055 メル・ドワド その2
「どういうことですのっ!!!!」
バンッと両手で机をたたき、怒りを露わにするリクセリア。
「……蚊帳の外はさみしい……」
対照的に冷静に俺を攻めてくるアゼート。
今日は学園は休みの日。
だというのに俺とメルの婚約を聞きつけた二人は教室にやってきて、入ってくるなり俺を攻め立てているのだ。
さすがに教師と教え子が婚約するなんて驚くだろう。
それが同じクラスの友達だというんだからなおのことだ。
彼女たちが混乱する理由も分かるし、俺としてはそれを説明し、納得させなければならない。
「あらお二人さま。お休みなのにどうされたのですか? アゼートさんは寮暮らしだから分かりますが、リクセリア様はご実家に帰られているはずでは?」
俺と二人の間にメル・ドワドが割って入る。
「そんなことは今どうでもいいのよ。いったいどういうことですの!」
「……蚊帳の外……」
同じ言葉がメルに投げかけられる。
「どういうことも蚊帳の外も、お二人が聞いたとおりの話ですよ」
メルが手を口元に持って行った。
あくびでも隠してるのか?
「その指輪の紋章は!」
「……クランク先生の家の紋章……」
指輪? ああ……メルが妙なアクションをしてると思ったら、婚約指輪を二人に見せつけていたのか……。これ以上問題をややこしくしないで欲しい……。
「ご存じでしたか。そうですよ、この指輪は婚約指輪。見られて減るもんではありませんが、見えてしまいましたか。私とナオ先生の婚約の証を」
俺は無言を貫く。
そういう話になっている。メルとの事前の打ち合わせで、リクセリアとアゼートの対応はメルが行うと決まったのだ。
だとしてももう少し穏便な方法が……。
「それにしても、リクセリア様もよく知っておられましたね。この紋章がクランク家のものだって。家紋なんて何百もあるじゃないですか。博識なクームさんが知ってるのは想定の範囲内ですけど。リクセリア様、お調べになられました?」
「べっ、別に、この前、先生の家に行ったときに見ただけなんだから。別に調べてたわけじゃないんですからねっ!」
「そうですか。私はもちろん調べてましたよ。大好きな人の事ですから。ね、クランク先生」
こっちへ振らない約束じゃあ……。
メルと婚約することを両親に報告に行った時のこと。メルはやたらと両親受けした。
父や母をよいしょするトーク術はもちろんのこと、俺が知らないクランク家の情報を全て頭に叩き込んだ上で会話を構築していた。
特に父上のセクハラトーク「せっかく婚約するんだ、ここでキスでもして見せておくれ」に対して、「まだ学生ですし、卒業して結婚するまでは清い関係でいたいので」との回答内容に母上が大絶賛し、父上も見どころがある子だと頷いていた。
俺としてもあの場でキスするわけにも行かなかったので、メルが【貢ぐ者】の事を考えて対処してくれたことに大きな安心感を持った。
だから今日の対応もメルに任せたのだが――
「そういうわけですので、私という婚約者がいる以上、お二人は必要以上に先生に近づかないでくださいね。それではごきげんよう。
いきましょ旦那様、お昼をご一緒してくださいね」
「あ、ああ……」
有無を言わずに教室から連れ出された。
果たしてこれで二人は納得してくれたのだろうか……。
◆◆◆
「怪しいわね」
チャリッと身に着けた鎖を鳴らして腕を組んだリクセリア。
教室から出て行った二人を見届けた後、ポツリと言葉を漏らした。
「……分かる。……先生は一言も話さなかった……」
呼応するようにアゼートが答える。
こちらもリクセリアと同じように、ナオとメルの婚約を怪しんでいる。
「きっとメルさんに弱みを握られているに違いないわ」
「……それはちょっと短絡的。……なにか事情があるのかもしれない……」
「事情があったとしても、嫌々従わされているのなら可哀そうよ。アゼートもそう思うでしょ?」
「……納得はいかない。……でも、先生が本心から婚約しているというのなら、それはそれで祝福すべき……」
「絶対に本心じゃないわよ! だから祝福なんてしないわ!」
「……本心かどうか、調べるべき……」
「そうね。祝福するかしないかはさておいて、お互いの意見は怪しいで一致したわね。じゃあ急いで尾行するわよ。絶対に嘘だって暴いてあげるんだから!」
そう言うと二人も教室を後にし、ナオとメルの後を追ったのだった。
お読みいただきありがとうございます。
最初のぶつかり合いはメルに軍配が上がった!
だけどそれで諦める二人でもなく。
次回、デートを尾行する二人の図が見れます。お楽しみに!




