酔っ払うと強くなるアレ
気がつくと、首から下が地面に埋まっていた。
目の前には雄大な景色。そして猛烈に気分が悪い。
吐き気を堪えながら、記憶を手繰り寄せる。
昨日はそう、20歳の誕生日。大学の帰り道スーパーに寄って缶ビールを買ってみたのだ。近くの公園でプルタブをカシュッと起こし……。
その後の記憶はない。
なるほど。僕はお酒を飲んじゃいけない人種だったらしい。
何がどう転がり、こねくり回したか知らないが今僕はなんだか標高の高いところで生き埋めになっている。想像を絶する酒癖の悪さだ。それも無駄に行動的な。
そして何より、二日酔い。これはやばい。頭がガンガンする。うっぷ、もう絶対酒は飲まねえ……。
〈スキル 酔拳 を 取得 しました〉
今、頭のに響くから喋らないで……
〈スキル取得 に 伴い ステータス を 取得 します〉
あ、やばい。
オロロロロ。
虹色のキラキラエフェクトが必要です。誰か、助けて。
気分が少し落ち着いて、それでも最悪の気分に変わりはないけれど、ステータスとやらを確認することにした。
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佐藤 丈悟
lv.0
skill.〈酔拳lv1〉〈〉〈〉
sp.0
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…oh。
覚醒者になっちゃったよ。
正式名称はダンジョン外ステータス保持者とか、なんとかだった気がする。
最近ネット掲示板で騒がれているのを見た。
覚醒者の行方不明頻発!ダンジョン外でもステータスが適用される特殊性が、いろんな所から目をつけられた結果か!?みたいな。
でも、所詮はネット知識だしな…。
ニュースでもやってないし。
いや逆に怪しいか?
政府も関与してるみたいな…。
……。明日、市役所に届出だしに行こう。
そんなことより家に帰らないと。
というか土の中から脱出しないと。
この穴は、俺が掘ったのか…?
寒かったのかな?確かに土の中はあったかいけれども。
あ、大学。まぁ、いいか。今日はサボりだ。
その後なんとか、穴から抜け出して四苦八苦しながら山を下り、家に着いた時には夜になっていた。
酒で酷い目にあったのが一昨日。そして今日、ダンジョンにやってきていた僕の片手にはカップ酒が握られていた。
昨日は、覚醒者になったことを市役所に届け出て、その勢いで、ダンジョン探索許可証も取ってきた。
許可証のはっこうにはダンジョン講座の受講が必須。大学の講義はサボった。
そして今日は土曜日。華の休日にこんな暗くて臭くてジメジメした穴蔵にいる理由は、覚醒者になっってしまったからだった。
あの後、巷で話題の覚醒者が行方不明になっているという噂についてしっかり調べてみると信憑性が無きにしも非ずだった。失踪者は確認できただけでも、五人以上。
よく考えてみれば到達者──lv100に到達し、ダンジョン外でもステータスが適応するようになった者──と敵対するのはかなりのリスクだが、覚醒者はレベルが低い状態でもステータスをダンジョン外で行使できるのでよからぬことを企む輩にとって何かと都合がいい存在だ。
というわけで自衛するために強くなることにした。
…本当にどうしてこうなった。
ダンジョン探索なんて危険、汚い、キツイの3k。
全ては酒のせいである。
左手にカップ酒、右手に安物の片手剣、安物の革鎧を身にまとい、ここは、ダンジョンの地下一階。
頼れるのは片手剣と酒…いや、片手剣とスキル〈酔拳〉のみ。
スキル〈酔拳〉。酔ってる間は戦闘力が上がるとかなんとか。
カップ酒を開ける。
あー、二日酔いやだなぁ。
でもスキル〈酔拳〉の発動条件だしなぁ。
どうか、今回は二日酔いになりませんように。
南無三ッ。
ゴクゴク…………。
プハーッッッ!!!
「パーリナイッだぜぇぇぇぇ!!!」