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032 アゼートを探せ!

「はぁ……」


 特進クラス(ヴァルキュリア)の教室に併設された教員室兼俺の部屋。

 授業が終わって明日の準備も終わって。俺はやることも無くなって机の上に伏せてため息を一つついた。


 最近ずっと力の限り走り続けて秘宝巡礼してたから、それが終わって急に暇になったので、巡礼ロスの状態だ。


 すごく走りたい。

 何も考えずに走りたい、というわけではなく、誰かのため、生徒のために走りたい。

 ここ最近ずっとアゼートの事を考えながら走っていたのに。


 走るのが終わったからアゼートの事を考えなくなったというわけではない。

 その逆だ。走らなくなったから余計にアゼートの事が気になる。


 そして肝心なことは、アゼートのローブの中へと導かれたあの日以来、彼女の姿を見ていないということだ。


 あの日、足の傷を見せながら、アゼートは自分でつけた傷だと言った。

 普通なら自分で自分を傷つけたりしない。つまり普通じゃない状態であり、何か悩みを抱えていると推察できる。


 だからいつでも悩みを聞くとアゼートに言った。

 だが、このありさまだ。相談はおろか姿すら見せてはくれない。


「信頼されていない、か……。担任とはいえ、両手の指で数えられるほどしか顔を合わせてないからな。はぁ……」


 悪い考えが頭をよぎり、一層にため息が深くなる。


 ――コンコン


 そんなとき、部屋のドアがノックされたのだ。


「アゼート!」


 俺はガタリと立ち上がると、ドアの元へ向かい、待ちわびた客人を招き入れる。だが――


「リクセリア……」


 ドアを開いた先に居たのは、渇望していた長身ローブの女子生徒ではなく、金髪赤リボンポニーテールの教え子だったのだ。


 はぁ、とため息が出てしまった。


「なんですの? わたくしが来たら迷惑だっていうのかしら? 失礼じゃなくって?」


「い、いや、すまない。……はぁ」


 ぷりぷりと怒られてしまう。

 アゼートにも来てもらえず、それどころか教え子に不愉快な思いをさせてしまうだなんて、と、さらに気分が下がる。


「あのねぇ! 辛気臭いのよ! せっかく元気づけてあげようと思って、グロリア王国の至宝と名高いわたくしが来てあげたにも関わらず!」 


「……そうか。心配してくれたのか。ありがとうな」


「べっ、別に心配なんかしていませんわ! 授業、そう、授業になりませんもの!  あなた、隠せてるつもりかもしれませんが、授業中も上の空でしたわよ」


「そうだったのか……、すまない」


「だーかーらー! 謝罪を聞きに来たわけでもありませんし、陰気臭い顔を見に来たんでもありませんわ! 謝罪をするくらいなら、動きなさい。あなた、少し前までずっと走ってたでしょ。頭が武芸教師なんだったら、こんなところで悩んでないで動いたらどうなの? 何を悩んでいるのかは知りませんが、行動しなければ何も解決しませんわ」


「リクセリア……」


 そこまで言われて初めて、目の前の彼女の姿を見れていなかったことに気づいた。

 青く綺麗な目。まっすぐな目で俺の目を見てくれていたのだ。


 ――ピロン


 『リクセリア・ラインバートにスキル【雷電耐性(弱)】を貢ぎました』


 いつものだ。

 でも、今はすがすがしい気分だ。


「ありがとうリクセリア! 行ってくる!」


 そう言って俺は部屋を飛び出した。


 本当は俺が彼女たちを導いてあげるべきなのに、逆に俺がリクセリアに導いてもらうだなんてな!


 ◆◆◆


 リクセリアにはっぱをかけられた俺は、吹っ切れたようにアゼートを探し始めた。


 女子寮に突撃したいものの、やっぱり教師としての一線は守るべきで、代わりにいる可能性が高い大図書館に突撃して、縦横無尽に探し回る。


 給料3か月分を突っ込んででも、メルから居場所を教えてもらえばよかったかもしれないが、後悔先に立たず。放課後の今、メルはアルバイトに行ってしまっているから学園にはいない。


 だから勢いのまま全ての場所を探して行くのだ!


「おっと、あの時の穴。まだ直ってないのか」


 リクセリアの弟を案内した時の穴を横目に、深部の細道へと入っていく。

 ここからは人気も少なく、道も複雑になる。いったいどこまで奥があるのかもわからない。


「だけど、今の俺は脳筋武芸教師。しらみつぶしにしても見つけてみせる!」


 脳筋ヒャッハー! 力こそパワーだ!


 などとアドレナリンが出まくっている時のこと。

 普段は鳴るはずのない図書館内に館内放送が響き渡ったのだ。


『クランク先生。ナオ・クランク先生。至急、図書館入口までお越しください』


 なんだ? 俺の呼び出し? 一体何が。


 俺は勢いのついた体にブレーキをかけて止め、吹き抜けになっている上の方へと視線を向ける。

 はるか上階に明かりが見える。入口のある地上の部分だ。


 放送が行われることなんてめったに無く、その上に俺が呼ばれるなんて。と何等かの緊急事態が起こった可能性を予想して、入口へと戻る時間の短縮のために階段を使わずに、高く跳躍して上の階へと直接上り……そうやって吹き抜けを一気に登っていく。


「クランクですが、何かあったんですか?」


 入口に着いた。

 そこには図書委員の女子生徒と、不安そうな表情を浮かべた女子生徒の二人がいた。


「あ、クランク先生ですね。よかった。この子が先生のことを探していて」


 そう図書委員の女子生徒が口を開く。

 俺はいつものように距離をとって彼女たちと対面している。

 そして彼女たちのおでこに視線を合わせることで、普通に対応しているように見せている。


「あの……誰に言ったらいいのか分からなくて。クランク先生はクームさんの担任の先生ですよね」


「ああ、そうだが。クーム君の事で何かあるのか?」


「その……私はクームさんと同室なんですが、クームさん、裏山に行くって出て行ってしまって……止めたんですけど、聞いてくれなくって、それで心配になって」


「裏山だって!? どうしてそんなことに」


 学園は王都の外れの一番外側に位置していて、その背後には深く木々が生い茂った山があるのだ。そこを学園では裏山と呼んでおり、魔物がいることもあり危険なため立ち入りを禁止している。


「……わかりません。クームさんは自分で決めたら人の話は聞かないから、もう先生に伝えるしかって」


「分かった! 俺に任せておけ。必ずクーム君は連れて帰る。だから安心して」


 彼女の心配を払拭するために、意図的に力強い言葉を放つ。

 すると、「はい」と僅かながらに安堵した表情を見せてくれた。


 図書委員の子に同室の子を任せて、俺はその場を駆け出す。


 アゼート、一体何を考えてるんだ!


 俺は焦りを覚えながらも、全速力で裏山へと向かった。

お読みいただきありがとうございます。

今回のクランク先生はいつもより一層脳筋の思考でお送りしております。

そして肝心のアゼートのセリフは一言もない!

今日の一言。「巡礼ロス」

次回もお楽しみに!

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