邂逅/再開
よくよく思えばセリナ普通に口移ししてたやん...まぁ、治療行為だからノーカンという事で....
「おはよ、ブラン」
「おはようございます。セリナ」
翌朝、昨日の悶々とした気持ちなんて無いかのように挨拶を交わす2人。
今朝の特訓はお休み。昨日恐怖で漏らしてしまう程力の差がある相手と対峙したり、色々連れ回したりしたから疲れが溜まっていてそんな状態では逆効果だろうと止めたのだ。
「今日は昨日の子の様子を見に行くよ」
「はい。無事に治っていると良いのですが」
「多分大丈夫だよ。テリブルドラゴンの血だから純血の龍族よりも強い身体に成る筈だからね」
「でも、そんなに強い龍の血を飲んで死んだりしないのですか?」
たった1瓶で人間から獣人へと変化してしまうのに副作用が無いのならこの世から人間は居なくなる。
「勿論死ぬ事もあるよ?っていうかそのまま龍の血を飲んだら9割で死ぬ。ボクは身体の再生能力を強くする他の素材とかで死なないようにはしたけどそれでも完全じゃない。後は本人の気持ち次第って奴かな」
「因みに今までそういった事をした事は」
「あるよ。まぁ、邪な気持ちを持っていた人は死んだけどね。自作自演で毒を飲んでボクに頼み込んで来たけど、最後は嫌だ助けてくれこんな筈じゃなかった、って言って泣いてたよ」
「そんな物を飲ませたのですか!?」
思ったよりも危ない薬で驚くブランだが、人間から獣人へと変化するのだ、当たり前と言えばそれまでだろう。
「まぁ、今回の子は大丈夫じゃない?結局服用直後に痛くてショック死するのが死因だから多分耐えると思うよ。一応、痛みを緩和する効果のある物も混ぜたけどまぁ焼け石に水だね」
結局あそこまで毒が回っていたら毒で死ぬか種族が変わる痛みで死ぬかの2択だ。
だが、セリナはあの少女は耐えるだろうと確信している。
聖獣の卵。それも街1つくらいなら買えるくらい価値の高い種族の卵だ。そんな卵を4つ。自分の身体を犠牲にしてでも卵を守り抜くと強い意志を持っていたのだ。それが善か悪かは分からないが少なくともあれだけボロボロになりながらも卵達に傷1つ付いておらず、籠ですら綺麗な状態だったのだ。
「まぁ、どんな子なのかはこれから分かるよ」
「はい」
朝ごはんを食べ終え、身支度を整えた2人はギルドへと向かう。
「おはようございます。セリナさん、ブランさん」
「おはようございます。サラさん」
「おはよ、サラ。マスターは医務室?」
「はい。既に保護した方は目を覚ましているのでお2人が来たら2人で医務室に来て欲しいと言伝を預かっています」
その言葉を聞き、ピクリと身体を震わせるブラン。
「....ん。わかった、ありがと」
そしてブランの手を引き、サラに礼を言ってから医務室の前まで歩くセリナ。
「どうする?会う?」
身分の高いであろうヒュラマイトの少女。
ブランを奴隷のように扱っていた貴族や必死に強くなりその身を呈して王女を守ろうとしたのに濡れ衣を着せた王族、再び奴隷に堕とされたブランを買って使おうとした貴族、ブランにとってヒュラマイトの身分が高い人間というのは欠片も良い思い出もイメージも無い。
「無理しなくても良いんだよ。怖いなら」
「いえ、大丈夫です。セリナが側に居てくれますから。だから、安心です」
「....そっか。偉いぞブラン」
自分より少し身長の高いブランの頭を撫でるセリナ。
セリナが昨日まで会わせていなかったのはブランのトラウマを刺激すると思っていたからだ。
拾った時、あんなにボロボロに傷付けられていて、その辺の山菜やキノコ、根菜を煮込んだスープを飲み涙を流す程美味しいと喜んだくらいまともな食事もして来なかった、そんなブランが貴族の少女に良い印象を持っている筈が無い。
マスターからの言伝に2人でと入っている以上ブランにも関わりのある相手なのだろう。
(もしブランを傷付けるような奴なら、その時は....)
