味噌汁はお薬
目を覚ますと日曜日で、太陽は真上に登っていた。
開けっぱなしのカーテンから殺人的な太陽の光が僕を直撃する。
目玉の奥を貫通して脳みそが揺れた。
うっぷ。気持ち悪い。
どうやらダンジョンから生きて帰ってきたらしい。
記憶はないが。
脱ぎ散らかしたジャージと革鎧、傍らにはパンパンになったリュックサックが転がっているいる。
重い頭を抱えながらリュックサックを開けると、大小様々な魔石が詰め込まれていた。
売ったらどれくらいになるんだこれ。
「…酔拳しゅごい。」
うっぷ。喋ると胃液がまろびでそうになる。
痺れた舌が水を求めていた。
なんとか台所に辿り着き、水道水をコップでいただく。
そういえば、二日酔いには味噌汁がいいって聞な。
やかんに水を入れる、入れる…。重い。頭痛い。
夜間を火にかけ、茶碗に出汁入り味噌と乾燥ワカメを入れる。沸いたお湯で味噌を溶かしたら完成だ。
あ、うまい。からだが喜んでいるのがわかるぜ。
なるほど、これは二日酔いの必需品だな。
あ、レベルアップしてるかな。
魔石の数てきに、かなりの数のモンスターを狩ってるはずだ。
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佐藤 丈悟
lv.5
skill.〈酔拳lv1〉〈〉〈〉
sp.12
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おっ、5つつもあがってる。
すごいな。やっぱり〈酔拳〉使う判断は間違ってなかったな。
ダンジョン内に生息するモンスターにはスキルを使ったという判定が下される攻撃、ダンジョン産の武器、原材料がダンジョン産の武器のいずれかでないと攻撃が通らない。
いうまでもなく酔っ払いながらダンジョンアタックは危険なので、何か酔拳を発動しないでも攻撃を通すためのものを買おうか迷ったが、いかんせん高かった。ほんと、お高い。
そりゃ、ダンジョン探索者増えないよ。政府がダンジョン探索を奨励しているので〈身体強化〉系スキルとコボルト鉱の剣は割引きが効くようだが、それでも高い。
アイドルのようにもてはやされた上位探索者を誘蛾灯にして諸国に遅れを取らぬよう、探索者を増やそうとしているが命の危険と初期投資の高さ、理想とかけ離れた3K具合からその思惑はあまり成功していない。
それでも最近はダンジョン配信という画期的な技術の登場でダンジョンに潜る人も増えたらしいが。
配信で思い出した。僕も追尾型カメラを買おう。
ダンジョン内での自分の様子が分からないのはきつい。今度ダンジョンに行く時は録画しておいて僕の動きの如何で昨日得たスキルポイントの使い道は考えよう。
買うのは今度、いや明日にする。
今日はもう寝て過ごそう。
レベルが上がって身体能力が上がっても二日酔いには勝てないらしい。
月曜日。梅雨明けからいくらもしないはずなのに、もう夏だ。
午前の講義を終えて、今日はヨドバシカメラに来ていた。
最新式のダンジョン追尾型カメラ アイズは従来のドローンモデルと違って球に丸いカメラがついた浮遊する目玉のような形だった。課題だった静音性、頑強性を完璧にクリア。最先端技術の霊子ネットワークにアクセスしたダンジョン配信を可能にするらしい。細かいことは分からん。
お値段なんと三十九万九千円。
四十万円じゃないのが小賢しい。
今までの昨日までの僕なら考慮にも入らない値段だ。目も合わせなかっただろう。
だが、しかぁしッ。今日の僕は一味違う。
土曜日のダンジョンアタック。その成果を換金してきた僕の懐にはいま、46万円が入っているのだ。
換金した時はビビったぜ。なんなら今でもビビってる。ダンジョン、スゲー。お酒、バンザイ!
買うと決まればさっさと買おう。
いつまでもこの大金を懐に忍ばせておくのは不安だ。