うちの魔女を紹介します
うちには魔女がいる。
魔女というのは本来、西洋における『悪』に位置する存在で、アメリカに渡って『奥さま』になったり、日本でアニメ化されて『魔女っ子』になったりしているものの、本質的には婆姿の闇を司っている。
わざわざ、『白魔術』だの『良い魔女』とつけて説明される魔女という存在。
ただ、ここは日本であって、日本には純粋な『悪』は存在しない。
日本で生まれた魔女は、鬼であり、鬼嫁であり、般若であったり、山姥である。
うちには魔女がいる。
魔女というのは本来、西洋における『悪』に位置する存在で、アメリカに渡って『奥さま』になったり、日本でアニメ化されて『魔女っ子』になったりしているものの、本質的には婆姿の闇を司っている。
わざわざ、『白魔術』だの『良い魔女』とつけて説明される魔女という存在。
ただ、ここは日本であって、日本には純粋な『悪』は存在しない。
日本で生まれた魔女は、鬼であり、鬼嫁であり、般若であったり、山姥である。
これらすべては、あくまで属性であり、ひとりのうちに、同時に有していたりする。
魔法を使えば魔女。洗濯に行けば鬼。怒り狂えば鬼嫁。嫉妬に堕ちれば般若。お腹が空けば山姥。といった具合である。
切なくも哀れな男のうちには魔女がいる。
常に魔法にかけられて、実がすでにわからなくなっているのかもしれないが、男は至って真面目に、『これは愛だ』と歌っている。
世界はそれを、選んだ自分の責任だと思っていたとしても。
今日も今日とて、こんな話から始まる。
朝、我が家には尻尾の切れた中学校に通う子悪魔がいる。
こやつは太陽が出ている間も動き回る事が出来るが、とにかく夜行性で朝が弱い。
?l??))l)lllっっっっllっlっっっっllっっっっっっっっっぉっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっllっっっllっllっっっっっlっllllっっっっっっlおおっlっっっっっっlっっっっっっっっっっっっっっっっっっっlぉおおおっっっぉっっlおぉおおおぉおおおおおおおおおおおおおっlおぉlおぉおぉおっっっぉおおっlっlっっlおllぉっっぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお
と、学校に行く時間に起こすと、こんな感じで理由のわからない叫び声を発して、うちの魔女でさえ、しばし立ち打ちする事を面倒くさがる。
結果、すかさずに『子悪魔を無理にでも起こさせる魔法』を、僕に発動する。
子悪魔も魔女の子だけあって、朝ごはんの準備はしてあげようと思うのか、追加で『朝ごはんの準備をする魔法』をかけてくる。
僕は、子悪魔を制御する技術を身に着けているので、さっさと起こして、朝の準備まで済ませて、仕事の時間までひと休みするわけだが、魔女は、ここぞとばかりに、やれ『乳当て(ブラジャー)持ってきて、靴下用意して。服の準備して。』と、超くだらない魔法を連発してかけてくる。
はいはい、と生返事して、物干やらタンスやらから、本日のコーディネートを考える。
そうこうしていると、朝のシャワーを終えた子悪魔が朝ごはんを食べて、家を出る。
『行ってきます』
『いってらっしゃい』
見送る僕に、布団の中から、『鍵持っていけよ〜』と叫ぶ魔女。
帰宅してくる子悪魔に昼寝を妨げられる事がとにかく嫌だそうだ。
子悪魔が学校に行くと、魔女は出勤の準備に入る。
魔女は箒に乗って飛ぶもので、この魔女も日中活動が可能な光の属性を持っているのだが、結婚してこの方、とにかく(本人曰く)身を護るため。もしくは愛されてるとそうなるから、周りの夫婦見てみ!という理由で、どんどん体重を身に着け、結果、箒に重量オーバーで乗車拒否されたらしい。
本人の希望で魔法の掃除機を購入したものの、本来の使用目的である、ゴミを集めることをしない為、オプションのオートナビゲーションシステが作動せず、超のつくほど方向音痴とあって、掃除機も僕の横に定住している。
