守護神
遅くなってすみませんでしたぁ!
ブランがセリナの家を出て、戦場に辿り着いた頃。
「っ!家のドアが」
全速力で走って来たサラの目に映ったのは開かれたままのセリナの家。
もしかしたらあの人間達が襲って来たのかもしれない、エルフの2人は完成されたような彫刻のような同性でも見惚れる程美しい容姿をしているし最悪.....なんて嫌な予想が頭に思い浮かぶサラ。
(玄関は荒らされてない、ですね......)
部屋には荒らされた形跡が無く、何故かリビングのど真ん中に移動しているベッドだけが違和感を出している。
「っ、もしかしてもう.......っ」
まるでベッドから飛び起きてそのままにしたかのような状態から、既に2人が連れ去られたのかもしれないと思いリビングの入口で、ドサッと座り込んでしまう。
もしかしたらマスターはセリナやブランがエルフだから誘拐されるかもしれないからと思って自分に伝えるように言ったのかもしれない、それなのに間に合わなかったと思わず涙が出てきてしまう。
「う〜んやっぱりすてーきがいちばん〜」
なのにサラの耳に聞こえて来たのは気の抜けるようなセリナの寝言。
「っ!セリナさん!セリナさん!!」
「んぇ?ぁ〜に〜」
まさかベッドが部屋のど真ん中にあるのにソファに居るとは思ってなかったし、丁度サラからベッドを見た視界の死角になっていて気付かなかったサラは慌ててセリナの肩を揺らす。
「セリナさん!!起きて下さい!セリナさん!」
「ん、んんぅ〜......サラちゃん?どーしたの?」
寝起きで寝惚けながらも何故かサラに起こされ不思議に思いながら目を開くと今にも泣き出しそうなサラに驚く。
「サラちゃん?どうしたの?」
「そ、それが、村が、今皆が、それでマスターが」
「待って待って、落ち着いて?ね?一体何、が......?」
パニックになっているサラを落ち着かせようとしたセリナだが尋常じゃない慌て方に何か大事があったに違いない、という所まで考えた時に空のベッドが目に映る。
「.......ブランは!?あの子まだ熱下がってないんだよ!?」
「え、と、私が来た時にはもう居なくて」
「.......っ!あんのおばか!」
何かを感じ取ったセリナはソファから飛び上がる。
「え、あ」
「いってくる!」
そしてサラに質問させる間もなく駆け出すセリナ。
「まっ、相手は!」
1つの軍隊、高々1人で勝てる相手ではない。
そう伝えようとセリナを追いかけ外に出るサラだが。
「...........え?」
セリナの家から村までの一本道。
そこにセリナの姿は無かった。
そして村の入り口。
「ば、バカ、な.......」
まるで爆撃でもあったかのような爆音と衝撃が止み、映った光景に声を上げたのは果たして村の冒険者達の誰かなのか、それとも騎士達なのか。
ただ敵も味方も、ある1人を除いて全員驚愕の色を浮かべていた。
「驚いた?そりゃそうだ、こんな細い腕の何処にこんな馬鹿力があるんだって話だ」
そしてもう1人、反応の違う者。
たった一撃で空に飛んでいたワイバーン達を全滅させた張本人。
「っ!貴様!精霊と契約したエルフか!」
「うんにゃ、僕は精霊とは契約してないよ、っていうかまだ見た事ないし、アレって相当レアなんだからそんなポンポン出てくる訳無いじゃん」
セリナは敵のリーダーである隊長の言葉を驚く程軽く、それでいて冷たく否定する。
「ま、200年前は教えてなかったからね、今度は教えてあげるよ」
「に、200年、前、だと」
「そっ、君達のおじいちゃんのおじいちゃんくらいの世代かな?そいつらをぶちのめした時、僕は自分の能力も何も教えなかったからね、どうせ眉唾物、御伽噺とかそーいう感じで扱われてるんでしょ」
呆れたように淡々と話続けるセリナだが、この理解不能な能力を知るまでは下手に動けない騎士達。
