、それを取る練習もするし、同じように彼女たちにスパイクを打たせて俺が拾ってコートへ返し、何度も何度もスパイクを打たせる練習もした。


 結論を言うと、スキルをいくつも失った。


 競技の特性上、長身の子が多い。総じて発育がいいもので、サーブを受けても、スパイクを打っても、ボールに飛びついて床を滑っても、何をやっても揺れるのだ。


 修行を積んだ教師なら無の境地に達しているのかもしれない。

 だが、俺は初めてこの競技をするし、そもそも去年まで引きこもりで女子免疫が無かった男だと弁解しておく。

 ああ、アゼートは元気でやってるだろうか……。

 俺の教え子の長身女子の事を思い出して、しみじみとした。


 同じようにレスリング部でも男のパワーを体験するトレーニングをした。なぜかやたらと組み付きたがる子ばかりで、案の定スキルをいくつも失った。

 体操部ではストレッチを手伝わさせられた。それは別に俺じゃなくてもいいのでは、などと思いながら、俺のストレッチも手伝うというのを断り切れずに、結局いくつもスキルを失った。

 馬術部でもひどい目にあった。馬に乗る競技のクラブだと思っていたのだが、何やら俺はよつんばいにさせられて、背中に乗られた。そして、そのまま鞭で尻を叩かれて無理やりに走らされた。本当に恐ろしい競技だった。新しい世界が開けた感じがして、スキルをいくつも失った。もう二度とやりたくない。


 芸術系のクラブも見ておこうと思って、美術部に顔を出したこともある。

 絵を描くためのモデルをするようにと言われたが、ヌードモデルだとは思わなかった。もちろん全力で拒否したが、協力してくれなかったと理事長に報告すると脅される始末。

 無論ヌードモデルなんかできるわけないので、なんとか食い下がって、水泳部の時に借りたブーメランパンツ一丁でなんとか許してもらった。

 数時間後「次は私たちの番ですね」と言いながらなぜか服を脱ぎだしたので、一目散に逃げだした。その後、教室を掃除した生徒の話によると、床が水に濡れていたらしい。いったい俺が逃げ出した後に何があったんだ……。

 幸いなことに美術部ではスキルを失うことは無かった。


 などと報告書をまとめているのだが、何かおかしい気がする。

 放課後に生徒たちが集まって自主的に活動をするのは画期的なシステムだと思うし、競技や芸術分野の国力の底上げになる点も素晴らしいと思うんだが、何かが引っかかる。


 まあ、明日でちょうど一週間。

 残りのクラブ活動を体験して、国に戻って報告書を提出するとしよう。

お読みいただきありがとうございます! 必死(?)に研修をこなすナオ先生。何かに引っかかったようですが、もう研修も終わりなので気にしないことにしたようですね。それが命取りにならなければいいのですが。(作者談

次回もお楽しみに!

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