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解毒

「さ〜ってとっ。今日も1日働きますか〜」

「はい。頑張りましょう」


ブランが薬草摘みの依頼を始めて3日後の朝。今日もまたギルドに寄って何時もの薬草摘みの依頼を受けに来た2人。


「あっ、セリナさん。おはようございます。ギルドマスターがお探しでしたよ?」

「ん?りょ〜かい。ブラン、ちょっと待っててね」

「はい、わかりましたっ」


この数日でセリナにすっかり懐いたブランはまるで主人に忠実な大型犬みたいになっていた。もしブランがエルフではなく獣人だったのならきっと尻尾をブンブンと振っているに違いない。


「ブランさん、どうですか?この村には慣れました?」

「はい。セリナにも良くして貰って、初めての経験ばかりです」


元騎士なだけあって礼節を弁えているブランはセリナとは真逆で、セリナに振り回されながらも初めて食べる物、初めて経験する事に内心、心を弾ませていた。


「私は物心ついた頃には路地裏で残飯を漁ったりしながら過ごしたり、騎士になってからも冷えた乾パンや残り物しか与えられなかったので毎日の食事が特に楽しみですっ」

「そ、そうですか....よ、良かったですね....あはは....」


思っていた数倍は重たい過去をサラッと話すブランに顔を引き攣らせながら答えるサラ。


「.....」

「......」

(....気まずい!)


基本的に自分から話す事は無いブランはセリナに言われた通りその場から1歩も動かず待っており、まるで主人の事を待っている大型犬のようなのだが、ブランからサラに話しかける事も無く、サラもブランに話しかけて変な地雷を踏みたくないので話しかけられない。


「..................」

「...........................」


(セリナさん、早く帰って来てぇ〜!)


受付嬢という仕事柄話を聞くのは慣れているし元々聞き上手だったサラなのだが、マトモに話した事無い+口数少ない+最近村に来た+重たい過去持ちというコンボを繰り出してくるブラン相手に話しかけられる筈も無く、セリナが早く帰って来るか、誰か依頼を受けに来て欲しいと願うのだった。




一方、ギルドの医務室。


「.....まだ、目、覚まさないんだ」

「あぁ、その上この熱でな。お前に幾つか薬草を摘んで来て欲しいんだ。お前ならどんな薬を作れば良いか分かるだろう?」

「........ねぇ。これさ、ただの熱じゃない、よね」

「だろうな。医者から渡された薬を飲ませても大した効き目は無かった。だからお前を呼んだんだ」


酷い高熱、これがもう3日も続いているのだ。幾ら解熱用の薬を飲ませているとはいえそろそろ体力の限界の筈だ。


「...一か八か、効き目の強い薬...強過ぎる薬で熱が下がるか賭けるしかない、のかな。多分これ、病気とかの熱じゃなくて毒とかの類の物だ」

「やはりな。道理で解熱剤を使っても熱が下がらん訳だ」

「もっと早く診てあげれば良かったね」

「ここまで酷い高熱になったのは今朝だ。実際、3日前に診た時はお前も風邪の類だと思っていただろう?」


何処でどんな毒を受けたのか分からない上に時間も経っている以上、知りうる中で1番強力な薬で賭けに出るしか無い。


ただ、効果が強い分副作用も強い。


「もう少し頑張ってね」


セリナが手を翳すと、ぽわぁっと優しい光が少女を包み込む。


解毒用の魔法。セリナは簡単な物しか使えないがそれでも気休めにはなる。


(これ、相当強い毒だ。その辺の毒蛇とか魔物なんか比にならないくらい強い毒。1種類じゃない、何種類も組み合わせて出来た毒だ)


身なりが良い事から貴族同士のいざこざで傷を負い、逃げて来たのかもしれない。


(あの卵が原因?あれ、聖獣の類の卵でしょ。マスターもそれが分かってるからギルドで預かってるんだろうし)