地上に残ったファングハンター達も命令を達成するまで止まらないように調教されている筈なのに、目の前の存在に教え込まれた物よりも深く身体に刻まれている生存本能が敵対してはいけないと理解してしまった。
「なんだ、そっちのワンちゃんの方がお利口さんで物分りが良いね」
見た目は華奢な少女、どう考えても強そうには見えない。
実際、今も隙だらけで襲いかかれば組み伏せられると思える程。
「あぁ、それで僕のスキルだったね、僕のスキルは『強化』、僕自身と僕が触れた物の強化、それだけだよ」
「なん、だと」
スキル『強化』
その名の通り、魔力を消費して何かを強化する、ただそれだけのありふれたとまではいかないが珍しくもないスキル。
ただ、セリナは鍛錬と少しスキルの使い方を工夫しただけ。
「き、強化だと!?そんなスキルでこの攻撃を繰り出すのは精々2、3回が限度だ!総員次の攻撃を撃たせるな!」
例えば筋力の強化に使えば腕力や脚力が増える、魔法に使えば魔法の威力や速度が上昇する、と言ったようにかなり使い勝手の良いスキル。
の、ように聞こえるが実際にスキルを使うと魔力の消費が激しい事と、何より強化する物質へと負担が大き過ぎる当たりでもハズレでもない微妙なスキル。
例えば筋力を強化し過ぎたらその部位の骨や皮膚、血管が傷つき骨折、最悪その部位が内側から破裂する。
魔法も同様、強すぎる力を内包しきれずに飽和し暴発する。
水が半分入ったコップに3倍の水を注いだら溢れるように、器が強化された中身に追いつかなくなる、それがスキル『強化』のデメリットであり、当たりと呼ばれない理由。
そしてセリナの肉体は鍛えられているとはいえ、あくまで女性的な身体付き、ゴリゴリのマッチョのような肉体にはとても見えないから回数の限界は早いと判断した騎士達は一斉にセリナに襲いかかる。
「っ!だ」
「心配するな、大人しく見ていろ」
倒れ伏しているブランが泣きそうな声で叫ぼうとするが、その傍らでブランを守っているマスターは腕を組み勝利を確信したかのように口角を上げる。
「おぉぉあァァア!!」
そして女性の喉からは中々聞かないような獣のような叫び声と共に再び辺りに衝撃と爆音が走り渡る。
「拳を、振った、だけ?」
「ほう?お前、あいつの動きが見えるのか」
ブランのスキルによる副次効果に加えて天性の才能。
ブランが種族と性別の壁を越えて近衛騎士まで上り詰めた戦闘の才能に思わず関心するマスター。
「く、ぐっ.....」
「う、うそ、だろ」
騎士団の約7割が今の一撃で戦闘不能になり、運良く逃れた団員達は無傷で佇むセリナを見て絶望する。
「へぇ、少しめんどくさいな」
唯一セリナの攻撃をまともに防げたのは目の前に障壁を張った騎士隊長だけ。
(なんだこの威力は!?私の障壁が、スキルが破られた!?ただの風圧と衝撃だけで!?)
(あの障壁、スキルか?あのレベルの人間に僕の攻撃を防げる魔法が使える筈無いし)
砕け散った障壁、お互い思考を張り巡らせ敵の能力を計る。
「ま、直接殴れば関係ないだろ」
先に動いたのはセリナ。
「っ!!!」
「.......へぇ」
ガギィン!!!と拳がぶつかったとは思えない音が辺りに鳴り響き、再び展開された障壁にヒビが入り次の瞬間砕け散る。
(バカなバカなバカなバカな!!!?)
騎士隊長のスキルは『絶界』。
展開した障壁を境界としてその内と外の空間を分ける能力。
(ただの強化じゃない!幾ら肉体を鍛え上げ、魔力で身体を強化した上でのスキルの使用だとしてもおかしい!)
展開された障壁は空間を分ける、その時点で障壁の内と外、空間A側と空間B側から障壁に干渉する事は物理的に不可能となる。
(っ!?だと言うのにまるで水溜まりに張った薄氷のように割れる筈がない!だとすれば奴の言葉はブラフ!)
2枚、3枚と展開すればする程割られていく障壁。
(だが足を止めた貴様の負けだ!)
