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11月28日(水):18.2

今後は毎週月・水・金の20時に投稿します。

次回の更新は4月7日(月)です。よろしくお願いします!

 放課後の図書室は、窓から差し込む夕陽に染まり、静けさが漂っていた。笹山芙美はブレザーを着たまま、机にノートを広げていた。栗色髪の二つ結びが肩に落ち、華奢な姿が椅子に座ると足が微かに浮く。


 机の端に置いた鞄から赤いマフラーの端が覗き、開かれたノートには冬の詩の感想が書きかけで残っている。「夜が寂しくて、誰かを待つみたい」と綴り、首筋が疼いて目を伏せた。窓の外では校庭がオレンジ色に輝き、木々の枝が夕陽に染まる。蛍光灯がチカチカと点滅し、微かな唸り音が静寂に響く。


 ドアが軋む音がして、小笠原廉也が顔を覗かせた。少し長めの前髪が風に揺れ、すらりとした姿がブレザーに映える。柔らかな顔立ちに穏やかな笑みが浮かぶ。


「芙美、まだ残ってたんだ」


 気遣う声に、芙美はノートを閉じて微笑んだ。


「詩、書いてたの」

「どんな詩?」


 廉也が近づき、イヤホンが首から垂れる。白いコードがコートの襟に引っかかっていた。


「冬の夜みたいに寂しくて、でも温かい感じ」

「読んでもいいかな?」


 芙美は首筋を押さえ、首を振る。


「今度ね」


 窓の外で冷たい風が吹き始め、図書室の空気が冷たくなる。廉也が窓を見やり、


「商店街でイルミネーション見ない?」


 芙美が「うん」と頷き、二人は図書室を出る。芙美は赤いマフラーを巻き直し、冷たい風に身を縮める。廉也は紺色のコートを羽織り、ポケットに手を入れて歩く。商店街はクリスマスの飾り付けで賑わい、素朴なツリーが道端に並んでいた。電飾が道に映り、商店の軒先から漏れる光が温かい。「サンタさん来るかな」と子供が母親に話し、親子の笑い声が響く。


「きれいだね」


 芙美が呟くと、廉也が目を細める。


「芙美とだと特別」


 イルミネーションの下で立ち止まり、二人の影が光に滲む。芙美が息を白くすると、廉也が紺の手袋を片方外して渡した。


「これで暖かいだろ」


 手袋なしの手で芙美の手を握り、「冷たいな」と呟く。芙美の顔が赤らみ、心臓が跳ねた。廉也がそっと離すと、掌に暖かさが残る。イルミネーションが点滅し、光が風に揺れる。


「クリスマス、楽しみだね」


 廉也が笑い、芙美の手を軽く握り直す。二人の影が薄曇りに滲み、遠くの街灯が点灯する。


「どうかしたの?」

「夕陽が眩しいなって」

「何それ」


 柔らかな笑みに、芙美の胸が温かくなる。商店の軒先で足を止め、ガラスに映るイルミネーションを見つめる。店内から漏れるラジオの音が微かに聞こえ、冬らしいメロディーが流れる。


「賑やかだね」

「冬って感じ」


 冷たい風がイルミネーションを揺らし、二人は商店街の角で立ち止まる。


「また明日」


 廉也が小さく手を振る。


「気をつけて帰ってね」


 芙美は携帯を取り出し、「明日も会える?」と打つが、送信せずにそっと閉じる。鈴のストラップが揺れ、心が騒がしい。廉也の背中が遠ざかり、紺コートの裾が薄暮に滲む。芙美はマフラーを巻き直し、商店街の光を背に歩き出す。家に着くまで、遠くで犬の遠吠えが聞こえ、芙美の胸が締まる。


 部屋に戻り、携帯を机に置き、ブレザーを脱ぐ。廉也の手の感触が頭から離れず、「変な感じ……」と呟く。ノートを開いて「夜が私を隠す」と書いて消す。窓の外で風が木々を揺らし、薄曇りの空が広がる。心が静まらなかった。

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