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始まりの過去

「......マジかぁ」


見渡す限りの木々、何処かの林の中で肩を落とす少女が1人。


いや、正確には『元男性』が1人。


「神様とか会ってないし、普通異世界転生するならせめてチートの1つや2つ持たせてくれよ......」


26歳男性、恋愛経験無し、高校卒業後ブラック企業に就職し7年目にして鬱病になり退社、半年間自宅治療を続けた後にコンビニに行く途中で乗用車が歩道を暴走する事件に巻き込まれ子供を庇った、それまでは憶えている。


特に何かに優れている訳でもなかったが、それでももう一度前を向いて働こうと思った矢先の事だった。


「しかも美少女エルフとか絶対危ないだろ......」


とりあえず歩いていた元男性、いや現美少女エルフは湖に移った自分の顔を見て落ち込む。


この半年間、高校時代からあまり関われて無かったアニメに漫画、小説やらバーチャル配信者とまぁ2次元という物にどっぷりとハマっていたからこそ分かる、美少女エルフなんて自身がなったのなら厄ネタでしかない。


オークやらゴブリンやらに襲われる、村を焼かれる、主人公に惚れるヒロイン役、等々正直言って強い印象は1つも無い。


そして当然ながら自分がエルフと言う事は魔法やら魔物やら危険な存在が居る訳で、そうなれば喧嘩の経験すら無い少女は魔物に襲われて野垂れ死ぬ可能性が一番高い。


「いや!ダメだダメ!そうやって下ばっかり見てたからダメ男だったんだろ俺!」


しかし残念ながらそこまで思考が辿り着けない少女(元男性)は考える事を止めてパンパンと自分の頬を叩き顔を上げる。


「推しは前世で良いだけ推した!前を向ける事だって教えて貰った!むしろ第二の人生、いや、エルフ生を満喫する方法を考えよう!」


最初はただ、バーチャル配信者なんて自分を隠して楽に稼いでる職業だと思ってた。


アニメや特撮、漫画に小説も2次元の物だと舐めていた。


だけど、改めて触れて見ると舐めていた2次元の創作物に心を打たれ、バーチャル配信者達も苦しい過去や辛い現実と向き合って、誹謗中傷に晒されながらも画面の向こうにいる誰かに笑って話していると知って、自分ももう一度前を向けると教えて貰った。


ならば今世は前を向いて歩いていこう。


チート能力が無いのなら身に付ければ良い、そもそも転生して初めから無双出来るなんて思ってもいなかった事なのだから初めから諦めてしまえば良い。


「俺、いやボクは、『セリナ・ファウラ』!これからは推しに励まされ立ち上がって1人の子供を助けた事を誇りに思って生きていく!」


天高く拳を掲げて自分の名前を決めた元男性、いや、セリナ。


「とりあえず筋トレ!後はレベル上げ!レベルがあるのかは分かんないけど!」


なんとなく自分から発せられている美声が男口調なのは違和感があるので少し柔らかい口調で今後の方針を決めるセリナはとりあえずこの湖から流れている川を下って行く事にする。


武器も無い、魔法も使えない、エルフという貧弱な印象の種族に転性しこの世界がどんな世界かも分からないがとりあえず自分を鍛えれば何とかなる、そう信じて川を下りながら素人なりに探索をする。


「なんか、水は綺麗だけど結構ゴミみたいなのは落ちてるな」


その持ち主がどうなったのかは分からないがとりあえず、無いよりはマシだろうと使えそうな物を拾っては川で洗い、持ってみるセリナ。


火の起こし方も、サバイバルの知識も、全てゲーム実況と動画配信だけなのだがそれでもやはり何も知らないよりは全然マシで、


「ったたたった~!セリナは錆びた剣を手に入れた!」


は無いかも知れない。


実際、セリナも何度も異世界転生なんて物があれば良いのになんて考えていたが実際に起こってみると、知らない土地、知らない世界、分からない常識、電子機器等有る訳も無く、今この瞬間にでも死ぬ可能性が高い。


街に着いたとしても、そこの常識も分からず、言葉も通じるか分からない、そもそもエルフがどういった立ち位置でどのような扱いなのか、何処の誰かも分からない放浪者を受け入れてくれるような世界なのかも分からない。


