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12月11日(火):1.4

次回の更新は4月11日(金)20時です。よろしくお願いします!

 放課後の教室は、クリスマスパーティーの準備で賑わっていた。笹山芙美はブレザーを着たまま、窓に紙の雪の結晶を貼っていた。この日だけ、いつもと違う赤いリボンを二つ結びの髪に着けていて、それが肩に揺れる。細い体で、鞄から赤いマフラーの端が覗く。


 窓の外では校庭が薄暗くなり、雪がちらつき、木々の枝が風にそよいでいた。教室の中央ではクラスメイトが紙の鎖を編み、机に置かれたCDラジカセから冬らしいメロディーが流れている。「飾り増やそうぜ」と男子が笑い、「ツリーに鈴つけたい!」と女子が紙袋から飾りを取り出す。壁には色とりどりの紙テープが垂れ、黒板の隅には誰かが描いたサンタの落書きが残っていた。


 芙美はテープを手に持つが、首筋が疼き、一瞬手を止める。小笠原廉也が近づき、少し長めの前髪が揺れる。すらりとした姿に穏やかな笑みが浮かんでいた。


「芙美、手伝うよ。ツリーの飾り付け、一緒にやろう」


 二人は教室の隅に移動した。机にはコンビニのケーキやジュースが並び、紙皿とプラスチックのフォークが散らばる。芙美が紙の星を手に持つと、廉也が笑った。


「これ、どこに貼る?高いところ届くよ」


 星を受け取ってツリーに貼り、芙美を見下ろす。


「それ、似合うね」


 芙美は頬が熱くなり、目を伏せた。教室の喧騒が一層高まり、「ゲームやろうぜ」「トランプ持ってきた!」とクラスメイトが騒ぎ出す。芙美と廉也はツリーの下で二人きりになり、電飾が点滅して柔らかな光を投げかける。廉也が紙皿にケーキを乗せた。


「芙美、食べる?」

「うん、ありがとう」


 芙美が頷くと、距離が縮まる。喧騒が遠ざかり、電飾の光が二人の足元に小さな影を落とす。教室の空気が甘い香りで満ちていた。


「クリスマスっていいね」


 廉也が前髪を払い、目を細める。


「……うん、温かいね」


 芙美は声が震えた。机の端に置かれたジュースの缶が冷たく光り、窓ガラスに雪が一瞬張り付いては溶ける。


「最近、芙美といる時間が楽しいよ。もっと芙美と過ごしたい」


 廉也が真剣な目で言う。芙美の胸がドキッとし、目を伏せる。


「私も……安心する。私も」


 顔が熱い。廉也が笑い、手を軽く握った。


「本当に?」


 目を細め、芙美の手をそっと包む。


「うん、本当」


 芙美が目を伏せたまま小さく笑う。目を合わせられず、電飾の光が二人を包む。ツリーの影が壁に揺れ、教室の喧騒が遠くに響いた。


 パーティーが終わり、教室が静かになると、二人は校庭に出た。芙美は赤いマフラーを巻き、冷たい風に身を縮める。雪がちらつき、校庭に薄く積もり始めていた。廉也は紺コートを羽織り、ポケットから手を出して芙美の手を握る。古いベンチに雪が積もり始め、遠くの街灯がぼんやり光る。校庭のトラックは雪で輪郭がぼやけ、静寂が足音を吸い込んでいた。


「手、冷たいね」


 芙美が言うと、廉也が笑みを浮かべる。息が白く混じる。芙美がマフラーを直すと、廉也が雪を軽く払う。


「不思議な感じだ。俺も嬉しいよ」


 二人の影が伸び、校舎の窓に映る。


「芙美とこうやってると落ち着くな」

「私も」


 心が温まる。芙美が校舎を見上げると、廉也がそっと呟く。


「芙美と一緒なら……」


 一瞬彼の笑みに影が差し、目を伏せる。教室から笑い声が響く。「あれ小笠原と笹山じゃね?付き合っちゃえよ!」芙美は顔を赤らめ、二つ結びを指で軽く触った。何か言い返そうかと迷うが、言葉が喉に詰まる。


「いいよね?」


 廉也が笑う。


「うん。……嬉しい」


 芙美が目を伏せる。心が温かくなる。校庭の雪が微かにきらめき、遠くの木々が風に揺れた。


「帰りに寄り道しない?」

「うん!」


 二人は歩き出す。路地の小さなカフェからオレンジ色の灯りが漏れ、雪に足跡が点々と続く。カフェの窓にはクリスマスの飾りが貼られ、ガラス越しにカップの湯気が揺らめく。


「きれいだね」

「芙美と一緒ならもっと特別だよ」


 カフェの窓辺で立ち止まり、ガラスに映る雪が揺れる。路地の端に積もった雪が街灯に照らされ、柔らかな光を返す。


「クリスマス、何かしようかな」

「芙美と一緒なら何でもいいよ」


 遠くの街灯が雪に映る。カフェの扉が開き、微かなコーヒーの香りが漂った。別れ際、路地の角で立ち止まり、廉也が軽く手を振る。


「また明日」

「うん、気をつけてね」


 その笑顔がまぶしくて、芙美は思わず目を細める。別れてからすぐに、芙美は携帯を取り出し、「明日も会える?」とメールを打つ。鈴のストラップが揺れ、「もちろん」と返信が届く。廉也の背中が遠ざかり、紺コートの裾が雪に染まる。芙美はマフラーを巻き直し、カフェの灯りを背に歩く。雪が静かに降り続き、路地の石畳に薄く積もる。遠くで犬の遠吠えが聞こえ、芙美の胸が締まる。

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