社畜リーマンと幽霊少女
「私と結婚を前提に付き合ってください!!」
「無理」
「何でですか!」
「だってお前、未成年じゃん」
俺は今、目の前の女に告白されてる。どういう状況かと思うが俺でもよく分からん。まぁこの女、顔は結構いいがいかんせん未成年だ。俺が捕まっちまう。まぁそれ以前に、
「てかその前にお前幽霊じゃん」
この女が幽霊っていうのが1番の問題なんだけどな。
俺がこの家に引っ越してから1年くらいだ。この家に引っ越して来たのは会社から近いという所だ。少しでも会社に行く時間を遅らせるために、有給を死ぬ気で取ってこの家に引っ越した。だがこの家に引っ越すにあたって資金を少しでも節約するために家賃が安い所、いわゆる事故物件に引っ越したのだ。
俺には霊感もないし幽霊なんてものも信じていなかったから事故物件でも構わなかった。が、今こうして幽霊が目の前に現れると信じざるを得ないな。幽霊って本当に足元が透けてんだな。
「幽霊だって構わないじゃないですか!愛があれば困難だって乗り越えられるんですよ」
「性別や年齢、国籍とかは聞いたことがあるが生者と死者の壁は聞いたことないわ」
「愛の前に生き死に何て関係ありません!」
「へぇへぇそうですか。じゃあ俺疲れたから寝るわ」
「そんなぁ!?」
俺は今日も終電ギリギリまで働かされて疲れてんだ。今日で30連勤突破、大台突入だ。次は40連勤かなぁ。だめだ、疲れてテンションがおかしくなってきてる。もしかして今、俺の前で喋ってる女の幽霊は疲れすぎて見え始めた幻覚なんじゃないか?
「私は幻覚なんかじゃないですよ!ちゃんと存在してます」
「幽霊は心も読めるのか。それにしても幽霊が死んでるのに、存在してるっていうの少し面白いな。」
「そんな能力ありませんよ。普通に口に出てました」
「マジか。本格的に不味いな、なので寝る」
「ちょっとぉ!あ、ベットに入らないでくださいよー」
「話なら明日聞く。だから今日は寝かせてくれ」
「もー。まぁ恋人の願いを聞いてあげるのができる女ですからね。今日は我慢してあげます」
恋人じゃないんだけどなぁ………。
「おはようございます!!」
大声に目を覚ますと目の前に女の顔があった。誰だこいつ…。あぁ思い出した。昨日現れた女の幽霊か。
「朝からうるさい……」
「ほら起きて!顔洗ってきてください」
「ん〜……」
嫌々布団から出て、寝起きであまり動かない頭で洗面台にたどり着く。冷たい水で目を覚まして目の前にある鏡で自分を見つめる。
「酷い顔だな」
俺の顔は健康とはいえない顔色をして、目の下には隈が染み付いている。こんな俺のどこが好きになったんだあの幽霊。
「朝ごはんできてますよ。はやく食べちゃってくださいね」
「お前朝ごはん作れるのか」
「失礼ですね。私、料理ぐらい作れますよ」
「いや、そう言うんじゃなくて。お前道具とか触れるのか」
「ああそう言うことですか。道具には触れますが、人間とか生きてるものには触れませんよ」
「へぇ」
意外な幽霊の生態を知れたな。この先役に立つ事なんて無いだろうけど。
「ほらほら朝ごはん冷めちゃうから食べてください。会社にも遅刻しちゃいますよ」
「分かった、分かった」
机に並べられた朝飯はトーストにヨーグルト、コーヒーが並べられてた。
「もー。ろくに食品買ってないですよね。冷蔵庫に何も入ってませんでしたよ」
「あー忙しくてなんも買ってなかったな」
「普段、コンビニ弁当ですもんね」
「何で知ってんだよ…」
「姿を出したのは昨日ですけど、貴方が引っ越して来た時からずっと見守ってましたよ♡」
「うわマジかよ」
「ほくろの数まで知ってます!」
「やだなぁ」