何故、物語の主人公達はいきなり訳の分からない世界に飛ばされて平気な顔で戦えるのか。


何故、平気で命のやり取りをしようと思えるのか、前世なら人に平気で銃を向けるような物だ、何故それが出来るのだろう。


セリナにはそんな度胸は無い、だけど自分は立ち上がって前に進んでいる、だからいつかその時が来るまでに強くなる、そう決めた。


格好も何も付かない、錆びた剣をボロボロの鞘に収め、幾つか石を拾い、森の方へと向かう。


「とりあえず、今日はこの辺で、と」


川沿いは石があって痛いので草木を集めてテントを作ろうとするセリナ。


まだまだ明るいし、今のところ暑いくらいなので季節は夏なのかもしれないが夜になったら涼しくなってしまうからせめて雨風凌げる程度の拠点を作らなければ、と確か言っていた動画があった筈だと考え、地面に石を置くセリナ。


「んー、確かこうやって、っと!」


大きめの石を地面に置いた同じくらいの石にぶつけ、それを何度か繰り返すと石が割れる。


割れた石の断面は草を切れる程度には鋭くなる、そんな知識を参考にしてとりあえず、なるべく音を立てないように落ちている枯れ木や生えている蔦を集める。


見よう見まねで太めの木を蔦で結んで、草を刈ってきては蔦で結びまた草刈りに向かう。

そして蔦で結んだ草を木で組んだ骨組みに結んでいくこと数時間、とりあえず風はしのげそうなテントらしき物は出来上がった。


とりあえず、次は水と食べ物をどうにかしないといけない。


水はもう川の水をそのまま飲むとして問題は食料なのだが、とりあえず食べ物はその辺の木になっている果物でいいだろうか?


「衣食住ヨシ!!」


何一つ良くはないがどうせ明日には移動するし、テントもどきは木の棒から草の束が垂れているようなものなので持って歩けるから一応は進展してはいる。


「......石で研げたりしないかな、これ」


その辺に落ちてる石じゃ無理な事くらい分かっているのだが、流石に錆びた剣一本なんて不安すぎるからせめて普通の武器くらい欲しい。


「っとと、っふ!っは!っや!」


錆びた剣でも金属の塊、木の棒よりはマシだろうと素振りをしてみるが剣を振るというよりは振り回されるといった方が適切だろう、どこからどう見たって戦えそうには見えない。


「......これむしろこの辺から動かない方が良い?」


せめてまともに剣を振れるようになってから動くようにする事が決定したセリナ。



そして一週間後。



「よし!動こう!」


この一週間、剣を振り続けたり川で魚を釣ったり火を起こしてみたりしていた訳だが流石に元男とは言え、と言うか人間としてもエルフとしてもこの一週間水浴びしか出来ていないのはまだ我慢出来たがそろそろ服の替えくらい欲しくなってきた。


この世界にはレベルが存在するのか、はたまた筋力が付きやすいのか分からないが取り敢えず剣は振れるようになって来たし、この一週間こつこつと作って来た自作の持ち運びテント(束ねた枯れ草を木の棒から吊るした物)を肩に担ぎ、歩き始めるセリナ。


もう女になった事は受け入れた、まだ完全に受け入れた訳では無いがそれでもこの異世界サバイバルの中で性転換の事よりも生存の方が優先されたのだろう、初日には自分の身体を洗うのにも戸惑っていたセリナはもう居なくなっていた。


「う~んと、これは食べれる、これは痛みが消えるやつ、これは食べたらお腹痛くなったやつ」


たまたま拾ったカバンに今わかっている安全な薬草?らしき草や美味しかった果物を採りながら川を下る。


この辺りを探索していて分かったのは取り敢えず魔物はスライムくらいしか見当たらない事、川沿いにはかなり昔の物が色々落ちている事、その2つ。


因みに初めてスライムと戦った時、スライム一匹に互角の戦いをしていたとはとても言えた物では無いとセリナの心の中に仕舞っており、毎日時間があれば剣を振って素振りをしている。


「はぁ~、結構歩いたなぁ」


食べられそうな野草や果物を採りながら川を下っているセリナだが、ふと此処で何か違和感に気付く。


「あれ?」


拾ったカバンに入れておいた筈の野草や薬草、果物が無いのだ。


代わりにあるのは綺麗な宝石と錆びたチェーンのネックレス。


そもそも中身を確認しないで食べる物を入れるなという話なのだがこの状況では藁でも持って行きたいくらいなのだ、カバンなんて素晴らしい入れ物を見つけたら舞い上がるのも無理はない。


