三話四切 フリの伏
兄がアレで、弟がコレで、妹は色々な意味でヤバくて、何故かその末に超普通な人間が挟まっていて、生徒会の副会長で、もう意味が分からない。
そもそも、この家族は何者なのだろうか。今確認しているだけでも四人の兄弟がいて、その三人が異常な奴らだ。生徒会副会長、という人物はおそらく会長よりも有名であろう。
月代 神射。学園最高の魔術師として知られ、同時に魔法をも使う天才の中の天才だ。しかし、いかんせん性格に難があり、生徒会副会長として束縛し、行動に制限を掛けている状態と聞いたことがあった。
神射の名は全国的にも有名であり、魔術試験において全科目で全国三位以内には常に存在している。おそらく、同年代の中でも世界一に近い能力を持つ異端児だ。
さて、厄介な人物が味方になったな、と京二郎は思考を巡らせる。相手は学園一の頭脳を持つ生徒であり、かなりの曲者だ。搾り取ろうとすれば酷いしっぺ返しが食らう。ならば友好的に接するか? いや、それならば相手に隙を与える事となる。彼の性格からして、兄弟を餌にする事は出来ない。
本当に厄介な奴を連れてきてくれた。京二郎は心の中で舌打ちをする。状況を打開するだけならば最善すぎる一手だが、今後の事を考えると……。
いや、と一度否定する。もしかするとこれはチャンスなのかもしれない。思考を切り替え、別の方面へと回す。
考えがまとまり、ニヤリと笑みを浮かべた。
「そうですよねぇ、生徒会と風紀委員は微妙な立場関係だ。更に、生徒会が正式に申請すればファイ先生に何らかの不幸が訪れるかもしれない」
ここは徹底的に『今の』敵を痛め付ける。状況は好転、敵の動きも封じ込め、文句の無い滑り出しだ。後はミスをしないか、神射が予想外の一手を投じなければ大丈夫。
と、ここで悔しそうに表情を歪めるファイに対して神射が口を開いた。
「確かに、そこのクズが言った通りだ。けど、あくまで敵対関係になって良いのは俺個人の問題。どうするかは会長様の判断に任せるってわけだ。そもそも、ここから先は俺は触れねェよ。そっちで勝手にやれってんだ」
とりあえず、暴言は無視だ。今まで散々言われてきたのか、京二郎はクズという言葉に対しては無視している。
ふぅん、と声を出して目を細める。
「それは、副会長としての判断、という事で良いんだね?」
「あぁ、あくまで副会長としての、だ」
「そうかそうか……死ねば良いのに」
最も厄介な一手を出され、京二郎は聞こえない程度にボソッと呟いた。副会長としての判断を述べただけで、現状は何も変わっていない。そもそも、個人の判断を彼は明確に述べてはいない。ならば、京二郎にとって味方になるのか、敵になるのかは不確定だ。
触れない、という言葉も信用ならない。食えない奴め、と京二郎は自分を完全に棚にあげた言葉を心の中で放った。
最悪、神射が敵に回ったとしても、今この場面で大きな脅威になるだろうか。京二郎にとって重要なのは風紀委員にダメージを与えつつ、この場を逃げ延びる事だ。その点において、まだ神射の存在は放置しても良い。
確かに神射が敵対するなら京二郎にとって脅威的な存在となる。しかし、今ではない。今はそれより目の前で真っ赤になっている女狐を叩きのめす。
京二郎は口元に笑みを浮かべながら外道丸を見る。
(さぁ、始めよう)
アイコンタクト。試験前から始動していた計画の最終段階の合図を、外道丸に送った。