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033 アゼートの目的

 薄暗く深い茂みの中。道も無い場所をガサガサと手でかき分けながら進む人の影が一つ。

 同年代の女子生徒の中では高身長で、深くフードをかぶったローブ姿は男性とみ間違えられてもおかしくはない。

 影の正体はアゼート・クーム。独学で勉強を続ける聖ブライスト学園きっての秀才。


 (……いた……)


 ガサガサと進んでいた彼女が立ち止まり、先の様子をうかがう。

 視線の先には、彼女が立てていた音に反応して顔を上げている角突きうさぎの姿があった。

 小さな体をしているがれっきとした魔物であり、獲物を見つけるとその額にある尖った角を突き刺して止めを刺す習性をもつ。


 アゼートは手に持ったナイフをグッと握りしめる。


 魔物を狩るつもりなのか。息を落ち着けて相手の姿を注視している。

 相手に逃げられる心配はない。なぜなら――


 アゼートはガサリと茂みから姿を現す。


 すると、彼女の姿を見つけた角突きうさぎはギラリと瞳を光らせて、一直線にアゼートに向かって駆け出したのだ。

 角突きウサギにとってアゼートは獲物。獲物から逃げる必要などないからだ。


 (……狙いは、私の喉……。……だけど、所詮は知能の低い獣……)


 アゼートは慌てることも恐れることも無く、角突きウサギへと向き直る。

 だが、構えのそれは初心者丸出し。


 その理由は、彼女が角突きうさぎと相対したのはこれが最初であり、これが初めての戦いということになるからだ。


 走り込んできた角突きうさぎが、とある地点で跳躍する。

 素早い弾丸と化した魔物がアゼートの喉へと迫る。


 (……対処法は簡単。……直線の動きを読んで、ルート上に刃物を置いて、カウンターを狙う。……知識の前には、魔物なんて無意味……)


 ――ぎゅぴっ


 両手で突き出したナイフ。

 それに自らが刺さりに行く形で、角突きウサギはアゼートへと突進した。その結果、アゼートのナイフが角突きウサギの体へと突き刺さったのだ。


 そのまま、ナイフを下へと振るい、刃に刺さった魔物を遠心力によって刃から抜き去る。

 どさりと地面におちた角突きウサギは、傷は深いもののまだ息がある状態だ。


 ぴくぴくと震えている角突きウサギ。

 その姿を確認したアゼートはしゃがみこんで、倒れた角突きウサギに手を伸ばす。


 黒い手袋に覆われた手が角突きウサギに触れると――


「……【治癒】……」


 なぜか、ダメージを与えた対象に治療スキルを使い始めたのだ。


 (……やはりこのスキルではこの深さの傷を治すことはできない……だったら……)


「……【回復の手】……」


 先ほど使った【治癒】よりも強めの回復スキルを発動させるアゼート。


 (……魔物だから、回復が速い? 魔力と関係してるのかもしれない……)


 塞がっていく傷をみながら考察を走らせる。

 彼女がこれまで読んだ文献の中には魔物に回復スキルを使った事例は記述されていなかった。もちろん回復速度が速いか遅いかの記載も無く、知識として無い初めての体験となる。


 ――ぎゅえっ!


 突如、角突きウサギにが目を見開いて、アゼートに飛びかかった。


 (!!)


 アゼートはとっさに体を後ろに倒して尻もちをつき、その一撃をなんとか回避する。

 体勢は悪く、次の動きを行うことができずにいるアゼート。


 だが、そんな彼女に向かっての二撃目は訪れなかった。


 なぜなら角突きウサギはそのまま走り去っていったからだ。


 (……危なかった……。けがを治したら動けるようになる。……分かってはいたけど、スキルの効果量を読み違えていた……)


 獲物に逃げられてしまった。

 こんな事なら、縄で縛って逃げられないようにしてからスキルを使えばよかった、とアゼートは思った。


 (……そうすれば何度もスキルを試せたのに……。明日は縄をもってこよう……。でも、計画としては成功……。

 ……回復限界が訪れた私の体じゃあもう回復スキルを試せない……。もっと強力な回復スキルを習得するためには、何度もスキルを使う必要があるのに、自分の体では試せない……)


 アゼートがクラスメイトのメル・ドワドから買っていたポーションも効果が薄くなっていた。

 体には回復の限度がある。死滅した細胞が復活できる回数には上限があり、それを超えるとポーションでも回復スキルでも傷は治らなくなる。

 普通の生活をしていると回復上限に達するのは老人になった後のことなのだが、アゼートは自らの体を傷つけては回復させてを何度も何度も繰り返してきたため、とうとう回復上限がきてしまったのだ。


 (……ドワドさんはいいことを教えてくれた。……魔物なら練習台にもってこい……)


 回復上限の来た自らの体と言う実験体を捨てて、魔物と言う新たな実験体を使うことにしたのだ。


 アゼートは立ちあがると、パンパンと尻についた砂を払う。

 そして、次の獲物を求めて徘徊を再開するのであった。

お読みいただきありがとうございます。

ナオでは知り得ないアゼートの事情。

本人ならいくらでも語りたい放題。謎のベールに包まれていたアゼートの目的が今明らかに!

次回はナオ視点にもどります。お楽しみに!

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