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057 楽しい(?)仮面婚約者生活

 メルと仮面婚約してから1か月が経とうとしている。

 多少お金がかかるとはいえ、それ以外は順調。婚約者として接触が必要な場合でもメルは俺の事を気遣ってくれる。なるべく俺がメルに触れなくていいように、なるべく俺がメルを見つめなくていいように。メルがそういった配慮をしてくれるため、なんとか仮面婚約者を続けていけている。


 その代わりに出費は増えた。社交界のために必要な身の回りの物を用意するのは当然として、メルの移動、お出かけの際の食事や小物や化粧品、平日のお昼やおかし代も支払っている。それプラスなぜかお小遣いを要求されている。お小遣いの金額は可愛い物だが、渡す事については未だに割り切れていない。

 まあ多少お金がかかるとはいえ、仮面婚約者生活は順調に進んでいるというわけだ。


「あのぅ、ラインバート君。そんなに睨まないでもらえるかな……」


「睨んでなんかいませんわ。これが普通の目つきですから。それともなにですか、クランク先生は婚約者ができたからって、生徒の顔の批判をするんですの?」


「いや、その、あはは……」


 リクセリアにはずっと睨まれている。

 自分が王子との婚約を破棄したから()()()()()になってしまったんだというのに、今まで独り身だった俺が()()()()になったのが気に入らないのだと思う。


「……リクセリア、お行儀が悪い。……グロリア王国の至宝らしくしてないと、先生に嫌われてしまうよ……」


「がるるるる! 別にこんな婚約者持ちの武芸教師に嫌われたっていいわよ!」


「……どうどう……」


 そしていつもアゼートがリクセリアを止めてくれる。二人はかなり仲がいい。


「……時に先生、分からない問題があるので、放課後に私の部屋で教えて欲しい……」


「いや、部屋って、女子寮だろ。女子寮はちょっと……」


「……そのまま泊まっていってくれていいのに……残念……」


「すまない」


「……じゃあ、今聞きたい。……ここ……」


 本を開いて見せてくれる。どれどれ?


(めかけ)について?」


「……そう(めかけ)、つまり愛人。……この本は(めかけ)はありかなしかの論争の本。……先生の意見を聞きたい……。あり? なし? ……いないからよくわからないっていうのなら、私がなってあげるけど……」


「じょ、冗談はやめたまえ!

 おほん。さあ、次は武芸の授業なので移動だ。早く行きなさい」


 アゼートはアゼートで変な質問で絡んでくることが多くなった。

 身近な人が婚約したので、自分の婚約について意識が高まっているということだろう。

 身近な人にカウントしてもらえるなんて、教師冥利につきるというものだ。


 そしてそんな俺たちの様子をドヤ顔で見ているのが、俺の仮面婚約者であるメル・ドワド、その人である。


「先生、婚約者なんですからいつもみたいに着替えを手伝ってくださいね。あ、先生の部屋でいいですか?」


「ぶーっ! 何を言ってるんだドワド君。いつもみたいにって、一度もそんな事したことないよね! はいはい、ラインバート君もクーム君も真に受けない。いつもの冗談だから」


「私としては冗談のつもりはないのですが、まあいいです。それじゃあ先生、またあとで」


 そう言って、メルは教室を出て行った。

 次の授業開始までそれほど時間があるわけでもないので、しかたなくその後に続いていくリクセリアとアゼート。


 うーん、クラスは真っ二つっていう感じだ。この前まで仲良くしていたのに……。


 まあ、喧嘩をしていたり、メルがいじめられてたりする様子は無いから大丈夫だとは思いたい。特にメルへの虐めに関しては、彼女がこの特進クラス(ヴァルキュリア)へ来た理由でもあるので、しっかりと目を光らせている。


 もう一つ。些細な問題の一つとして、俺の両親のことがある。

 俺の父上と母上は俺とメルの婚約の事をやたらと喜んでくれている。なんなら一番上の兄上が婚約したとき以上にだ。

 気が早すぎて、赤ちゃん用の寝巻やらベビーカーやら送ってくる始末。どれだけ喜んでいるんだ、と俺はドン引きしているけど、メルはそれだけ祝福されていることを素直に喜んでいるようで。

