第一話二切 真に恐ろしきは
実はこの小説、友人が中学生の頃に考えたモノです。
倉野 京二郎は学生である。それも、魔術という不可思議な技術を学ぶ。
彼はこの日、課題である仮想魔物の討伐をしていた。魔物とは、『魔法』を使える動物の事である。様々な種類がいて、中には可愛らしい愛玩動物のような魔物もいた。
仮想魔物は人工的に造った意思を持たない魔物。もちろん、『魔法』もどきも使える。
正直、京二郎は仮想魔物の討伐なんて面倒な課題はしたくない。それでもする理由は、この課題に留年がかかっているからだ。彼の成績は低く、遅刻も多い。更に学校から問題児として扱われているから、尚悪い。
そうして、学校が用意した場所で学校が用意した魔物を狩る事になったのだが、一つ問題が発生した。教師の怠慢か、用意されていた魔物が話と違う。
普通は危険の少ない魔物なのだが、今回はとびきり危険度の高い魔物がそこにはいた。京二郎にしてみれば最悪である。
更に最悪なのが京二郎の相棒である外道丸で、彼は京二郎の使い魔だ。使い魔とは何か、一言で片付ければ相棒。これ以外に無い。
その外道丸が京二郎の課題に付き合わされるのは必然のようなもので、今は京二郎を恨みに恨んでいる事も必然のようなものだ。
これまでの事を思いだし、京二郎は思う。
(大体、魔物討伐なんて将来で何の役にも立たないし。俺は悪くないし。いや、そもそも悪いのはこんな状況を作り出した教師なわけで……)
ダメ人間そのものである。こんな状況は作り出したのは教師ではなく自分だという事に気づいていない。更に、「数学なんて将来使わないっての」というアホな学生の思考。更には責任転換。極めつけは自分の相棒を糧に自分だけが助かる、という始末。
後ろで何やら叫んでいる相棒の声と、魔物の凶悪すぎる叫びを聞きながら、京二郎は走り続ける。課題なんてもうどうでも良い。学校が用意したものだから死にはしないが、攻撃されればそれなりに痛い。痛いのは嫌いだ、という京二郎の思考が彼を逃げの一手に導いたのである。
そうこうしている内に、京二郎の耳にハスキーな女性の声が聞こえてきた。
「アンタは何やってんだ! ねぇ、普通は使い魔と、この試練を乗り切るでしょ! それが主人公ってもんじゃない!?」
「あ、ファイ先生。外道丸君が僕の代わりに死地へ飛び込んでくれました。彼の事は一生忘れません。彼の分まで力強く生きてみせます」
「死んでないからね!? え、なに、いつの間にか自分は悪くないみたいな感じになってない? 違うからね、何から何までアンタが悪いからね!?」
声、もといファイは京二郎のどこまでも身勝手な発言に、キレ気味で叫んだ。
ファイは課題をしている京二郎の観察役で、魔物を呼び出した張本人。今もどこかで観察しており、京二郎のあまりにも非道の行いに口を出した、といったところだろう。
そんなファイに、京二郎は走る事を止めて不機嫌な表情を作った。後ろはきっちり確認済みだ。
「あのね、そもそもファイ先生があんな魔物にするからさぁ、話が違うじゃないかい? それなのに俺を責めるたぁ、どういう了見だこの三十路。犠牲になった外道丸が不憫で仕方ない」
「う……まあ、それはこちらのミスだ。仮想魔物はこちらで処分しよう。っていうか何気に悪口言ってるよね。三十路じゃなくて三十路手前じゃバカヤロー」
「もう三十路も三十路手前も一緒じゃん? どうせしばらく結婚出来ないんだからさぁ」
「単位落とすぞコノヤロウォォォォ!」
彼女が激怒するのも分からなくは無い。
そして、京二郎は外道丸が気になり、再び憎たらしい表情を作り後ろを振り向く。
「え……?」
視界に入ってきたのは憤怒の表情でこちらに爆走中の外道丸。更に、後ろは魔物の群れ。
「京二郎ォォォォ!」
真に恐ろしいのは人の執念である。