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036 第3章エピローグ

 あの後、アゼートを保健室に連れて行くと、重体であるためにすぐさま緊急治療が行われた。

 オペが終わったのは夜半過ぎ。面会謝絶のため、俺もその日は自分の部屋へと戻った。


 そして翌日のこと。

 俺は担任としてアゼートと面会している。


「……先生、どうしてそんなに、離れているんですか……」

「気にしないでくれ」


 ベッドの上で体を起こしているアゼートと、部屋の対角線くらい離れた場所にいる俺。


 今アゼートは患者が着る衣服を着ている。つまるところ、フードを深くかぶっているわけでもなく、顔をマスクで隠しているわけでもない。

 生徒資料の写真やメルが撮影した身体測定の時の写真でも知っていたが、栗毛色のベリーショートの髪の毛は渦を巻くような天然パーマで、生で見るのは初めてとなる。

 左目のモノクルも今はしていないので、その下になきぼくろがあることを知って、危うくスキルを貢いでしまうところだった。

 服装もそうだ。患者が不快にならないようにゆったりとした服ではあるが、薄めのため体のラインがいくぶんか出てしまっている。

 それはつまり、昨日裏山から運んでくる際に感じた胸部の大きな揺れを生み出した存在が服の下からでも主張しているわけで……いつも以上に距離をとっていないと、すぐにスキルを貢いでしまう。


 昨日発動しなかったのは緊急時だったからで、さすがに俺も緊急時にそんなことは考えないという証明にもなる。

 だけど日常に戻ったのだと思ってしまえば、どうしても意識してしまう。

 それほどの美人さんだということだ。


「……先生、昨日はありがとうございました……。改めてお礼を……」


「気にしなくていい。それに傷は残ってしまった。俺がもう少し早くたどり着けていれば……」


「……傷なんて、いまさら一つ増えたくらい、……どうってこと、ありません……」


「そんなことはない。痛々しさは君にとってマイナスになってしまう」


「……それはエッチなことをするときの話ですか? ……」


「ぶっ! ち、違う、海とか、プールとか、肌を露出する場所での、いや、あれ? 違わないのか? と、とにかく、すまなかった」


 変なことを言いだすアゼートに乗せられた俺は強引に話をぶった切る。


「……謝る必要なんて、ありません。……ほら……」


 そう言うと、アゼートは手の平を見せてくる。

 そこには5本の指がある。


「……先生は、指を治してくれた……。指の有無は別に私には関係ないけれど、大切なのは直ったという事実……。……体の欠損を治すスキルなんて、これまで聞いたこと無いし、読んだこともない……。……どうやったのか、教えてください……」


 正直なところ、彼女の問いに対する正確な答えは持ち合わせていない。

 彼女を助けるために無我夢中でやってた中で、偶然そうなっただけだ。

 それを伝えるべきかどうか……。


「……そう簡単には教えていただけませんよね……。……未発表のオリジナルスキル……。その方法を公開するだけでも大きな金額になる……。その上、これまで誰も成したことのない欠損状態からの回復となると、歴史に名を残すほどです……。……軽々しく教えるものではないというのは理解できます……」


「いや、その……」


「……先生もご存じだと思いますが、私の保護者は叔父です……。なぜ父母ではなく叔父なのか。……その理由は、父と母は冒険者で私が幼いころ死んでしまったからです。……それで兄の弟である叔父は、幼くして一人になった私を不憫に思い、引き取って育ててくれました……」


「待ってくれ。君はお父さんの傷を治すって言ってた。お父さんが亡くなっているなら、辻褄が合わない」


「……長いお涙頂戴のお話の途中だったのに……結論だけ聞きたいなんて、先生は欲張りですね……。

 ……父が死んだというのは公式な記録です。あの日、恨みを募らせた悪い奴らが父と母を襲いました。父は両腕と両足を切断され、ヒーラーであった母は胸を貫かれて死にました。悪党は逃げ去りましたが、父はまだ死んでおらず、母も実はまだ息がありました。母は命を懸けて死にゆく父に【結晶化】の秘術をかけて、そして息を引き取りました……。

 ……これは現場に駆け付けた叔父から聞いた話ですが、その証拠に、今も屋敷には結晶化した父がいます……。

 ……なぜ私が知識を追い求めるのか。……それは父を治すことが目的だからです。……結晶化を解いて、父の四肢を復元する。それが最終目標……。

 ……残念ながら、そのどちらも現在の学問では無しえません。……ですが、かつて存在したとされるスキル、すべての知識を得ることができるという【叡智】を取得すれば、父を救えるだろうと、その思いで学んでいます……」


