骸骨だけどマッチョに偽装して魔王軍に入ります
これは魔王によって世界が統治されている魔物たちの世界の話だ。
あるところにコタローという名の骸骨がいた。
コタローには夢があった。
魔王の親衛隊になるという夢だ。
以前、コタローの住む村に魔王が視察にやってきた。
その時の魔王の気品ある姿と、それを警護する親衛隊の立派な様子に深く感銘を受けたのだ。
魔王は黒い馬に乗って風格を漂わせ、親衛隊は筋肉質で勇ましく彼を守っていた。
――自分も魔王様にお仕えできたらどんなに素敵だろう。
コタローはその光景に目を奪われ、自分もそんな存在になりたいと強く思った。
しかし、それにはひとつ大きな問題があった。
魔王の配下は、一つ目の巨人やイノシシの顔をした筋肉ムキムキのオークばかりだったのだ。
コタローは自分の骨だけの体を見て、溜息をつく。
こんな筋肉の無い骸骨では親衛隊になるどころか、魔王様のお城にお仕えすることもままならないだろう。
しかし、彼は夢を諦めなかった。
全財産を使って鍛冶屋に全身を覆う大きな鎧を作ってもらい、それを着て仕官を申し出たのだ。
強そうな見た目の鎧のおかげで、コタローの姿は大きな鎧のモンスターにしか見えない。
その立派な鎧が功を奏して、希望通り魔王の城で働けることになった。
コタローは憧れの魔王の配下になれたことに最初は喜んだ。
しかし、いざ働き始めると今度は正体を知られてしまうのではないかと急に不安になってきた。
大きな鎧のマッチョなモンスターのふりをしているが、中身はただの骸骨なのだ。
それがばれると、自分はきっとお城を追放されてしまうだろう。
だからコタローは、人前で鎧を脱がないように徹底した。
食事は皆が食べ終わって誰も居なくなるまで待ってから残り物を食べたし、お風呂も一番最後に独りでこっそり入った。
そんな彼の様子に同僚たちが興味を持ったのは言うまでもない。
「おい、コタロー。新入りだからって遠慮するな。食事も風呂も最後じゃなくていいんだぞ? たまには一緒にどうだ?」
「いえ、僕は最後で構いません。ついでに片づけや掃除もした方が気持ちがいいんですよ」
鎧を脱がない為の口実だったが、同僚たちから見ると「謙虚で皆が嫌がる片づけや掃除まで進んで行う感心な新人」だったようだ。
彼は真面目な勤務態度で皆から可愛がられた。
その評価は魔王の親衛隊の耳にも入って、ついに彼は親衛隊の隊長から直々に声をかけられるようにもなったのだ。
「なぁ、コタロー。お前がここで働くようになってだいぶ経つが、お前の素顔を見たことが無い。どんな顔をしているのか見せてくれないか?」
「隊長どの……申し訳ございません。僕は皆様にお見せできないようなブサイクなのです」
「そうだったのか。いいか、コタローよ、男は見た目では無いぞ。大切なのはマッスルだ!」
隊長は元気よく力こぶを見せて笑いかけた。
きっと隊長は彼を慰めたつもりなのだろう。
だが、それを聞いたコタローは、上の空で力なく頷くだけだった。
「大切なのはマッスル……そうだよな。やっぱり親衛隊になりたかったら、たくましくないとダメなんだな……」
骸骨の自分が親衛隊になることはやはり無理だったのだと、コタローは鎧の中で密かに涙を流した。
しかし、そんな彼に転機が訪れた。
魔王が地方に視察に行くことになり、荷物持ちとしてコタローも同行させてもらえることになったのだ。
「親衛隊と一緒に魔王様のお供ができるなんてうれしいなぁ!」
数日後、コタローは荷物を運びながら、親衛隊と共に視察先の村に向かって歩いていた。
すぐ目の前には大きな黒い馬に乗って、風に銀髪をなびかせる魔王の凛々しい姿がある。
――魔王様はなんて尊いのだろう。思い切って仕官してよかった。
たとえ、いつか正体を知られて城を追われることになったとしても、この出来事はきっと一生の思い出になるだろう、彼は密かにそう思った。
しばらくすると目的の村に到着した。
視察に訪れた魔王の姿を見て、集落の住民達は皆、恐れおののいている。
魔王は威風堂々とその光景を眺めた後、ゆっくり馬から降りた。
その時、急に背後から巨大な竜が現れて魔王に襲い掛かった。その竜は魔王を暗殺しようという刺客だったのだ。
「魔王さまっ!!!!」
親衛隊よりも早くそれを察知して魔王の前に飛び出たのは、コタローだった。
巨大な竜の前足がコタローを薙ぎ払って、彼は大きく弾き飛ばされる。
だが、その一瞬が充分な時間稼ぎになった。
即座に親衛隊が動き、魔王自身も魔術を放ったので竜は無事に退治されたのだ。
「コタロー! 大丈夫か!」
強く地面に叩きつけられたコタローに隊長が駆け寄った。
「うっ、ゴホッ、ゴホッ……」
コタローは咳込みながらも、何とか立ち上がる。
だが、彼を包んでいた鎧は竜の攻撃に耐えられなかったらしく、大きく亀裂が入り、そこから真っ白な骸骨の姿が露わになってしまった。
「コタロー……お前は骸骨だったのか」
ついに正体を知られた。これでもうここにはいられなくなる。
コタローは涙を流しながら、地面にひれ伏した。
「申し訳ありません! 僕はマッチョに見せかけて皆を騙していました! 鎧で大きく見せていただけで、実はただの骸骨なんです!」
周囲が静まる中、魔王がゆっくりと口を開いた。
「……コタローよ。顔を上げよ」
地面に額を擦りつけるほど頭を下げていたコタローに、魔王が厳かな声で語りかけた。
「お前は、マッチョという者をどんな存在だと思っているのだ?」
魔王の問いにコタローは震えながらも顔を上げ、恐れながらも答える。
「……親衛隊の皆さんみたいに、大きくて筋肉質の人だと思います」
しかし、魔王はそれに反論した。
「否。マッチョとは、肉体の強靱さやたくましさだけではない。心に勇気を持つ者も含まれる」
「勇気……!」
「お前はたしかに見た目は筋肉を持たない骸骨だ。しかし、とっさに余を庇ったその行動はまさしく勇気あってのこと。コタローよ、お前はマッチョに相応しい」
その言葉に親衛隊の皆も大きな声で賛成した。
「魔王さまの言う通りだ!」
「大切なのは心のマッスルだ!」
「コタローはマッチョだぞ!」
温かい言葉に胸が熱くなったコタローに、隊長が微笑んだ。
「コタロー。これからもよろしく頼むぞ」
「魔王様……隊長……皆さん。ありがとうございます!」
こうして、筋骨隆々の魔王の親衛隊の中にヒョロヒョロの骸骨が一人加わることになった。
彼は誰よりも心がマッチョな骸骨として、今日も張り切って仕事をしている。




