12月15日(土):5.4
週末の朝、笹山芙美は部屋の窓から曇った空を見上げていた。髪が肩に軽く触れ、細い体が薄手のセーターに包まれている。机に置いた鞄に赤いマフラーを引っかけていた。朝靄が窓に滲み、携帯を手に持つが、画面は真っ暗なままだ。暖房の微かな音が部屋を満たし、芙美は公園での出来事を思い出す。野良猫の血に目を逸らした廉也の姿が頭に蘇り、
「彼が……吸血鬼?」
と呟く。首筋の傷を触ると微かな熱が残り、心が波立つ。でも、校庭で手を握った暖かさが浮かび、
「彼であってほしくない」
と声が漏れる。窓に映る自分の顔が揺れる。
昼過ぎ、気分転換に商店街へ出かけた。赤いマフラーを首に巻き、携帯をポケットに仕舞う。商店街は冬の静けさに包まれ、薄日が雲に滲んでいた。店先の軒下に小雨が滴り、通行人がマフラーを巻いて足早に歩く。芙美はイルミネーションを見つめ、彼と笑った姿が胸に浮かぶ。
「きれいだね」
と響いた声が心を温め、真実が重くのしかかる。ショーウィンドウに映る自分の顔が不安に揺れ、隣の子供が母親と笑い合う声に微笑むが、すぐに表情が曇った。商店街の喧騒が遠く感じられ、胸が軋む。
夕方、河川敷に足を運んだ。小雨が地面を濡らし、冷たい風がマフラーを揺らす。ベンチに座り、夕闇が川面に落ちていた。携帯を手に持つと、彼との約束が胸に蘇る。手を握った暖かさ、柔和な笑顔が浮かび、
「信じたい」
と呟く。首筋の傷に触れると、真実が重いと声が震えた。のぞみの言葉が頭をよぎり、ナイフの冷たい感触が掌に蘇る。河川敷の静寂が心を包み、
「もし彼なら……」
と考えると涙が溢れる。
「彼がそんな人でも、私には廉也が必要で……」
答えが出ないまま、風が冷たく吹き抜け、芙美の頬を濡らす。遠くの街灯が頼りなく揺らぎ、闇に滲む。
家に戻り、部屋で鞄を開く。ナイフが目に映り、机に置く。夜の冷気が部屋を包み、曇天の闇が深まっていた。日記を開き、「廉也を信じたい。でも、真実を知らなきゃ」とシャーペンで書く。涙が紙に落ち、字が滲む。
「彼じゃないよね」
と呟き、目を閉じ、
「幸せだね」
と呟いた日が頭に浮かぶ。ナイフを手に持ち、冷たい感触が掌に伝わる。
「信じたいけど、真実が重い」
心が揺れ、携帯を手に持つ。廉也からの「気をつけてね」のメールが残り、胸が軋んだ。曇天の闇が部屋を包み、決意が静かに沈む。