看病
「家に着いたら直ぐに薬を作るからね、もう少しだけ我慢だよ」
村の中を風を置き去りにして駆け抜けるセリナ。
抱いているブランは熱に魘されており、苦しそうだがまだ命の危険は無いとマスターと話している時に気付いた。
それでも治療は早い方が良いのだが、そもそも熱が出ると言う事は身体が細菌に対して攻撃し身を守っている証拠、そしてセリナが今朝ブランに飲ませたスープの中には免疫力を高めたり、滋養促進効果の高い薬草を薬味として混ぜていたから身体の免疫力が高まったのかも知れないという考えに至った。
長年共に村の為に動いていたマスターと話した事で冷静になれたセリナは村を駆けながらブランに飲ませる薬、傷口に塗る薬、2種類の薬をそれぞれ今家にある応急手当て用とブランの症状に合った薬を調合するのに必要な材料と手順を纏め、そして何がブランを苦しめる原因なのか考えていた。
(向こうで発症してない、そしてこっちに来て発症した、ボクの飲ませたスープが引き金なら感染自体はずっとしていた?それならとっくに死んでる?)
か細く、細かい呼吸を繰り返すブランに負担がかからないように顔を自分の胸に抱き寄せ、駆け抜けるセリナの脳内には疑問を解こうとする程矛盾が生まれる。
初めは、ブランを拾った時は逃げて来たのだからある程度の体力や免疫力は残りつつも、相当痛め付けられたから早めに手当てをした方が良いと思っていた。
ブランが発熱してからは傷口から入った細菌が原因だと考えた。
そして村に着いてからは、免疫力が高まり、そのせいで発熱したと思った。
じゃあ、ブランは何故今まで、少なくとも拾った時には発熱していなかった?
栄養のある食事が切欠で発熱したとなったら何故今まで身体の中に細菌が居たのに、仮にも国の、しかも王女の暗殺未遂という大罪を犯したと言うのに弱った身体で逃げ切れた?
逃げ切れる程の体力がありながら免疫力が極限まで低下しているなんて事は無いだろう、でもそうじゃないと話が合わない。
グルグルと回る思考の中、住み慣れた家に着いたセリナは急いで中へと駆け込み、靴を脱ぐ間も無く二階にある寝室に向かう。
「待っててね、直ぐ薬取って来るから」
ベッドに寝かせてから早口でブランに話した後、直ぐに地下にある貯蔵庫に向かう。
「えーと、この薬と水、この塗り薬、あっ消毒する為に水を沸かして冷ましておかないと、身体を綺麗にしてあげないといけないけどお風呂は流石にダメだぁあっとそうだこの前作った薬液あるからそれにしよう、あぁそれとこの薬草をも......てないから取り敢えずこれで良いや!」
ビン詰めされた薬や乾燥した薬草が並べられてる棚から色々漁ってシャツを捲ってカンガルーのように色々と持っていくセリナ。
(飲み薬も作らないと、ブランは苦いの平気かな?熱を下げる薬だけにする?いや、先ずは免疫力を高めないと回復しないしちゃんとご飯も食べさせないといけないんだけど、でもあの様子じゃあしばらくまともなご飯食べてないよね?それなら消化に良いもの、でもなぁ栄養足りてないなら肉とかも食べさせないと、せめて海藻とか豆?それとも煮込んだら大丈夫かな?)