赤、青、白、緑の卵。綺麗な籠に入れられているその卵からは神聖な力を感じる。


聖獣、といってもピンキリで、強いと国1つ容易に滅ぼせるくらい強いが大概は人に乗り物として飼われる事が多いくらい戦闘能力が低い。


魔物はヒトに対して攻撃的だが、聖獣はヒトに対して友好的な所が最大の違いだろう。


「とりあえず、これでまだ少しはマシでしょ」

「だと良いがな。俺も解毒魔法や回復魔法は使ってみたが全くと言っていい程効果が無かった」

「この村に来てから3日、その前から毒に苦しんでる.....むしろ、よく此処まで辿り着けたね。とっくに死んでもおかしくないだろうに」


少女の正体、卵の謎、誰に毒を盛られたのか、疑問は尽きないがとりあえず動かなければこの少女は死んでしまう。


「明日までには薬を作る。それまで死なせないで」

「....あの娘も、ブランも連れていくのか?」

「その方が良いでしょ、今も狙われてるんだし。まぁ、この3日怪しい気配は無いから大丈夫だと思うけどね」


マスターは今のブランではまだ、セリナに着いて行けないと心配するがセリナはそれを含めて今日中には薬を作り終えると言っている。


実際、セリナの感知出来る範囲の外から監視されていた場合セリナの留守に村がまた襲われてしまう。ブランには悪いが今日1日我慢して貰い、急いで薬を作る事にした。


「ブラン、お待たせ」

「いえ。何か重大な事が?」

「まぁね。今日はちょっと過酷だけど.....まぁ、頑張って」

「?...はい。わかりました」


きょとんとしながらセリナについていくブラン。


そして僅か約30秒後。



「ぅぅぅぅぅ.....」

「流石に速過ぎたかぁ....これでも大分抑えたんだけどなぁ」


村から凡そ300km離れた崖にやって来た2人。


30秒で300km移動したのだ、秒速10km。ブランがスキルを使い自力で出せる最高速度の約15倍。


ブランの感覚ではこれでまだ抑えているのだが、一般人からしてみればロケットにしがみついて移動しているような物だ。マスターもこうなると分かっているのならもう少し注意してくれても良さそうな物である。


「こ、此処、は....?」

「ん〜....秘境ってとこかな?」


空気抵抗やらなにやらを全てスキルで踏み倒したセリナは汗1つ掻いておらず、ブランは今にも吐きそうなくらい顔を真っ青にしている。


「っし、それじゃあ殺るかなぁ」


うぇぇぇ、と四つん這いになって本当に吐きそうになっていたブランの背中をさすっていたセリナはブランがある程度落ち着くと立ち上がり大きく伸びをしながら崖下を見下ろす。


「な、なに、を?....ぅぇ」

「あっごめんブラン。気付かれちゃったみたい」

「ふぇ?」


しゃがんで崖下を覗くように見ていたセリナ。



「......あ」

「グォォォォォォォォオオオオオオオオオオアアアアアアア!!!!!」


崖下から現れたのは巨大なドラゴン。


ヒュラマイトの兵士達が乗っていたワイバーンとは格が違う。牙の生えていない仔猫と飢えたライオンくらい危険度が違う。


「ひ.....ぁ.....」


生物としての格が違う。


生存本能が早く逃げろと訴える。


魔物として、種族として、生物として上位に君臨するドラゴンという種族の中でも上澄みも上澄み。この周辺に小鳥一匹住んでいないのはこのドラゴンの縄張りだからだ。


カチカチと歯を鳴らし腰を抜かしてしまったブランとドラゴンの目が合う。


「っ!ぁ、ひ、っ、ァ」


目が合った瞬間鮮明に感じ取った死のイメージに恐怖が抑えきれない程肥大し、翡翠色の綺麗な瞳からは涙が流れ、溢れた恐怖と共に失禁してしまい地面を濡らしていく。


「大丈夫、落ち着いて」


そんなブランの頭を撫で優しく話しかけるセリナ。


セリナの声を聞いて呼吸という行為を思い出したかのように、ひゅぅひゅぅと喉を鳴らしながら息をして、涎も涙も小便も垂れ流しながらようやくドラゴンから目を離す。


「そう。そのまま、ゆっくり、落ち着いて息をして。大丈夫」


そっとブランの頭から手を離したセリナはドラゴンを睨みつける。


「ッ」


それはブランが感じ取った、生物の生存本能が震え上がり逃亡を促す死の恐怖。


「直ぐに、終わらせるから」


恐怖したのはセリナ、では無い。


恐怖したのはドラゴンの方。


生物の頂点に君臨するとすら言われているドラゴン。生き物としての基本的な能力が強くそれだけでも他の生物を圧倒する上に個々の特異な能力まで持つ個体まで居るドラゴンが、自分の頭よりも小さいエルフに死の恐怖を感じている。


ドラゴンという魔物はただ強いだけでなく賢い生物だ。だからこそセリナ・ファウラというエルフには背中を見せて全力で逃げても敵わないと理解出来てしまった。


だからこそ、戦い、隙を作って逃げるしか無い。大木のような腕を振り被り、岩を容易に切り裂く程の鋭さを誇る巨大な爪をセリナに振り下ろす。



ギィィィィィイイイイイイインッッッッ!!!!!



