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第二話後切 出会い、それは未来へと繋がる

後書きにフライング的なネタバレ有り。

先に謝っておきます、ごめんなさい。

◇◇◇


 ふぅ、と息を吐く。木製のベンチに腰を下ろし、外道丸はこれからどうしようか、考える。ノリで逃げたは良いが、結局は捕まるだろうと、外道丸はげんなりとした。


 ここは学校であり、相手は教師だ。帰ろうにも京二郎がいなければどうにもならないわけで、まさに八方塞がり。だけど呼び出しに応じればどんな目に合うか分かったものではない。京二郎を助けるのも癪にさわる。


 外道丸という使い魔は面倒臭い性格をしていた。


 ちゃっかり、周りを見渡せる場所にいるから、質が悪い。ここは学校の中庭で、自然が溢れ爽やかな空気が流れているのだが、生徒からの人気はいまいちだ。何を好き好んで休みの度に外に出なくてはいけない、というのが生徒の声。今時の若者は室内が好きなのだ。


 と、そこで外道丸は人の気配を感じた。即座に警戒し、周りを見渡す。すると、向こうの方で数人の男女がいた。女子生徒が縄を木にかけており、男子生徒二人がそれを止めようとしている。


 何やら面白そうな事をしていた。胸の中にある好奇心がみるみる内に膨らんでいく。野次馬根性丸出しであった。


 ここら辺は京二郎とは似て非なる性格。京二郎はどこか人生を舐めており、危険だと分かっていても分からないフリをして要らぬちょっかいを出したがる。対して外道丸は自分の心に正直で、興味のある事は危険だと感じずに突っ込んでいく。


 要は、感性の違いであった。


 いつもの無感情な瞳は僅かにキラキラと輝き、外道丸はベンチを立つ。そのまま三人に近づいていき、途中から聞こえてきた言葉に思わず立ち止まった。


「だから、倉野先輩には関わっちゃいけないの! あー、縄から手を離せ! 鬱になるな! 面倒くさ……あー、ゴメンゴメン。だからそんな表情しちゃだめ!」


 状況が良く分からない。だけど、倉野先輩という言葉は外道丸を立ち止まらせるには充分な言葉である。また、京二郎絡みだ。どこまでトラブルを引き起こせば気が済むのだろう。いや、彼自身がもうトラブルの化身である。


 ともかく、外道丸は主人の憎たらしい笑みを思いだし、ため息をついた。この三人組も京二郎が何かをやらかし、被害を受けた可哀想な方達なのであろう。


 再び足を動かし、三人組に近づいた外道丸は、とりあえず眼鏡をかけた男子生徒に話しかける事にした。もう一人は説得に忙しそうだ。


「すみません、貴方達はどこのお笑い芸人ですか? 正直、センスが無いので辞める事をオススメします」


 この男はまともなしゃべり方が出来ないのか。まるで社会に順応出来ない偏屈人間である。


 そんなダメ使い魔の頭がおかしいとしか思えないコンタクトに、眼鏡の生徒は不思議そうな顔をして、返事をした。


「え……と、どこかでお会いしましたか?」


 そりゃそうだ。あんな第一声を放つ初対面など、存在するはずがない。まあ、実際は目の前にいるのだが、眼鏡の生徒は申し訳無さそうな表情をした。


 が、外道丸の本質はあくまでも変人である。普通の返事をするはずが無かった。


「まずその丁寧な話し方を即刻止めて下さい。被ってるんですよ。読者が混乱する危険がありますから、貴方は丁寧な話し方をする眼鏡から、ただの眼鏡になってください」


 誰が間違いか。そう天から聞こえてきたような気がした外道丸は怪訝な表情をするが、そこは電波という事で気にしない。


 一方、ただの眼鏡になれと言われた男子生徒は、困ったように笑みを作る。


「すみません、この話し方は癖でして。家族以外にはこの話し方なんです。あと、これはだて眼鏡です」


「な……!」


 外道丸は眼鏡の発言に衝撃を受けた。


(だて眼鏡……? そんな馬鹿な! 地の文でさえ眼鏡と称しているのに、だて眼鏡……!? こいつは強敵ですね)