掃除はもっぱら、魔法で僕を使役する。
というわけで、分明の最大最良の開発マシーンである自転車(さらに電気システム付き)を購入し、チャリチャリと移動している。
遠くに行く時は、僕が仕事でも、自分の思うままに僕の思考を操って魔法の絨毯よろしく、魔女の御前まで迎えに行く事になる。
とにかく魔女は無敵もしくはチート扱いの上、ナーフされる可能性もない。
なぜなら無限に愛をばら撒いているからだ。
うちの魔女は婆様ではない。若干熟女である。お腹がトレーナーから、時にはみ出てセクシーである。
おっぱいは日々成長していて1年に1度くらいは乳当て(ブラジャー)を買い換える事になる。
触ると5万円請求される。
今日は、遠足のある小学校からの依頼で、山登りに付き合わないといけないから、と朝から随分と不機嫌だった。
世間的に魔女は役に立たないといけない。
そうしないと、お給料がもらえないし、生活が難しくなる。
人に混じって、お仕事をしてお給料も貰えるが、魔女のお仕事をしないと、魔法の道具を買う魔法界のお金は手に入らないらしい。
なので、週の半分は介護施設で魔法を使わずに働き、残り半分で依頼を受けて魔法の仕事に出かける。
ちなみに、人にかける魔法は僕にしか効かないらしい。
本当かどうか知らないけれど、双方向性の愛情が魔法の源らしい。
愛されてるのか?と思うような魔法ばかりかけられているので、この話に関しては常に眉唾ものだ。
うちの魔女の本来の魔法は2つあって
ひとつは、『雨を押しとどめる魔法。』
広い範囲を晴れさせてしまう程の神様の領域に踏み込んでしまいそうなシロモノではなく、うちの魔女のいる周囲、関わりを決めた範囲に限定して、雨を押しとどめる。たまに晴れ間も見えたりするものの、曇り空程度まで。ちょびっと雨が落ちてきたりもするけれど、遠足や運動会などは催行を可能にする。
隣の小学校は雨で中止であったのに、『そっちはできたの?!』と驚かれるレベル。
魔女の取合いになったりするので、依頼は魔女の心に届いたものに限るらしい。
噂になる範囲で留めておかないといけないらしい。日本では表立って魔女狩りはなかったものの、異質・異端を排除する思考は集団においては必然らしい。
もうひとつが、『客を呼ぶ魔法』
その名前の通り、うちの魔女が入る店に客を呼び込む。
どちらも、依頼に応える基準は『愛情』なんだそうだ。
今日の山登りは、いつも遠足の度に雨を降らせてばかりいる先生の最後の遠足らしかった。
『いつも雨のせいで、予定が変わったり、お弁当を室内で食べさせる事になって申し訳ないから、今回雨が降ったら、教師を辞めようって考えてるんやって。いい先生で、評判も悪くないし、この先生が企画して雨が降っても、いつもの事やから、しっかり雨天対策の出来てて良いって意見もあるくらいらしい。』
『でも』
『そう。でもやねんな。本人は申し訳ないとを思ってるし、それやったら、企画担当を外して貰ったら良さそうなもんやけど、本人としても生徒たちを楽しませてあげたいんやろうな。』
どうなん?と疑問に思うことをを聞いてみる。
『結局、今回は遠足行けたとしても、この先はどうすんの?』
『そうやなぁ、魔法の効果としては本来はわたしがいる時だけ。でも、意外と2度目の依頼は来ない。これは予想でしかないけど、そのひとが呼び寄せる雨をわたしが引き受けてる。もしくは、雨が降ることを受け容れられるようになった。たまたま、雨が多いだけかもってね。0と1では、持つ意味が全然違うから』
『そういうもんなんかな』
『そういうもん。だからあなたと出かけると、雨が多いやろ。わたしひとりの時は雨降らんのに』
『うん?ちょっと待って、どういうこと』
『そういう事。あなたに愛を注いであげてるって事やね』
『なるほど、って、そんなんいらんねんけど』
『はっは〜。、じゃあ行くから送って』
『いや、僕も仕事。』
『大丈夫、時間ある。ほいっ!』
腕を頭の上でクルンと回す。
魔法でなくても送っていくけどな、と思うけれど、すでにこれも魔法なのか、今ではよくわからない。