干してあるタオルを取って、手当てする用の桶を蹴りあげて頭に乗せたセリナは器用に上半身だけ揺らさず寝室へと向かう。
「ってブラン!どうしたの!?」
寝室へ入るとベッドから落ちたブランが床に這いずっていたので慌てて机に持って来た物を撒いてブランを抱き上げるセリナ。
「だっ、て、こんなに、きれ、な、ベッド」
「はぁ......そういう事なら気にしないで、後でちゃんと洗えば良いんだから、わかった?」
とは言え確かに汚れたままベッドに寝かせたのでシーツが汚れている。
「先に着替えよっか、それと一緒に身体も拭いてあげる」
たったったっ、と駆け足で部屋から出ていったかと思えば大きな物音がして、直ぐにセリナが部屋へと帰って来る。
「ごめんね、流石に直ぐお湯は沸かせないから水だけど頭も洗うよ」
ベッドを背もたれにして、ベッドから剥ぎ取ったシーツを床に敷き、新しいシーツをベッドに敷いた後、水の入った桶を側に置き、部屋にある暖炉に火を灯す。
直ぐにパチパチと音が鳴り、薪が燃え始めた事を確認すると上着を脱いで薄着、というか大きくて薄いシャツ一枚になるセリナ。
季節的には初夏、暖炉なんて使わない季節なのだが今のブランを裸にさせる為には部屋を暑いくらいにしておかないといけない。
布団に潜り込ませれば火は消して良いだろうし、消さないと今度は脱水症状を引き起こすのだけどかと言って今の状況だとブランの身体は寒くて震えるだろう。
若干サウナのようになって来た中、ブランに薬を溶かした水を飲ませるセリナ。
「大丈夫?ちゃんと飲める?喉痛くて飲めない?」
「けほっ、だい、じょうぶ、です」
「そっかわかったよ、それと無理して喋らないでね?もう少ししたら身体を拭いて薬を塗った後、頭を洗ったらベッドで寝かせるから、返事はしなくていい、首を振って答えてね」
2杯目の塩と先程とは違う薬を溶かした水をブランの口元へと運び、飲ませるセリナ。
「っ!、えほっ、げほっ!」
「わっ、ごめん大丈夫?お薬不味かった?」
ふるふると首を横に振って答えるブランだが、目から涙が出ていて、恐らく気管に入り込んだのだろうと思い、優しく背中を擦るセリナ。
「よし、早く身体を綺麗にしてベッドで寝ようか」
返事を聞く間もなくブランの服を脱がして包帯を解いていくセリナ。
(見た感じ、ボクが手当てした所は化膿とかしてないね、でも正直油断出来ないな)
元から化膿していた傷も夜の間にある程度は処置をしたからか、手当てする前に比べて少しマシになった気がするが、それでも外では傷口の周りにある汚れを完全には落とせなかった。
消毒効果の強い薬草を煎じてから濃度を高めた特製の消毒液、セリナの努力や後悔、経験が詰まった薬液を水に混ぜて、綺麗なタオルに染み込ませていく。
(先ずは薄めにして、タオルは洗わないで全部取り替えないと)
最初に身体の汚れを拭き取り、次に傷口を消毒する為に先ずは薄めの消毒液を作る。
「っ、ぅ」
「ごめんね、少し染みるだろうけど我慢して」
ポンポンと優しく叩くように全身を拭いていくセリナだが、傷が無い所を探す方が難しい程傷ついているブランの身体は普通に拭くとかなり痛いだろうからと真剣に、少しでも痛くないように丁寧に優しく拭いていく。
初夏に暖炉を炊いているからセリナの全身から汗が流れており、薄いシャツはセリナの身体にぴたりと張り付いており肌が透けている。
「よし、それじゃあ消毒してまた包帯巻くからね、包帯がきつかったら言ってね」
暖炉の火を消してからブランの身体に塗り薬を塗ってその上から包帯を巻いていくセリナ。
「ぅ、ぁ」
「ごめんね、出来るだけ早く巻くからね」
熱気の籠った部屋は、高熱に犯されているブランですら汗ばむのだ、健康そのものであるセリナにとってはかなり暑くシャツは透け、顔や髪からは汗が滴っている。
それでもブランの身体は震えていて部屋の温度が下がりきる前に、それでいてブランが本格的に汗を掻いて身体が冷える前に服を着させて布団にぶち込まなければならない。
(あっつっ、でもブランの身体を冷やす訳にはいかないからなぁ)
滴る汗を拭う暇も無く、急いで、それでいて正確に優しく包帯を巻いていくセリナの顔は真剣で、そしてブランに掛ける声は優しく安心させる柔らかさに満ちていた。
(取り敢えず、こんな感じかな)
初夏とはいえ、雲一つ無い晴天の真昼、そんな環境下の密室で暖炉の火を着けるなんて自殺行為に等しい。
「ブラン、これ飲める?お薬入ってない、甘い果実水だよ」
包帯に身体を包まれ、その上からブランに寝間着用の大きめのシャツと薄めのズボンを着せたセリナは荒く呼吸を繰り返しているブランに話しかけるが焦点の合わない瞳はセリナの事を正しく認識出来ていなかった。
「......ブラン、ごめんね」
先程飲ませた解熱用の薬が効いて来るまでもう少しなのだが、せめて意識が無くなる前にもう一度水分を取って貰いたいけれど朦朧としている中で水を飲ませるのはブランが噎せてしまい苦しめるだけだろう。