展開出来る障壁は別に目の前だけじゃない。
「ははははははは!油断したなエルフ!」
使用者から半径5m、その範囲内なら角度大きさ形、その全てを自由に設定し展開出来る。
例えばセリナの上半身と下半身を半分に分けるように。
「私の障壁は空間を押し出すように展開される!障壁上に障害物があればそれを押し出すようになぁ!」
そしてセリナの体を両断するように展開される障壁。
「あっそ」
その障壁を両手を振り下ろし粉砕するセリナ。
「で?次は?」
「.......な、ば」
完全に殺った、勝ったと確信した攻撃をあっさり破られ立ち尽くす騎士隊長。
「お前の障壁、設定した外側から作られてくんだろ?なら完成する前に壊せばいい」
障壁が展開されるまでのコンマ数秒。
それだけあれば障壁から抜け出す事も、壊す事も、セリナにとって容易い。
「その障壁、空間を分けるって概念を含んでんだろうけどさぁ、分けた空間の片方から押されたら、こっち側から押されたら空間とそっち側の空間の圧力で耐えれなくなる」
セリナに空間を操る能力はない。
「っ!そうか貴様のスキルは」
「さっき言ったろ、猿」
だが、セリナの起こす現象に隔てるという概念を含んだ障壁が耐えられない。
「僕はただ殴っただけ、行き場の無い力が壁にぶつかって壊れただけ」
睨む眼光は鋭く、とても少女の見た目から発せられる物とは思えない程低い声、何よりその威圧感にたじろぐ。
「.....けるな」
だが、騎士隊長である彼のプライドが負けを許さない。
「ふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなぁ!!!!!!」
激昂する騎士隊長を中心に、魔力が地面を走り色を、景色を変えていく。
「『絶障不侵空界』!!!!!」
絶障不侵空界。
スキルを極めた者にのみ発現するその者が到達した極地を現実に引き出す、『奥絶技』。
そして絶障不侵空界の能力は自身を中心に半径25mの結界を展開し、その結界内での障壁の展開とスキルの性能上昇、そして自身の強化。
具体的には、大きさによってコンマ数秒変化していた展開速度は10倍に跳ね上がり、消費魔力は激減、身体能力は3倍、そして結界内全ての物質の把握、展開した障壁を自由に操れる。
「ふはははははは!!!これが私の極地!この結界は私の領域!お前が幾ら障壁を壊せようともこの結界内では無意味!」
セリナの周りに展開される合計240の障壁。
上下左右前後に各40枚ずつ、それら全てがセリナを閉じ込めるように硬く閉ざされ、空中には凡そ50枚の剣状の障壁がもし仮にセリナに破られたとしてもその僅かな隙を狩るように待機している。
「どうした!言葉も出ないか!貴様が200年前の災厄だとするなら手足を削ぎ落とし我が国でその報いを受けさせてくれる!」
展開された障壁はセリナが動くスペースすらなく、宣言通りセリナの両手両足を障壁ごと切り落とすように新たに4枚の障壁が展開されていく。
「っ、ぃや、やめて」
「心配するなと言っただろう」
結界に巻き込まれたブランとマスター。
騎士隊長の能力を知っているブランは今度こそダメだと絞り出すかのようなか細い声を出すが、この状況でなおセリナの勝ちを信じているマスターに驚く。
「良い機会だ、覚えておけ。結界型の絶奥技は確かに引きずり込まれた時点でほぼほぼ負けが確定する」
絶奥技には何種類か傾向がある。
その内の1つが今展開されている結界型。
世界を塗り替え自身の世界を展開出来る結界内に閉じ込めてしまえば勝ちと言われる程の能力。
「だが自分も結界型の絶奥技を展開すれば、ぶつかり合い混ざり合い、自分と相手の2つの結界の能力が発動され、相手の結界の効果を潰す事が出来る」
結界型の絶奥技は世界という白紙に絵の具で色を塗るような行為。
赤色の絵の具で塗られて塗りつぶされるなら青色の絵の具で塗り替えれば良い。だが、余程力の差が無い限りは2つの結界は混ざり合い互いに能力を潰し合う事になる。
「そ、んな、悠長......な」