『一緒に行く?』
『いや仕事。』
『休みにしといてあげる』
『もしもし、お疲れ様です。うちの魔女が急用で、今日休みもらいます。』
『な、休みになったやろ』
『おい!まあ、はいは〜いって言われたわ。普段普段はなかなか休ませてくれんのに』
『デートやな』
『そういうもんなん?』
『そういうもん。だってわたしひとりで言ったらさ、迷うやん。道に。帰って来られへんくなるで。結局あなたが仕事行ってても途中で呼び出し』
確かに、そうなるかもと思う。
いままでも、家で用事していたら、迷ったとよく呼び出しをくらう。
ましてや初見の山なんて『迷うな』という方が間違っている。
『よく魔女やってるな。』
『あなたと付き合ってからやから、この仕事』
『え?』
『前にも言ったで。魔女の仕事って急に堕ちてくんねん』
『堕ちてくる?』
『そう、堕ちてくるとしか言われへんねんけどな、元々、自分が魔女って知らんかってんよな』
『ほんで?』
『付き合い始めたら、あなたにしてほしいこととを思いついたら、口にせんでも、やってくれることに気づいてん。』
『おい!いつから』
『う〜ん、よくわからんねんけどな、自信ないっていうか、思い込みとかあるやん?わたしへの愛情が大きすぎて、何でも思考を感じ取ってくれるかも、とか。それで、結構ありえへんこと思ってみたら、それもやってくれたから、それから結構使ってみた。』
『いまでは、ちょちょいのちょいやで』
『おい!って、それはまあいいわ。半分までは自分の意思も入ってたはず。最近は、魔法にかけられてる感、満載やけどな』
『せやろ』
『その得意顔やめて。若干むかつく』
『はっは〜むかつけ、むかつけ。わたしはムカつかない。』
『腕なんか腰に手を回してむかつくわ〜、それ以上おっぱい大きくを見せてどうすんの。もんでほしいんか』
『ハイ3万円。セクハラ』
『あなたの方が立場が上。ちゃんとハラスメントは意味を考えて使って。』
『そんなん良いから、堕ちて来たって何が?』
『あ〜忘れてたわ、脱線しすぎたな』
『仕事っていうかタスクっていうのか、元から、雨をとどめたり、客寄せってのはあってんけど、あなたに魔法を使い出した頃から依頼が入るようになってん。』
『依頼こなしたら、財布ってわけじゃないねんけど、感覚的にチャリンって感じで、こんだけ魔法を使えますよってのがわかるねん。』
『魔法が使える、って雨止めたりするのには、そのチャリンってのはいらんの?』
『自分の為に使うもんちゃうからなのか、タスクってさっき言ったけど、元から持ってるものなのか、言いたくないけど、あなたからの愛情が源なんかも、とか思ってる。』
『付き合ってから、強くなったから』
『ふ〜ん愛情か』
『そ、愛情』
『でも、仕事先で僕の実情をネタのつもりで話たら、最近は9割の相手に、笑えんわ、聞いてるだけで哀れやわ、って哀れまれてるで』
『なんや、いやなんかいな』
『別に〜。逆にここまでこき使っても大丈夫っていう安心感を与えられてることは、うれしい事やし、それだけされても一緒にいたいって人に出会えたってのは幸せやと思うけどな』
『変なの』
『変って言いなや。これがいわゆる愛ってやつやと思うで』
『言ってて恥ずかしくない』
『ええねん。魔法にかけられてるだけやから』
『そんな魔法はかけてない』
そう言って今日も人に運転させる魔法をかけて
隣でくつろいで車に揺られている
『あの先の山な』
『はいはい、それでは今日もよい魔法をお願いします。』
少し先に見える山の上には黒い雨雲
通り過ぎる道は黒く塗れているのにワイパーはもうほとんど動かさなくてもいいくらい。
目的地が近いんだなぁとわかるのだ。
うちの魔女は自分が濡れない場所にいる時は、雨も降る。
降りたらやむ。
そんな魔女
そろそろ仕事の時間になる
サンタクロースはいる。
魔女はちょっとわからない。
日本で暮らして、ヨーロッパでのネイティブな感覚はないから。
でも、日本にやってきた魔女がいたとしたら
きっと、こんな魔女たちになると
思うんですよよね