脱力してベッドに寄りかかり、投げ出されたように伸ばされているブランの足に股がった後、顔に張り付いているブランの長く傷んだ髪を自分と同じ長く尖った耳にかける。
そして一言謝った後、氷を1つ口に入れた後、果実水を口一杯に含んで膨らんだ頬のままブランの顔へと近付く。
「んっ......」
そしてブランの顎に指を添えて顔を優しく上に向かせた後、無防備なブランの唇に自分の唇を戸惑い無く重ねるセリナ。
普段はもう少し戸惑ったりするが、今回の場合は人工呼吸等と同じ救命行為だし、何より同性との口付けを戸惑っていて救えなかったなんて事をしてしまったら本末転倒である。
まぁ、相手が子供で無い限り男なら吐こうが噎せようが割りと容赦なく無理矢理、薬や水を飲ませるが女の子は優しく介抱する。
「ぷはぁ」
ブランからすれば朦朧とする意識の中、何が起こったのか分からないだろうが身体が反射的に口に入ってきた液体を飲んでしまう。
一方、この真夏の中で窓も開けずに蒸されたように熱い部屋の中、口移しでブランに飲み物を飲ませたセリナは自分とブラン唇の間に架けられた透明な唾液の橋が重力に負けて垂れていくのを眺めながら、遂に意識を失ったブランの脈や呼吸を確認する。
「あ、え?、ぇ?」
「ん?......ありゃ?サラちゃん?どしたの?」
そして部屋の前に居た気配が、部屋の中へと入ってくると酷く驚いている様子で、この時間ならギルドに居る筈なのに此処に居て疑問に思うセリナ。
「あ、いえ、その今日はもうギルドを閉めるとマスターが仰って、それでセリナさんの手伝いをと」
「そっか、ありがと助かるよ」
「あ、そ、そんな、それより、その、ナニを」
「何って、口移しだよ、見ての通りブランはもう寝ちゃってさ、流石に少しくらい水を飲ませておかないと」
「.....あっ、そう、ですよね」
「?」
余程急いで来てくれたのか、顔を真っ赤にしてるし、色々買って来てくれたし相変わらず優しい娘だなぁ、なんて呑気な思考を巡らせながらブランの頭が少しはみ出すように寝かせて、布団をかけるセリナ。
「外暑かったんでしょ?下のキッチンの中に冷えてる果実水あるから飲んで来なよ」
「は、はいっ」
「.....ん?大丈夫?もしかして体調悪かったりする?」
「い、いえっ!そのっ、あの、それじゃあお掃除させて貰いますねっ!」
「あ~、うん、ごめんね、ボク靴のまま入ってその辺に脱ぎ捨てちゃったから」
セリナは自覚が無いが、セリナの容姿はエルフ特有の非常に整っており、男女問わずこの村で産まれ育った子供達の多くは初恋の相手になっていてサラもその内の1人だった。
胸は控えめと言え服の上から膨らみが分かり、小柄なセリナの良さを引き立てており、透き通るような肌は数百年経ってもシワ1つ無い若々しく瑞々しい肌は永遠の17歳と呼ばれている程で、太陽に照らされると透ける程美しい銀髪は夜空に輝く月よりも美しい。
そしてそんな美しく儚さすらも感じさせる幼くも女性らしさもある容姿とは裏腹に明るく裏表の無い性格は余程捻くれた者でない限り嫌われる事は無いだろう。
そんなセリナは村にある孤児院に顔を出したり、村の学校でたまに子供達の面倒を見たり、そんな事をしている間に無意識の内に人を落としている。
例えば幼い子供達にとってはお姉さんとして一緒に遊んで。
少し成長して思春期になった子供達にとってはその容姿も相まって男女問わず初恋を無意識の内に自覚させ。
更に成長し、大人になると親戚のお姉さんのように、自分の結婚等を祝って貰ったり自分の子供の面倒を見て貰ったり。
そしてその子供達がまた成長すると同じ事を繰り返していき、世代を超えてセリナに惚れた事があると言うのはこの村の人達にとって共通の話題のようになっている。
そして勿論サラも例に漏れず、むしろサラの容姿が良いからか逆に恋人が出来ないからか、最近は少し人肌恋しいと感じている。
そんな初恋の相手が、よりにもよって自分とおなじ女性にキスをしている所を見てしまったのだ。
別に未だにセリナに惚れているという訳でもないが、それでも男女共に目を牽かれる容姿の彼女が、透けているシャツ一枚で窓から差し込む光に包まれながら汗だくでキスをしている姿を。
「って、だめだめ、私はセリナさんに恩返しに来たんだから」
初めて見る彼女の色っぽい姿に脳が焼かれていたが、もうセリナへの想いは既に初恋の相手から尊敬出来る女性に変わっているのだし、何より個人的には男性と、出来ればセリナのような男性と付き合い、子供を授かり、育てていきたいと考えている。
「......あ、掃除道具って何処にあるんだろう?」
買ってきた物を置いて掃除をしようと思った時に、ふと掃除道具の場所が分からないと気付き、再び寝室へと向かい質問しようと考え向かった先に居たのはブランの髪を洗い終わって、さっきより汗と水で濡れていたセリナの姿だった。
「......ぴゅぅ」
「サラちゃん!?」
そしてサラは逆上せたように顔を真っ赤にして変な声を出して倒れた。
ご読了ありがとうございます!
良ければ感想、評価、ブックマーク登録お願いします!