「ダメですブランさん!無理したら」
震える身体を無理矢理動かそうとするブランをサラが止める。
そんな事をしている内にセリナの四肢を両断する障壁はとっくに完成していた。
「な、ぜだ......ここは私の、私の結界、私の世界、それなのに、なぜ」
だが砕けたのは障壁の方。
そして次の瞬間、セリナが地面に拳を叩き付ける。
「結界型の絶奥技、その弱点は結界そのものを破壊される事」
景色が戻っていく中、呟くように解説を進めるマスター。
「本来結界の形は使用者が自由に決められる、だがどんな結界にも必ず端はある。ならそこを壊し抜け出す、と言うのが一般的な攻略法。」
まぁあの馬鹿は抜け出すくらいなら結界そのものを壊してしまうがな、と呆れたように解説を終える。
一方、呆然とする騎士隊長。
その目の前で最後の障壁が砕け散り辺りに衝撃が走る。
「尻尾巻いて逃げろ、そして伝えろ、これ以上この村に手を出すなら200年前の惨劇を、今度は半壊で済まさない」
残っている騎士達は1割弱。
対してセリナは、かすり傷1つ負わず息切れ1つしていない。
圧倒的な力の奔流、概念すら押し通す力の前に見逃すと言われた騎士達は誇りも矜恃も任務も投げ捨て我先にと駆け出す。
「.......ふぅ」
残ったのは倒れ伏す騎士達と呆然とする村の冒険者達、そして一仕事終えたかのように息を吐くセリナ。
「う、そ、1個小隊を、たった、ひとりで........」
そして呆然と、信じられないというように呟くブラン。
座る事すらままならないのか、サラに支えられながら座るブランはあの部隊の事をよく知っているからこそ、この場で1番驚いている。
騎士隊長、ガトルガ。
現在、ヒュラマイト内で『最硬』の称号を与えられ、彼が戦場で傷付く事はなく、彼の護衛任務の成功率は100%、決して破られない砦。
その砦が、まるで子供が紙を破るかのように容易く、圧倒的な力で崩された。
「さってと、ブ〜ラ〜ン〜?」
そんな人が怒りを含ませた満面の笑顔で自分に向かって来たら怖がるのも無理はないと思う。
「ひっ」
「あ、あのセリナさんっ、えっとブランさんは」
「サラちゃんシャラップ」
「ひゃい!」
あくまでブランを狙って来たのだがブランに罪は無いと言おうとしたサラだがセリナの一言で黙らされてしまう。
「こんのおばか!」
「〜〜〜っっ!?」
そして硬直したブランの頭にセリナの拳骨が落ちる。
「全く!何で1人で飛び出すかなぁ!?君はまだ体調悪いんだしそんな状態で外に出たらまた悪くなるでしょうが!」
「???」
てっきり捨てられる、この村から追い出されると思っていたブランは斜め下の言葉に状況が掴めず頭を押さえながらきょとんとする。
「まったく、何かあったら起こしてって言ったのに起こさないし、病人なのに勝手に出歩くし、治ったらおしりペンペンだからね!」
「どうした?自分の事でも振り返っているのか?」
「マスターは黙る!」
(セリナさんのおしおき.....はっ、私は何を!?)
不純で邪な考えをしているサラは置いておき、未だにきょとんとしているブランをお姫様抱っこで抱えるセリナ。
「んじゃ、マスター後はよろしく」
「........はぁ、まぁ良いが後で顔は出せ、いいな?」
「はいはい、分かったよ」
後ろの惨状を見ろと言いたいし、その元凶の7割はお前だし復興を手伝えと言いたいが解決したのもこのアホだから仕方ないと何時ものように呆れたため息と共にセリナを見送るマスター。
「とは言え、今日は簡易的な結界を張って凌ぐ、明日から復興だ!良いな!?」
立ち去ったセリナを見送った後、残っている冒険者達に大声で指示を出してから村人の方にも説明に向かう。
なんだかんだ村1番の苦労人であるマスターにとっては、今日の出来事も平常運転、日常の一コマだった。
ご読了ありがとうございました!
今回、解説が多かったのですが、これが現段階での限界でした.....
多分次の戦闘はもっと戦闘をメインに書ける筈?
次回はセリナの能力の説明とブランへのお説教?になります!




