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052 第2の儀式

「第2の儀式は、 心の目で見よ、されば胃袋は掴める。(ハオリー・フ・ツヴァイ)よ。この儀式はリクセリアさんにやってもらいましょうか。いいわね、ナオ」


「いいも何も、俺に選択肢はないんでしょ」


「可愛くないわね。反抗期なのかしら。それじゃあナオ、これを着なさい」


 そう言って渡されたのは大きなポンチョのような服。

 穴があるから首を通して、左右の2つの穴に腕を通せばいいわけか。

 俺がこれを着て何をするんだか……。


 と思いながらも拒否権は無いので諦めてポンチョを身に着ける。


「これでいいですか? ちょっとサイズが大きい気が」


「いいわけないでしょ。その穴はナオではなくて後ろの人が手を出す穴よ」


 後ろの人? なんだか悪い予感が……


「さあ、リクセリアさん。その服、ハオリの中に入って、穴から腕を出してくれるかしら」


「はい!」


 ちょ、ちょっと待て! 俺が着ている服の中にリクセリアが入ってくるだって!?

 そんな至近距離で女子と密着なんかしたら、絶対アウトだ!


「ま、待てリクセリア! 話せば分かる、考え直せ!」


「何を言ってるんですの? 話さなくても分かってますわ」


 後ずさる俺ににじり寄ってくるリクセリア。

 こうなったらどうしても背中は渡さない!


「ナオ、儀式よ儀式。あなた、何かやましいことを考えているのではないでしょうね」


「か、考えてません!」


「なら、おとなしくしなさい。まだ準備段階なのですから」


 俺の事情を知らないからって勝手なことを!


 実は【貢ぐ者】の事は両親にも言っていない。今まで両親を含めて誰一人として打ち明けてこなかった。

 あそこにいる、メル・ドワド以外には。


 だから母上は、俺が何故こんなに拒んでいるのかを知らないのだ。


「隙ありですわ」


 しまった! 考え事をしている隙に背後をとられてしまった。

 俺の体と比べれば圧倒的に小さな体がスルリと背中に回り込み、俺の着た服の中に入り込んだのだ。


 そのことによって、ポンチョのような服の中はリクセリアの香りでいっぱいになっている。それが首を出してる穴から香ってきたのだ。


 ――ピロン


 『リクセリア・ラインバートにスキル【玉結び】を貢ぎました』


 ぐっ、やっぱりだ。まだ匂いだけだっていうのに!


「ほら、先生、腕の穴から手を抜いてくださる? わたくしの手がいれられないわ」


 うおお! 手が、手がっ! リクセリアの手が俺の腕を抜こうとして! あっ! 背中にリクセリアの感触が! 硬い鎖と、柔らかな……胸の感触がっ!


 ――ピロン


 『リクセリア・ラインバートにスキル【瞬間乾燥(植物)】を貢ぎました』


「お義母様、準備できましたわ」


「それじゃあ、これをナオに食べさせるのよ」


「これ? 見えませんわ」


「ナオ、何をぼーっとしているの。この生クリームショートケーキが見えているのはあなただけなのですから、しっかりとリクセリアさんに伝えて、あなたの口まで持って行ってもらうのよ」


 そ、そういうことかーっ! 俺の背中で服の中に入って手だけだしたリクセリアは前が見えない。俺の指示だけで、見えないものを掴んで、さらに見えない俺の口元までケーキを持って行って、それを俺が食べなければならない。

 しかも食材は顔に付いたらヌメヌメになる生クリーム。失敗することを前提に組まれているに違いない。


 だけどな! そうは問屋が卸さない!


「は、母上。生クリームではリクセリアの手が汚れてしまいます。汚れない食材への変更を希望します!」


 どうだ。リクセリアは最上級貴族だぞ、ケーキを手づかみさせるなんて正気の沙汰ではあるまい。つまりは俺の顔も守られるという一石二鳥。


「そうねぇ。ま、いいわ。このケーキは次で使うつもりだから。代わりは豆にしましょうか」


 どこから出てきたのか、器に満たされた豆が出てくる。

 でも、豆なら俺の顔はヌメヌメにならなくていいな。


「よし、リクセリア、手を前に出して、そう、もうちょっと前」


「わかりませんわ。こうですの?」


「ぬわーっ!」


 リクセリアが腕を伸ばすと、より一層密着することになって背中の感覚が! たえろ! これはそう、クッションの感覚なんだ! ふかふかのクッションが俺とリクセリアの間に入っているので、決してリクセリアの胸の感触ではないんだ!


「変な声を出してないで、もっと正確に教えなさいよ!」


「す、すまん、5センチくらい前、そうもう少し右」


「あ、これですのね。ちゃんと取れましたわ」


「おわっ!」


 豆を掴んだ手をいきなり俺の顔辺りまで持ってきた。


「口、どこですの?」


「く、くち?」


「そうですわ。食べないといけませんのよ?」


 し、しまった! 食材の変更が裏目に出た! ケーキに代わって俺は豆を食べなくてはならない。豆と言うものは小さなものだ。食べようとすると口をかなり近づけなくてはならない。それは間違うとリクセリアの指に口をつけてしまうことになってしまい、非常にまずい!


「ほら、先生、いつもみたいにしっかりと指示してくださいな」


 いや、うまくやれば豆だけ食べれるはずだ。そのためには正確な指示が必要だ。


「よし、手を10センチほど上げてくれ。いいぞ。それをもう少し左だ、よしストップ」


 そこで固定して、俺の口をゆっくりと近づければ……


 ――くしゅん


 服の中からくしゃみが聞こえたその瞬間……固定されていた手が動いたことで、俺の口は目標を誤り、豆ごと指に口をつけてしまった。


 ――ピロン


 『リクセリア・ラインバートにスキル【綺麗な波紋(水)】を貢ぎました』


「す、すまない!」


「え、ええ、よくってよ!」


 瞬間的に服の中に手を引っ込めてしまったリクセリア。

 声も上擦っていて、相当に忌避感が出ている。


「は、母上、食べましたよ!」


 早く場を納めなければと、俺も慌てている。


「ええ、見ていましたよ。第2の儀式も合格とします」


 ニコニコ顔の母上。他人事だと思って!


 ごめんリクセリア。早く手を洗ってきてくれ……。


 だがその後もリクセリアは手を洗いに行くことはなかった。

 服の中でもそもそしていたから、ハンカチで綺麗にぬぐったのだろう。


 こうして第2の儀式をクリアしたのだった。

お読みいただきありがとうございます。

波乱の第2の儀式をクリアしたナオ。

残る儀式はあと一つ。どうせろくでもない事だろうという事が予想される!

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