ぶわぁッ、と座っているブランが転がってしまう程の衝撃と強風が辺りを駆け抜けブランの真横の地面にドラゴンの爪が突き刺さる。


「グォォォォォオオオオオ!!?」


ブランに向けて振るわれた訳ではない。セリナが『切り裂いた』ドラゴンの爪が宙を舞いブランの真横に落ちたのだ。


「.....へぇ。思ったより硬いんじゃん」


セリナの華奢な身体からは信じられない程の膂力。その膂力で振るわれたのは槍斧。


ハルバードと呼ばれるそれは長い柄の先端に穂先、穂先の直下に斧頭、その逆側に鉤爪を取り付けた槍と斧が融合した万能の長柄武器。

穂先で突く。斧頭で叩き斬る。鉤爪で引っ掛ける。鉤爪や後端の石突、柄そのもので叩く。


全長2メートル。余計な装飾等一切存在しない。セリナが自分で鋳造、作製、そして改修し続けた特製の武器。


その最たる特徴はセリナがスキルで強化し続けた結果、魔剣や聖剣の類と同じ存在と化した事。


魔槍斧(まそうふ) イノセンス』


穢れのない、純潔の意味と同じ名を関するこのハルバードはドラゴンの指を切り裂いたのにも関わらず一切返り血が付着していない。


「でぇぇりゃあ!!」


跳び上がり斧の部分で思い切りドラゴンの頭部を叩き斬るセリナ。


脳までは到達出来なかったが龍の硬い鱗を砕き眉間から血が噴き出るドラゴン。そして当然のように宙を蹴り、ドラゴンの背後へと回ると斧の逆側に取り付けられた鉤爪で翼を引っ掻くように切り裂く。


「ゥゥゥゥ、グルァァァァアア!!」


両翼を切り落とされ眉間を割られ怒りに任せて振るわれる腕を柄で受け止め、弾き上げてドラゴンの体勢を崩したセリナはその場から一瞬でドラゴンの眼前に跳ぶとその勢いを乗せた槍の刺突でドラゴンの脳天を貫く。


「っと」


兵力の弱い国程度なら単独で落とせるであろうドラゴンをあっという間に倒してしまったセリナには返り血一つ着いておらず、息切れ1つしていない。


(まぁ、気絶しなかっただけ上出来かな?)


てっきり気絶くらいはするだろうと思っていたセリナは失禁程度で済んだブランに関心する。


あのドラゴンに命を狙われたら一般的な冒険者や戦士なら即気絶するレベルなのだがブランは耐えきった。流石に腰を抜かして逃げる事は出来なかったが。


「ブラン、とりあえず近くに湖があるからそこで水浴びしてから動こっか」


『マジックポケット』と呼ばれる収納アイテム。400年前にこの世界に来たセリナがカラナシ村に辿り着くまでに拾った宝石がぶら下がっているネックレス型の魔法のアイテムにドラゴンの遺体を収納したセリナはブランをお姫様抱っこで抱き抱える。


「ぁ、ぅぅ.....」


漏らしてしまった恥ずかしさと涙や鼻水でぐちゃぐちゃになっている恥ずかしさと腰が抜けて動けない情けなさで何も反応出来ないブランは顔を赤くして俯き、恥ずかしそうに小さく唸る。




だがブランはこれが目まぐるしい1日の始まりに過ぎないと知らなかった。




ご読了ありがとうございました!


しばらく更新出来て無かったですが、此方の方もボチボチ更新していこうかと思ってます!


そして怖くてお漏らししちゃうブランちゃん....

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― 新着の感想 ―
[一言] 毒に侵されたままで死んでいてもおかしくないとまで言われてますし それでも生きているのは何かしらの執念とでもいうのでしょうか。すごい ブランの聖水…
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