殺す。
基本的に人は善悪問わず助ける。だから今回も助けた。だが、助けた相手がどうしようも無い悪だと決めたらその力を惜しみなく振るい、苦労して助けた相手だろうが殺す。
自分が助けた相手が人を殺す人間ならどうする?そう問われた時に迷わず殺すと即答出来る。助ける相手は選ばないが生かす相手は選ぶ。それがセリナが400年かけて決めた人助けのルール。
「それに、昨日のドラゴンより怖い相手なんてそうそう現れませんから」
「....ごめんて...」
思ったより逞しいブランに、しゅん...となって長い耳を垂れ下げて謝りながらも扉を開けるセリナ。
「...........え?」
そこに居たのは頭から龍の角を生やした黒髪に赤いメッシュの入った美少女。
思ったよりも早く適応したのか、少し身体が火照った様子だが夜中の間に身体が変わる痛みに耐えきったのだろう。その精神力は純粋に賞賛出来る。セリナは聞いただけだが種族が変わる時に感じる身体の痛みは身体の血管という血管が内側から燃やされ無数の針で突き破られる痛みらしい。
「.......シー.....ナ....?」
シーナ。
それはブランの本来の名前。
セリナからブランという名を貰った時に、それまでの絶望と共に捨てた母親から貰った唯一の贈り物。
だが、ブランにとって、その名は不幸と苦痛の象徴。
「違う。今のこの娘はブランだ。お前達の玩具じゃない」
名を捨てる、名前も無い、そう言ったあの時のブランは全てに絶望していた。
生まれた時から奴隷という最低な身分に堕とされ、まともな生活すらさせて貰えず日々壊れていく母親を見て次は自分だ、自分は壊れないように死なないようにと耐え忍び、自分の母親が別の誰かに買われ、次は自分なのだと怖くなり逃げ出し10歳で残飯を漁る日々を送った。
その後、王女に拾われ騎士として12歳からずっと辛い訓練を強いられ、王女のお気に入りだからと女の騎士達から陰湿な虐めを受け、男の騎士達からはエルフという種族の特性上日々美しくなっていく身体を狙われた。
そして唯一、かろうじて信じる事の出来た王女の暗殺の濡れ衣を着せられ、嫉妬し虐めて来ていた女騎士達に無意味な拷問をされ、再び奴隷に堕とされ逃げ出した。
幼少の頃から壊れないように死なないようにと耐え忍び、逃げ出し、その繰り返しだった人生。シーラという名前はその辛い過去の象徴なのだ。
「.....」
セリナは以前のブランの名を知らない。過去も、境遇も、何も知らない。
でも、ブランに対してシーラという名を呟いた少女はブランの事を知っている。そしてブランが肩を震わせている。
「お前は、ブランにとっての何だ?悪趣味な奴隷の主人か?それとも玩具扱いする下衆か?ブランが残飯を与えられているのを見ながら美味い飯を食べていた屑か?」
セリナにとってそれだけで目の前の少女を殺すには充分過ぎる理由。
喉元に突きつけられたハルバードの先端が少女の喉に突き付けられる。最高位の龍の鱗を紙のように切り裂ける刃は少女の喉から薄っすらと血が流れ何時でも容易く殺せると物語っている。
「......そう、ですね。私は、彼女の、主人....でした」
何よりもセリナの本気の殺気。
それだけで常人なら失神してもおかしくない。
そんな中、自分にとって不利な、殺されてしまうような発言を認める少女。
「そうか。死「待て、セリナ」...何、マスター」
そんな状況を壊したのはベッドの隣に座っていたマスター。
「この娘からある程度の事情は聞いている。この娘はむしろブランの恩人.....と言うには少し及ばないが、それでもブランが今生きているのはこの娘のおかげだ。武器を下ろせ」
「.......」
無言で武器を引き、少女を見定めるように睨むセリナ。
「......ふ、ぅ」
傍らに居たマスターでさえ止める事を躊躇する程の殺気を向けられていた少女はか細く息を吐き、その瞳には薄っすらと涙が溜まっている。
「それで?そいつの正体は?」
「.....この娘は」
「い、え。自己紹介は、自分で出来ます」
まだ震えが収まらない声でマスターを止めた少女は立ち上がり頭を下げる。
