022 第2章エピローグ
――ラインバート家バルバッハの私室
「どういうことだリクセリア! 王子との婚約を破棄するなぞ、聞いてはおらんぞ!」
「ええ、言っていませんからね」
「これまで私がどれだけの苦労をしてきたと思っておるのだ!」
「存じ上げておりますわ。ですからわたくしもそれに応えようとしてきたではありませんか」
「ぐぐぐ、こうなった以上、ケーリッシュ王子との関係修復は不可能だ! ええい、次の王子を探さなくては! たとえ他国といえども、王子と結婚するのが幸せなのだ! 私も王女と結婚したかった! だが、私の時には結婚適齢期の王女がいなかったのだ!」
拗らせた心情を吐露するバルバッハ。
「それは初耳ですわね」
ガチャリと扉を開いて現れたのはリクセリアの母。つまり、目の前のバルバッハの妻。
「お、お前! なんでここに!」
「面白そうなお話が聞こえてきましたので。それで、あなた。王女と結婚したかったけど、いなかったから仕方なくこの私と結婚した、こんな身分の釣り合わない女と結婚するはずじゃなかった、などと聞こえましたが?」
「そ、そんな事まで言ってないぞ! 誤解だ!」
「すこーし、夫婦で話をする必要がありそうですね」
「あっ、ちょ、まって、痛い! 耳を引っ張らないで!」
そうしてバルバッハは妻に引きずられて連れて行かれてしまった。
その後、「やっぱり恋愛結婚が一番だよね」などと言い出したバルバッハ。
夫婦の念入りな話し合いによって、彼は王族との結婚をあきらめた(あきらめさせられた)様子だった。
◆◆◆
「さあ、勉強しますわよ!」
「あ、ああ……」
俺の目の前には、やる気に満ち溢れたリクセリアの姿があった。
一体どういうことだ。もしかしてあれか、最も安定的な王子の伴侶という就職先を失ったから再就職のためにスキルを磨こうというのだろうか。
「何かしら? わたくしは自分を磨いていこうと思うのです。まあ、磨くまでも無く完ぺきな美少女なのは間違いないのですが、王子よりも素敵な殿方を見つけなくてはなりませんからね。
でも、これ以上わたくしが上り詰めると釣り合う殿方がおりませんわね。
あなた、チャンスですわよ? わたくし以上になればあなたも選択肢に乗せてあげてもよくってよ?」
「あ、あはは……」
やる気を出してくれたのはありがたいが、そういう冗談は心臓に悪い。
「ときにあなた。手を出してみなさい」
ツカツカツカとやってきて、はやく出せと、手のひらを向けて催促してくるリクセリア。
俺はとっさに手を後ろに隠す。
「ほら、出しなさい! やましいことがあるから隠すのよ」
隠した手を無理やり捕まれて……細く長い手指で俺の手をいじくり始めたのだ。
「な、なにするんだ! やめっ!」
――ピロン
『リクセリア・ラインバートにスキル【みじん切り(野菜)】を貢ぎました』
ほら、こうなるから、やめて欲しい!
「あら? 無いわね、そんなわけないのだけど」
そうか、あの時俺が血を飛ばすために嚙みちぎった指の傷を探しているのか。
「まあいいわ。遠方から取り寄せた薬よ」
そう言って、懐からガラス瓶を取り出すと、中身を自分の指に出して、人差し指と親指でむにむにと伸ばしていく。
「な、なにを……」
「何をって、薬を塗るのよ。ほら、こうやって」
薬がついた指で、俺の指をなぞるようにして一本一本塗りこんでいく。
――ピロン
『リクセリア・ラインバートにスキル【ホライゾン・クロス】を貢ぎました』
「こら! 何を逃げようとしているの。我慢しなさい。これはお礼なのだから」
手がヌルヌルにされていく中、俺は横で見ていたメルに助けを求める。
「先生、傷を負ってたんですね。そしたらこちらを」
そう言うと、メルも薬を取り出して「お代はいただきますからね」と言いながら、もう片方の手に薬を塗り込み始めたのだ。
右手の指にはリクセリアの指が、左手の指にはメルの指が、それぞれが別々の動きをして俺の指に絡んでくる。
「ちょ、おい、やめっ!」
薬を塗るにしては過分すぎる。指はもうヌメヌメで薬は床に垂れてるんだけどっ!?
「なによ、不満なの? このわたくしが手ずから塗って差し上げてるんでしてよ?」
「そうですよ、リクセリア様と比べるのはおこがましいですが、私もピチピチの女子なんですよ。今回はサービス料は無料にしておきますけど、やってもらおうと思ったらお金を払わないとだめなんですから」
一体何が起こってるんだ。授業をしていたら左右から女子と密着(手)してヌルヌルにされるなんて!
ぐはぁ!
この後、いくつものスキルを貢いだのは言うまでもない。
そんなこんなで、俺の授業の出席者は一人から二人に増えたのだった。
お読みいただきありがとうございます。
そんなこんなで、問題児の一人だったリクセリアが更生(?)しました。
ここで第2章は終了となります。
取り巻きに追いかけられたり、弟がやってきたり、穴から落下して溺れたり、激写されたり、記者たちに追い回されたり、合いロッカーしたり、いろんなことがありましたね。
面白かった! 続きが読みたい! 応援してる! という方はぜひ応援ポイントとブックマークとをよろしくお願いいたします。
作者はとても喜びます。
さて、次回から第3章となります。
問題児の一人、アゼート・クーム。彼女は一体どんな女の子なのか。
お楽しみに!