 【叡智】か。聞いたことはあるが、伝説上のスキルで神の使いが取得していたとされるものだ。そのスキルを持って神の使いは世界に存在した問題や争いを全ておさめて平和をもたらしたとされている。

 アゼートがわき目も降らずに勉強をしていたのは、お父さんを治すという一心だったのか……。


「……どうですか、クランク先生……。……欠損を回復するスキルを教えてはいただけませんか? ……」


「教えたいのはやまやまなんだが、俺もどうやったのかよく覚えていないんだ。あのときは君を助けようと無我夢中だったから」


「……なるほど。……タダで教えてもらえるとは思っていません……。ですが、私も、叔父の世話になっている身。お金を都合することはできません……。それでなくても、叔父には学校に行きたいと言って迷惑をかけているのに……」


「ああ、そうじゃなくて――」


「……私が差し出せるのはこの……」


 ちょっと待って! 何で自分の服に手をかけてるの!?


「わー、待て、待て! 早まるな!」


 俺は自分の手で目を覆い、服を脱ぎ去ろうとするアゼートの姿を強制シャットアウトする。

 事故があってはいけないので、ギュッと両目も閉じる。


 …………

 ……


 ん?


 だが、それ以降、服を脱ぐ音も、アゼートの声も聞こえてこない。


「クーム君?」


 気になった俺は恐る恐る目を開け、指の隙間からアゼートの様子を覗き見る。

 そんな彼女は服の胸の部分に両手をかけて、前をはだける直前の姿で止まっていて……自らの胸に視線を落としたまま、無言を貫いている。


「……自業自得とはこのことですね……。こんな傷だらけの体では、交渉の材料にもならない……」


「そ、そんなことないぞ!」


「……先生、見え透いた嘘はやめてください……」


「嘘じゃない。傷だらけであっても、君の魅力は損なわれない!」


「……どこに魅力があるんですか……」


「え、えっと、そ、そう。おなか! 治療のために見てしまったが、健康的なお腹だった。それと、足だって、長くて素敵だ!」


「……胸はどうですか……」


「むねぇ!? いや、その、立派で素晴らしいとおもうよ! 大きくて、うん」


 何を言ってるんだ俺は!?


「……証明してください……」


「しょ、証明ぃ!?」


「……私にまだ女としての価値があって、先生と交渉できるということを……」


 アゼートは胸を見せようとして、胸元を開いて――


 そこで俺はプッツン来た。


「やめろアゼート! いいか! 自分の体を大切にしろ! 今後一切自分の体を対価とするんじゃない。もちろん自分の体を実験台にするのもだめだ!」


「……ですが……」


「ですがじゃない! そんな事をしなくても俺は分かることを教えてあげるつもりだった。でも、今気が変わった。そんな考えの君には教えない。今ここで教えたら、君は今後また自分の体を使おうとするだろう」


「……どうしたら……」


「もちろん君が考えを改めたなら教えてあげるつもりだ。答えは自分で探すんだ。君は賢い。俺の言わんとする意味は分かるはずだ」


「……分かりました。クランク先生の授業に出ます……。……ちゃんと授業に出て、先生の信頼を得て見せます……」


「ああ。それでいい。一緒に頑張って行こう」


「……はい……」


 交換条件で授業に出席させるなんて、ずるい大人だと言われてもしかたがない。

 経緯はどうであれ、アゼートにも俺の元で学んでほしい。

 俺と、そしてクラスの皆と学ぶことで得られるものもあるはずだから。


「……最初からそうするつもりでしたから……」


 なにっ!?


「……これからよろしくお願いしますね、クランク先生……」


 ――ピロン


 『アゼート・クームにスキル【魔力燃焼】を貢ぎました』

 

 とてもいい笑顔だった。

 初めて見たアゼートの素顔のままの笑顔は、俺が心を奪われてスキルを貢いでしまうほど、生き生きとした表情だったのだ。

お読みいただきありがとうございます。

今回でアゼート編は完結となります。

学園きっての秀才、アゼート・クーム。彼女を更生(?)させるために、今回もいろいろありましたね。

ナオが自主勉強したり、パンツが見えたと言ったり、身体測定で隠し撮りしたり、30日間聖堂に通い詰めたり、スカートの中に入ったり、鼻にちゅっちゅしたり。


面白かった! 続きが読みたい! 応援してる! という方はぜひ応援ポイントとブックマークとをよろしくお願いいたします。

作者はとても喜びます。


さて、次回から第4章となります。

問題児三人が教室に集まって、まともな授業が始まる!(のか

お楽しみに!

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