「私は、『元』ヒュラマイト第1王女、シャルロット・ライト....ライト、という名は捨てたので、今はシャルロット、です」
つまり、正真正銘ブランの元主、という訳だ。
「........は、ァ?」
高貴な身分だという事は分かっていたが、まさか第1王女、国でも5本の指に入る権力者とは思っていなかったセリナはブランの方を見ると、ブランはこくりと頷いた。
流石のセリナも困惑を隠せない。
何せこの400年、何度も対峙して来た敵国の王女なのだ。
「この方は、私を拾ってくれた、方です。でも」
「私の命を狙う輩に冤罪を着せられた、それがシー....ブランが亡命した切っ掛けで、同時に私が亡命した切っ掛けでもあります」
「どういう、事?」
ブランは冤罪だと、シャルロットは訴えたのだがエルフという種族が側に居て、その扱いに対する報復だと誰もが決めつけ、シャルロットは成人の儀式の最中に暗殺されかけた上に儀式も中断されたから気がやられているのだと自室での療養を強制させられた。
それがブランを助け出せなかった理由。
「私を暗殺しようと企んだのは私の愚妹、第2王女なのです。彼女は非常に嫉妬深く、エルフという最美の種族の少女を侍らせている上に生まれるのが少し早かっただけで次の女王だと言われている私が面白くなかった、だから私を暗殺しようと企み、そして失敗したからその罪をエルフであるブランに擦り付けたのです」
頭を下げたまま語るシャルロット。
「私はこのままではいつの日か暗殺されるだろうと思い、あの国に見限り、此方へと亡命した。その道中で妹の手の者から毒と呪いを受け、せめてこれだけは渡そうとこの村までやって来たのです」
そしてベッドの傍らにあった聖獣の卵が4つ入った籠を持つシャルロット。
「....それで保護して貰おうって参段?たかが聖獣4匹で?」
「貴女にとってはこの聖獣達も子犬同然でしょうね。ヒュラマイトに天災として語り継がれ、国屈指の実力者を軽くねじ伏せ、かつて国を半壊させる程の実力を有する貴女なら」
「そりゃどーも」
「これは、元々私が集めていた卵達。王女という立場上、下手な贈り物は出来なかったから、成人として認められると同時に近衛騎士と任命するつもりだったシーラ....いいえ。ブラン。貴女への、贈り物です」
ブランの前まで歩き、ブランへと卵達を差し出すシャルロット。
「この程度で私が無視して来た事を許されるとは思っていません。ただ、あのまま私の近衛騎士と成っても、そしてこのままこの村で暮らすとしても、貴女は悪魔に狙われる。だから、この卵達を貴女に渡すつもりだだたのです」
差し出された籠。
「シャルロット、様.....」
「もう、様は付けなくて良いわ。私はあの国の王女じゃないんですもの。叶うのなら平穏な場所で暮らしたい、わね」
「え、っと....」
王女の本音。
立場に縛られがんじがらめになっていた少女の本音は嘘偽りなく。
「......聖獣の卵は魔力を通した者を主として認める。そこに他者の干渉は一切無い。大丈夫だよブラン、少なくともその卵達は、これから生まれて来る命は君の味方だ」
「.....わかり、ました。頂きます」
差し出された籠を受け取ったブラン。
「そしてセリナ様。貴女には伝えなければならない情報が」
「情報?」
ヒュラマイトが再び侵攻を企んでいる。
その程度ならセリナも薄々気付いている、だがセリナを封印する手段の事までは知らない。
「......................え?あ、れ?」
「....っ!まさか」
その事を伝えようとしても『分からない』。
その事だけ。封印の事だけ、すっぽりと記憶が上書きされている。まるで紙に書いた鉛筆の文字を油性のインクで黒塗りして元の文字を読めなくしたみたいに。
「呪いも受けた、って言ったよね」
「っ、記憶改竄の、じゃあ」
何かに気付いたシャルロット。
その瞬間、窓ガラスが割れる音が響きシャルロットの心臓へと矢が迫った。
ご読了ありがとうございました!
シャルロットはこれからどうなるのか、そもそも黒髪美少女なのになんでバチバチの英名なのか、後者は黒髪美少女を出したいけど世界観的に日本名で名付けられなかったからです!