家にいる時は大体寝るか風呂入ってるから良かったが、いや良くは無いが。プライベートダダ漏れじゃねぇか。
とりあえず、トーストが硬くなる前に食べるか。
「美味しいですか?」
「トーストを不味くさせる方が難しいだろ」
「女の子は作った料理を好きな人に美味しいって言って貰いたい生き物なんですー」
「そうなのか」
「そうですよー」
話を聞き流しながら朝飯を食べる手を進める。はやく食べないと会社に遅刻する。もし遅刻したら上司の説教コースだ。それだけは避けたい。
「ごちそうさま」
「お粗末様です」
「じゃあ俺、会社行ってくる」
「私もついて行きます!」
「お前、この部屋から出れるのか?」
「確かに私この部屋で死にましたけど、地縛霊とかじゃないので大丈夫ですよ」
こいつ地縛霊じゃないのか。でも俺、霊とか詳しくないからよく分からないけどそう言うものなのか。
「それに愛する人の職場を確認するのは大事ですからね」
「別に面白い事なんて無いぞ」
「暇には慣れてるので大丈夫です!」
「ここが職場ですかー。何か普通ですね」
「こんなもんだろ」
他の職場の事なんてよく知らねぇが、普通こんなもんじゃないのか?まぁ業務内容は普通じゃ無いがな。
「おはよー今日も仕事頑張ろうねぇー」
「あ、はい」
「元気ねぇなー元気よく行こうぜ?」
「ハハハ…」
背中をバンバン叩いてくる糞上司。自分のテンションを他人に押し付けてくるなよハゲ。
「うわぁ嫌な上司ですね。呪詛っちゃいます?」
「やめとけ。そもそもお前呪いとかできるのか」
「できますよー。でも人殺しちゃったら悪霊になっちゃいますからね」
「そうしとけ。人なんて殺すもんじゃねぇ」
「ウヘヘ。私のこと心配してくれてるんですか?」
「そんなんじゃねえよ。知ってる奴が人殺したら単純に嫌だろ」
「それもそうですね」
「これよろしくねー」
「はい…」
俺の机に積み上がっていく仕事の山。少しは自分でやれよ。
「もうみんな自分の仕事押し付けてくるじゃ無いですか。少しは嫌って言ったらどうです?」
「仕事の奴とは表面上でも仲良くやるのが社会人てもんだよ」
「ムムム……」
「ちょっとお前何処いくんだよ」
俺と話してたらあのハゲ上司に向かって行った。何するつもりなんだ。
「!?なんだ急に寒気が。それに肩も重いなぁ…」
「ふふふ…嫌でしょう、嫌でしょう」
「何してんだあいつ」
まぁ少しはスッキリしたな。後でお礼でもしとくか
「まだ帰らないんですか?」
「これが終わったらな」
「終わるんですか?終電までに間に合います??」
「いつも終電にまでは終わらせてる。安心しろ」
「頑張ってくださいね」
普段はこの時間に人がいるなんてことなかったからな新鮮だな。まぁ人じゃなくて幽霊だけどな。
「なぁ少し聞きたいんだが」
「何です?愛しい貴方だから何でも答えますよ」
「お前何であの部屋にいたんだ?」
ずっと気になってた。あの部屋は昔、強盗殺人があったって不動産屋から聞いた。話の流れからしてこいつがその被害者だと思う。だが何でずっとあの部屋にいたんだ。さっさと成仏でもすればいいのに。
「それ、聞いちゃいます?」
「まずかったか?」
「うーん…女は秘密の1つや2つ持った方が魅力的なんですよ」
「そうか」
流石にまずかったか。まぁ聞かれたくないよな。地雷だったか。
「代わりと言ってはなんですが何で貴方のこと好きになったか教えてあげます!」
「いや、いい」
「まぁまぁ。いいじゃないですか」
「はぁ何言っても無駄か」
「私が好きになったのは、まぁぶっちゃけ言うと性癖にどストライクだったからですね」
「性癖…」
そんなに刺さる要素、俺にあったか?