 この両親の喜びようには俺にも原因があるので、完全に迷惑だとも言い切ることはできない。

 俺は【貢ぐ者】の事もあって、ずっと屋敷に引きこもっていた。子供のころは学園に通う代わりにとつけられた家庭教師の先生だけではなく、母上すら拒んでいたこともある。20歳になっても引きこもりを続けて、婚約者どころか友人すらもいない。そんな俺に婚約者ができたのだ。両親は奇跡だと思っているのかもしれない。

 俺は三男で、家を継ぐのは一番上の兄上だし、二人目の兄上もいる。だから俺の事はどうでもいいはずだと思っていた。だから今の両親の喜びようは想像していなかった。


 だからこそ、時折胸が痛むのだ。

 メルとは仮面婚約者で、彼女が卒業したら婚約破棄をする。両親はそんなことはつゆ知らず、俺がメルと結婚して、可愛い孫の姿を見せてくれると信じ切っている。

 つまり俺はこんなに喜んでくれている両親を騙しているのだ……。


 思考がネガティブに入るとより悪いことを考えてしまう。

 考えないで置こうと思っていたこと、割り切ったはずだと思っていたことを再び考え始めてしまうのだ。


 それが何かというと、メル本人の事だ。


 仮面婚約前に確認したとはいえ、卒業後に俺からメルに対して婚約破棄をすることになっている。その結果、破棄される側であるメルには大きなマイナスとなってしまう。

 やはり婚約破棄された令嬢というレッテルを貼られてしまうことにもなるし、次の婚約となると、婚約破棄されたことのある令嬢よりもノー婚約破棄令嬢(つまりは初婚約の令嬢なんだけど)のほうが有利なのは間違いない。

 メルは「結婚なんかしませんよ。商人になってお金を稼ぐんですから」と言っていたが、商人であっても支えてくれる人は必要だと思う。


 問題はそれだけではない。

 先ほどの問題と同じくらい大切な問題が、担任教師である俺がメルを導けていないということだ。


 メルは商人になりたいので商人になるために必要な勉強をしている。本来であれば俺はそれをサポートし伸ばす授業をしてあげなくてはならない。

 こういうと語弊があるのだが、俺がその授業をしていないわけではない。むしろより一層商人授業を行っている。

 しかしながら、メル自身が授業についてこれていないのだ。

 もともとリクセリアやアゼートに比べて要領がよいかと聞かれるとそうではなく、メルは努力でそれを補うタイプの子だ。その努力も、クラスに来たころはアルバイトに必死で実っておらず、学力的には低い部類にあった。

 そこから俺が念入りに指導して、ある程度のレベルまでは引き上げていたのだが、仮面婚約をしてからというもの、婚約者行事がみっちりと入るようになった。

 それは俺がもっと若い時に婚約していればそれなりのゆっくりさで進行していたはずのもので、22歳で婚約という遅咲きの結果、今まで行うべきだった行事がこの1か月で凝縮されてしまったのだ。

 ただでさえアルバイトに忙しいメル。そこに完ぺきな仮面婚約者をこなすという仕事が入ってきたので、勉強に支障がでているというわけだ。

 今はまだ、僅かなものでしかない。だけど、数か月、半年、一年とたつにつれて、その差は広がっていくことになる。

 卒業できずに留年することすら見えてくる。そうなると、卒業後すぐに商人になるというメルの夢は果たせなくなる。

 教師としてそれを見過ごすことなんかできない。教師歴の浅い俺がいうのもなんだが、教え子の夢をかなえてこそ、教師なんだって、俺は思う!


 おっと、負のスパイラルに陥るところだった。

 きっとこの後は婚約者行事も減っていくはずだ。だからうまくいくはずだ。


 そう思って、俺は武芸の授業用に服を着替えるのであった。

お読みいただきありがとうございます。

ラブラブばかりが婚約者ではない。つまりはそういうことで、順風満帆には進んでいない二人。

いったいどうなってしまうのか。

次回をお楽しみに!

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