「はっ、まさか異世界特有の便利アイテムなんじゃ!?」


宝石を持って取り敢えず念じてみると確かに自分の取った野草や果物がわらわらと出てくる。


「ぃいやった!ぃよっしゃ!ったぁ!」


思ってもいないとんでもアイテムを手に入れてその場でガッツポーズをして喜ぶセリナ。


更に暗くなって来た事で分かったが、なんと川を下った先に火のような光が見えるのだ。


「......あれ?これもしかして3日もあればあそこに着いたんじゃ」


自作のテント(仮)に草のベッドと布団という無人島スタイルで星を眺めていたセリナはそんな要らない事に気付いてしまった。


「っていうか、夜空ってこんなに綺麗なんだなぁ」


テント(仮)は顔まで覆える大きさでは無いので星空が仰向けで寝れば良く見える。

そんな事にも気付け無かったくらい追い詰められていたのかと今更になって冷静になったのか、色々と不安になってきたセリナ。


そうしている間に日中歩いた疲れと素振りの疲れ、そして無意識下のストレスと恐怖による精神的な疲れが一気に襲って来たのか、ぐっすりと眠ってしまった。



そして更に二週間後。



「お、おぉ~......」


ようやく、火の光を発していた場所、街へと辿り着いた。


開けた土地に川沿いに田んぼや畑があり、町というより村なのだが、それでもかなり広い。


今セリナが立っているのは小高い丘で、この辺は整備されているのか歩きやすい道が整備されており、ここからでも分かるくらい村は活気に溢れている。


「ん?嬢ちゃん見ない顔だな?それに随分汚れてるが『流れ者』か?」

「ながれもの?」

「国に嫌気をさして出てきた奴や国から追い出された奴、国から逃げて来た奴らなんかをそう呼ぶんだよ」

「へぇ~、そうなんだ」

「嬢ちゃん、エルフだろ?どの国から来た?この辺にエルフの集落も国も近くには無いが人間の国『ヒュラマイト』からか?それとも魔族の国『デモナイト』か?」

「あ、いや、え~っと」


ヒュラマイトやらデモナイトやら言われても何処が何の国でエルフがどんな扱いなのかも分からないセリナは衛兵?らしき男性の質問に戸惑ってしまう。


「奴らの奴隷にしちゃ目に光があるしなぁ、嬢ちゃんは汚れちゃいるが明らかに奴隷って風貌じゃねぇ、それに何だその棒と草」

「えーっと、これはボクのテントみたいな物で」

「エルフにしちゃ安っぽい作りだな、嬢ちゃん、あんた本当に何者だ?」


奴隷にしては小綺麗だしなんなら錆びたチェーンに宝石が付いているネックレスを首に掛けているし、エルフにしては道具の作りが粗末でセリナは衛兵から見たら異端な存在だろう。


「えーっと、そのぉ、ボクも分からないって言うか、そもそも何も知らないと言うかぁ......」

「......はぁ、そこの建物でギルドの登録が出来る、何も分からないなら先ずは冒険者にでもなって宿代くらい稼ぎな」

「っ!通してくれるの!?」

「嬢ちゃんが悪さしたら俺の首が飛ぶけどな」

「はい!絶対にしません!」

「わーったわーった、良いからさっさと行け」

「ありがとうございます!」


この1ヶ月弱ですっかりボーイッシュな女の子と言った口調になったセリナは早速言われた建物に向かって走っていく。


「少しは疑えよなぁ」


この世界に来て1ヶ月弱、誰とも出会えなかったせいなのか舞い上がったセリナの背中に向けてぽつりと呟く男性。


「まぁ、あんな目をされちゃあ通さねぇって訳にゃ行かねぇしな」


セリナの新たな門出を祝うかのように空は青く、見ているだけで清々しい気分になる、そんな空に向けて誰に向けた訳でも無い言葉をぽつりと呟いた男性は自分も歳なのかと思いながらも新しい村人を迎えてまた少し賑やかになった村を愛おしく思う。




そして四百年の時が過ぎた頃、平穏で時々騒々しかった日常に新たな住人が加わる事はまだこの時は誰も知らなかった。

ご読了ありがとうございます!


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― 新着の感想 ―
[良い点] ボクっ子エルフの誕生! [一言] 右も左もわからない転生とは難易度高いですね 比較的安全そうな場所っぽいのが幸いでしょうか
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