「やつれた感じに、目の下の隈。死んだ魚の目!もう私の性癖そのものですよ〜」
「俺そんな感じなのか」
死んだ魚の目って…結構ショックだな。
「まぁぶっちゃけ一目惚れですね。で、昨日ついに我慢できなくなって姿を現したってことですよ」
「そうか…。よし、仕事終わったから帰るぞ」
「おぉ。話聞きながら仕事終わらせちゃったんですか」
「社畜舐めんなよ」
「じゃあ帰りましょう!今日の夜ご飯私が作りますよ」
「じゃあスーパーに行って食材買わないとな」
「そうでした冷蔵庫の中身、何もないんでしたね」
「よし!これで美味しい夜ご飯作ってあげますよ」
「すまないな」
「いいんですよ。私の料理で胃袋を掴ませたいだけなので」
「そんな理由だったのか」
家の近くにあったスーパーで食材を買って家に向かう。スーパーがこの時間まで空いてて良かったな。にしても相変わらず暗いな。ここを通る時いつも不気味で嫌になる。
「……」
「うわ不気味な人ですね」
前から真っ黒な格好をした男が歩いてくる。たしかに不気味だが、辺りが暗いからそう見えるだけだろ。
「ウッ…!」
「どうしたんですか?」
男とすれ違った直後、腹に感じたことのない痛みが襲ってくる。
「ゲホッゲホッ……!」
「大丈夫ですか!?まさかあの男!」
地面に倒れこみ口から血が溢れ出る。腹が熱を持ち痛みがこみ上げてくる。恐る恐る腹の方を見ると真っ白なシャツが真っ赤に染まっていた。刺されたのか?通り魔?何で俺が?
疑問ばかりが頭を駆け巡る。買ってきたばかりの食材が地面を転がる。そういえばアイツ。アイツどこ行った。
「許さない…また私の人生滅茶苦茶にしやがって」
アイツが纏ってる雰囲気がいつもの感じじゃない。アイツ何もしないよな…。不味い、意識が朦朧としてきた。目の前がかすむ……。
「おい!お前…!ゴホッゴホッ……」
「大丈夫ですよ。安心してくださいね」
「何、やるつもりだ………」
本格的に意識が保てなくなってきた。目の前が暗く……
「ここは…」
目を覚ますと知らない場所で寝ていた。そうだ俺刺されて、それから意識失ったのか。そういえばアイツどうしたんだ!
「ッツ〜〜」
勢いよく起き上がると腹が痛む。結構血が出たから傷は深いのかもな。
「ダメですよじっとしてなきゃ。傷が開いちゃう」
「お前、無事だったのか」
「幽霊なんだから傷1つありませんよー」
「そうか。なら良かった」
「えー。私のこと心配してくれたんですか」
「まあな」
「え、え!?」
「何だよ。普段から熱烈に愛を伝えてたのに」
「私から言う分にはいいんですー」
なんだよこいつ、よく分からないな。そういえば俺を刺した奴どうしたんだ?
「お前、俺を刺した奴どうなったか知ってるか?」
「殺しました」
「は??」
今、こいつ殺したって言ったか?前に人を殺して悪霊になるの嫌だって言ってたじゃねぇか。
「何で殺したんだよ」
「顔、怖いですよ」
「答えろよ」
「……。貴方を刺した男は、私を殺した奴なんです。私が今まで現世に残っていたのはあの男を殺すためなんですよ」
「お前を、殺した…」
「知ってると思いますけど、あの家は事故物件。あの家で私とお母さんが殺されたんです。私とお母さんの幸せな毎日を壊したあいつに復讐したかった。ただそれだけです」
あの家でおきた殺人事件の犯人があの男だったのか。今の今まで捕まってなかったとは。
「そしたらお前の母親はどうしたんだ」
「お母さんは先に天国に行きました。私の復讐に付き合わせる訳にはいかないので」
「そうか。それでお前は復讐を果たしたってことか」
「そうですよ。これで私は晴れて悪霊。地獄行き決定ですね」
「馬鹿野郎!!!」
「え?」
こいつ、こいつ何で……
「あんな奴のために死んだ後の人生まで無茶苦茶にする必要ないだろ!」
「だって、私は…」
「確かに人を殺したあいつは最低だ。お前が復讐したくなる気持ちもわかる。だけど、お前はそのまま母親と天国に行けば良かったじゃねぇか」
「貴方は人を殺した私のこと嫌いになりましたか?」
言い過ぎたか?でも俺の意見は真っ当なはずだ。あんな奴のために死んだ後まで生き方を縛られる事なんて無い。アイツの顔を見ると今にも泣きそうな顔だった。こいつが俺のこと好きな気持ちは本当なのか。
「嫌いにはなってないよ。むしろ感謝してる」
「え?」
「あのまま犯人をそのままにしてたら俺は確実に死んでた。だけど人を殺したことは褒められない」
「でも私、後悔してません。お母さんの仇を討って貴方も救えた。これ以上の幸福はありません」
「そうか」
「貴方は悪霊になった私のこと側に置いてくれますか?」
「まあ、命の恩人だからな。仕方ない」
「じゃあ私のこと愛してくれますか?」
「それは…。考えとく」