第三話三切 今世紀とは何だ
景色が華やかだ。
京四郎は目の前でバカ面を晒す敵の姿を見て、悦に入っていた。外道丸が言った補正、という言葉の意味は分からない、というか分かりたくないが、とにかくこんなに都合良く物事が進むとは思っていなかった。
もちろん、危機を脱しようと策を巡らせはしたものの、あまり良い案は浮かばない状況だっただけに、外道丸の働きは評価に値する。どういう経緯で外道丸が救世主と知り合ったのか分からないが、彼が生徒会という強い味方を連れてきたのは事実だ。
しかし、油断は出来ない。あらかじめ、外道丸には油断するなと伝えている。なんせ相手は自分の宿敵でもある風紀委員だ。更に、味方をするのが生徒会ときている。
立場上、生徒会と京四郎は敵対するはず。元々、生徒会は風紀委員側の組織だ。風紀委員に指令を出しているのが生徒会と考えるなら、京四郎と生徒会は敵対している事となる。
油断してはいけない。恩返しと銘打ってはいるが、きっと何か裏があるはず。
京四郎は外道丸にある事を伝え、呆然としているファイを憎たらしい表情で見た。
「いやー、ファイ先生はダメだねー。生徒を自分の過失で危険に晒し、意味の分からない冤罪で生徒に罰を下そうとするなんて」
名目は、自分に罪は無い。これは冤罪で、無実と言い張る。一応、名目は必要であるからこその発言だ。
京四郎という男は、とことん食えない奴である。
そもそも、誰が悪いかと問われれば、何もかも京二郎が悪い。にも関わらず、彼は小悪党のような笑いを発しながら、平気で嘘を言った。人格破綻者なのは自他共に認めるが、ここまで来ると殺されかねない。実際、彼に殺意を抱いているのは、ここにいるファイや風紀委員の方々、その他大勢、数えきれない程にいた。
京二郎は目を細め、京二郎と共に入ってきた人物を視界に入れると、ニヤリと笑った。
「久しぶり、じゃ無いよね。なんて言うべきなのかなぁ?」
「普通に挨拶すべきかと思いますよ、倉野京二郎さん」
自分の名前を呼ばれ、笑みを深くする。それが意味するのは、彼が自分がどういう存在なのか知った上で協力する、という事だ。つまり、明らかな裏切り行為は生徒会の信用に関わるのでしない。
ついこの間会ったばかりの眼鏡は、苦笑いを浮かべながら京二郎と視線を合わせた。その表情からは、何となく諦めの色が見て取れる。
「それより、風紀委員の皆さん、残念ですが彼と彼の使い魔の身柄は私達、生徒会が預かる事になりました。異論があれば聞きますよ」
その言葉に、ファイは理解出来ないとばかりに吠える。
「風紀委員は生徒会の意思を無視していない範囲での自由を認められているはず! 教師の私が付き添いをしている限り、生徒会はこの件に関して介入は出来ない。いや、そもそも生徒会はこの二人を敵視していたはず! 何故だ!?」
まくし立てるように声を発するファイに、眼鏡と共にいる青年が答える。少し長く、アシンメトリーにしている黒髪、目付きは悪く歯を剥き出しにした獰猛な笑みを見せている。着崩した制服に、その見た目から不良と言っても良い青年だ。
「あァ? 生徒会は介入出来ない、なんて決め事は存在しねェんだが? 俺の聞き間違いかァ? ファイ先生よォ」
荒々しく、相手を小馬鹿にしたような口調。雰囲気はどことなく京二郎に似ており、鋭さが目立つ。
「元々、正式に決められた事じゃァ、ねェんだよ。それは暗黙の了解だろうが。だから、どちらかが破っても問題ねェってわけだ」
「今まで守られてきたルールを破るつもりか? お前達は生徒会だろ。答えてもらうぞ、神射。何故、風紀委員との関係を悪くしてまで、この二人を助ける?」
その問いに、青年──神射は鼻で笑う。
「俺は別に、テメェらと仲違いしようが、戦争しようが構わねェ。困るのは生徒会長だからなァ。副会長の俺は困らねェ」
自己中心的な発言をする神射に、眼鏡こと阿雲は困ったように笑う。
「そんな事を言っちゃダメだよ――兄さん」
今世紀最大の驚きが京二郎を襲った。