 何やらブッ飛び過ぎて世界からはみ出した思考をする外道丸は、目の前の眼鏡を強敵と認識する。自分のキャラを薄れさせる恐れがある相手だと、警戒した。


「ああ、ね。だて眼鏡ですか。俺も持ってますよ、だて眼鏡。今日はかけてないだけですから。いつもはかけてますから。地の文もだて眼鏡って言ってますから」


 意味の分からない反論をする外道丸。もはや正常な思考を持つ者にはついていけない。ツッコミがいないから、この変態の処理が追い付かない。



 あいにく、眼鏡はツッコミの出来るクールなキャラでも、陽気なキャラでもない。


「へぇ、まあ、良いんじゃないですか。地の文が眼鏡だろうと、だて眼鏡だろうと、僕は気にしませんから。っていうか、既になってますよね、これ」


 にこやかに言う眼鏡。意外や意外、彼も世界からはみ出した思考回路の持ち主であったらしい。地の文という単語が何よりの証拠だ。


(ま、まずいですね……。話を切り換えないと、この話題で勝てる気がしません。というか、話が進みません)


 何を基準に勝敗を決めるのかは分からないが、外道丸にしてはまともな事を思い、行動に移した。


「ま、まあ、それにしても楽しそうな事をしていますね。コントの練習ですか?」


 ちなみに、この世界にはお笑いもコントも存在する。笑いが無ければ世界はままならない。笑いは世界を現在進行形で救っているのである。


「いや、コントじゃないです」


 なぜか適当に返された返事に外道丸はピクッときてしまうが、そこは抑える。礼儀を忘れてしまえば、この複雑な社会を生き抜いていけない。などと、礼儀という言葉をどこで覚えた、と言いたくなるような事を思った外道丸は、気を取り直して再び尋ねる。


「何をしているのですか? 五秒以内に答えないと磨り潰しますから。……一、二、五。はい時間切れー。磨り潰し決定ー」


「冷静に最初から順にツッコミますと、なぜ磨り潰し? っていうかどこを? 言い知れない恐怖がありますから。それと、なんですか、その面倒だから一気に飛ばしてしまおう、みたいなカウントは。三と四はどこに行ったんですか?」


 ……なんとも、下手くそ過ぎて笑いも出ないツッコミをありがとう。この男子生徒は、ツッコミも出来ない丁寧な眼鏡らしい。そして、やはり肝心な事を忘れている。


「ねえ、ここまで来るとわざとですよね。逆にわざとじゃないと悲しいんですけど。人の話を聞かないボケ殺しは嫌われますよ」


「ええ、わざとです。良かったですね。ちなみに、理由は身内の恥を晒したくなかったからです」


「もう充分に晒してるよ」


 いつもの丁寧な言葉を止め、思わずツッコミを入れてしまう外道丸。



 ははは、と笑った眼鏡はなぜかいきなり頭を下げ始めた。それにはさすがの外道丸も驚き僅かに表情を歪める。


「何のつもりですか?」


「非礼のお詫びです。今、少し取り込んでいますので」


 外道丸は、眼鏡の言わん事を理解する。取り込んでいるから、自分の相手をしている暇は無い。だから、とっとと目の前から消え失せろ糞虫が。


 多少、外道丸の脚色も入ってはいるが、意味は同じだ。実際、他の二人を見ると中々に愉快な事態に発展している。


 縄を持つ霊的なオーラの漂う女子生徒が、首を吊る事を諦めて、とうとう縄で自分の首を締める、という暴挙に出ていた。もう一人の男子生徒は、なぜかそこから一歩も動かない。しきりに、眼鏡に向けて兄貴と叫んでいるのを見ると、眼鏡は彼の兄らしい。


