不憫で不気味な小動物
あの後、チェーンソーさんと迷子を交番に届けた。
チェーンソーさんが職質されるハプニングはあったが、ダンジョン探索許可証を提示することで、ことなきを得ていた。ダンジョン探索許可証は、半日で発行可能だが、カルマ判定が必須なので信頼性は高い。
許可証はカルマ判定を一ヶ月に一度最寄の市役所で行い更新する必要がある。
つまり、チェーンソーさんは少なくとも殺人鬼なんかの極悪人ではないということだ。
「さっきは失礼な態度をとってすみません。良かったら、コレ。」
公園のベンチに腰掛けた彼女に自販機のカフェラテを差し出した。初めは遠慮していたが数回のラリーの後、小さくお礼を言って受け取ってくれた。
「ぁ、あ、き、気にしないでくださいです…。な、慣れてるので…。」
「…ほんと、すみません。」
慣れていると言った彼女の背負う哀愁が不憫で思わずもう一度謝罪してしまった。
「ほ、本当に気にしないでくださいです。あ、あなたは沢山お喋りしてくれて嬉しいです…」
頬を染めて不器用に笑った。
少し傾げた拍子に耳につけた大量のピアスが光を反射した。
「わ、わたし、怖がられることが多くて…。こ、こんなにいっぱい喋ったのって、5、6、7、いや、8年ぶり……?」
僕から受け取ったペットボトルをじっと見つめて言葉を紡ぐ。
不憫だと思った女の子なのに、そのぐるぐると渦を巻く瞳で見つめられるだけで、背筋が凍るような感覚に陥る。いろんな手順をすっ飛ばして、恐怖という感情に直接働きかけてくるような感覚。コレは根が深そうだ。
僕が、平然としていられるのは懐に忍ばせたお酒の力が大きい。酔っ払った僕がどうにかしてくれるだろうという信頼が僕に余裕を与えてくれる。
怖いものは怖いが。
だけど、この子が不憫でつい構ってしまう。
「僕は佐藤 丈悟。大学生をやってた。今は休学中。」
「あ、わ、わたしは、た、小鳥遊 め、廻です。だ、大学生です…。」
え。大学生?セーラー服と黒タイツなのに…?
ファッションだったのか。
怖がられることを良く思ってない様子なのに耳にたくさんのピアスをつけていたり、チェーンソーをもっていたり。独特な感性の持ち主だな。
「ぁ、あ、あ、あの、お友達っ。お、お友達になりませんかっ?」
突然その特徴的な瞳で迫られて硬直してしまった。
その少しの時間で彼女は百面相をしている。
真っ赤な顔が真っ青になっていく。
「ぁ、ぁ、ご、ごめんなさ───」
「うん。友達になろう。今から、小鳥遊さんと僕は友達ね。」
「……はいっっ。」
その笑顔は花が咲くようで僕の目を奪った。
小鳥遊さんは僕が探索者だというと驚いていた。
「じゃ、じゃあ一緒に探索したり……」
「いいね。まぁ、実はダンジョンにいる時の記憶は無くなるんだけどね。お酒で。」
「お酒飲んで、ダ、ダンジョンに行くんですか?」
「そういうスキルなんだ。酔拳っていうんだけど。」
「そ、そんなのもあるんですね。」
「うん。次の日は二日酔い。その日一日はお酒を呪うね。」
「か、看病しますよ?」
おおう。展開が急だな。距離の詰め方がバグってる感じが、経験の少なさを想起させて涙を誘う。
フンス、フンスと意気込んでいる彼女にお願いすることにした。
「あ、でも毎回一緒には行けないと思う。僕、配信やってるから。」
「そ、そうなんですね。なんて名前でやってるんですか?ダンジョン配信ってあんまり見ないから知らなくて…」
小鳥遊さんは申し訳なさそうに縮こまった。
「大丈夫、有名じゃないから知らなくて当たり前だよ。ヨイドレダンジョン攻略チャンネルって言うんだけど…」
「み、見ても良いですか?…知り合いに見られたくなかったり…?」
「ぜんぜん、そんなことないよ。良かったら時間ある時にでも見て欲しい。面白いから。」
記憶がないのでほとんど他人事である。恥ずかしさは感じない。
「え、えへへ、じゃあ、今日見てみます。」
仕草が小動物みたいだ。
不気味な瞳と片耳にギラついた痛々しいくらい大量のピアス。ボサボサの黒髪、黒いセーラー服と黒タイツに赤いリボン。チェーンソー。
不気味さと小動物感のギャップがすごい。
小鳥遊さんとは連絡先を交換してからランニングに戻った。
人間関係の中にいるのが嫌だった。探索者になって解放されると喜んだ矢先、新しい人間関係を増やそうとしている。彼女は別に美人でも可愛くもない。性欲や容姿に惹かれて縁を繋いだわけではない。つまり、無意識に人との繋がりを求めていたわけだ。
難儀なものだ。