 第三者の視点で、あらためて見てみると、この状況はあまりにカオスだ。自殺しようとする霊的な少女、それを止めようとするが動かない男子生徒に、着物を着た美少年に頭を下げる眼鏡。そして、それを愉快だと言って観察する自分がいる、となればもう誰が見てもこいつらとは関わりたくない。


 しかし、当事者で無い事は楽しいな、と考える外道丸に眼鏡はしびれを切らしたのか頭を上げて、話し始めた。


「仕方ありませんね。事情をお話します」


 外道丸は何も言っていないねだが、言っていないからこそ勘違いした眼鏡は、少女を取り抑えながら話を続けた。


「この自殺しようとする少女は僕の妹で、月絵と言います。そこで喚いているのが弟の李織。そして、僕は阿雲と申します。今は、見ての通り月絵を自殺させまいと押さえている最中です」


 簡潔に説明され、外道丸は状況を把握した。どこで京二郎と繋がるかは不明だが、状況だけは分かる。


 成る程、そう頷いた京二郎は踵を返して立ち去ろうとする。しかし、それを眼鏡が焦りながら止めた。


「ちょ、ちょっと! ここは普通助けないですか!? 人として助けないですか!?」


 ごもっとも。人間らしく、道徳的な正論であった。


 が、あいにくと外道丸は道徳的な人間ではないし、そもそも人間ですらない。興味を失ったようないつもの無表情で、外道丸は言う。


「いや、思ったよりも面白く無いです。だから、立ち去ろうとしただけ。それに、俺は人間じゃありません」


 その言葉に、眼鏡は驚きながらも、切羽詰まった声で言ってしまう。そう、言ってしまった。


「お礼はしますから!」


 過去は変えられない。言ってしまったものは仕方ない。それによってどんな未来が待っていようと、過去は変えられないのだ。


 眼鏡の言葉を聞いた外道丸は、妖しい笑みを浮かべる。


「嘘、ではないですね?」


「もちろん!」


「良いでしょう。助けます」


 すると、外道丸は目の前の何も無い空間から棘の付いた半身程もある大きな金棒を取り出した。黒い光を放つ金棒は、何も無い空間から出現したのだ。


 手に持った外道丸は、金棒を振りかぶる。


「え……?」


 眼鏡は突然の事に声を発するが、もう遅い。


「ふんっ!」


 気合いと共に外道丸は金棒を、月絵にブチ当てた。ちなみに、場所は頭である。


 月絵は回転しながら、木へとぶつかった。白目を向き、見事に気絶している。


 そんな彼女の様子に、外道丸は満足げに頷いた。


「よし」


「どこが『よし』じゃァァァァァ! あれもうシャレにならなくね? 結構危ない領域行っちゃってると思うんだけど!? っていうか、あんた誰だよ!」


 今まで外道丸のノータッチだった李織が声を荒げた。動作無しの叫びというのは、気持ちが悪い。


 そして、李織の言葉に外道丸は涼しげな表情で口を開く。


「俺は一応、倉野京二郎の使い魔をしている外道丸です。……以後、お見知りおきを」


 何気ない昼下がりの場面。それが、後に繋がりを見せ、とんでもない事件へと発展する。


 しかし――それはまだ先過ぎる未来の話。

 二話が終わりました。あ、ちなみに必ずしも一話五部構成ってわけじゃありません。


 はい、二話で魔術の説明をしようとして失敗した作者です。三話には必ず出します。


 この話、というか二話で色々と言いたい読者もいると思いますが、そこは許して下さい。


 一応、言い訳として異世界英雄伝説には大筋のストーリーが存在します。更に言っちゃうと、かなりの長編になる予定。どうしましょ。


 あ、それとキャラに対してのツッコミも、もう少しだけ待ってください。色々と伏線有りますし、あの兄弟は重要な役割がありますから。


 次は第三話です。

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